23話 風水魔導師(テュト視点)

「テュト君。ディアナさんがいつでも助けに来てくれるとは限らないわよ? こんな所に潜っていては」


 パンネさんが、テルアーブ王国テリルアブル市の北にある山岳地帯の洞窟に潜っている僕にそう言う。つまり、パンネさんも一緒に来ているという事だ。


「パンネさん、僕だって結構腕上げてるんだから。いっつもいつもディアナさんの助けを必要とするわけじゃないよ」

「うーん……。君、今年で14歳か。生意気盛りよねぇ……」

「自立心に富んでいるって言ってよ」

「実力が伴っているならね。そうとも言えるけど」

「僕に実力が無いって言ってるの?」

「そうねー。君が持っている自信ほどには実力は無いと思う。同年代の子供たちからすれば、相当に腕は立つと思うけど」

「ぶー。なんかバカにされてるの? 僕」

「違うわよ。14歳でまともに戦えるだけでも大したものだけれど。それでも、危ないかもしれない。そう言っているだけよ……って、出たわよ」

「ん?」

「狙いのオークよ。結構数がいるわ」

「よっし! 普段から鍛えてる剣技を披露してやるよ!」

「向こうも戦意満々みたいね。人肉の味を知っているみたいだわ」


 僕は、ロングソードを構え、ラージシールドとプレートメイルの高い防御力を信頼して、オークの群れに突っ込んだ。

 オークは、人間を一回り小さくしたサイズの豚頭のデミヒューマンだ。よく、森の奥や洞窟の中に集まって暮らしている。時折大勢で棲み家からでてきて、人里を襲って子供や女性をさらって喰ってしまう、凶悪な魔族なんだ。だから、人間はこのオークを忌み嫌って、出来る限り数を減らそうとしている。つまり、首を狩って地方領主や治安軍に献上すると、幾ばくかのお金がもらえるというワケ。

 僕は今の所。ディアナさんに完全に食べさせてもらっているので、これくらいのお小遣い稼ぎをして、ディアナさんに何か贈り物をしたいと思っていたんだ。それで、パンネさんについてきてもらってこのオークの洞窟に潜っていたんだよ。


「らっしゃあ!!」

「ガファッア!!」


 僕のロングソードとオークの持っている石刀が火花を散らす。でも、オークはあんまり頭が良くない。僕がわざと作った隙に引っ張りこまれて突っ込んできたところで、一匹の首を斬りとばした。


「さ、次だっ!!」

「グアッイ! ゲガゲゲウ!!」


 なんだか、オーク語で何かを喋っているみたいなオークたち。暫くすると、洞窟の奥の方から凄い数のオークが飛び出してきた!!


「やばっ!! 数が多すぎるっ!! パンネさん、逃げようっ!!」

「逃げるったって……。後まで回り込んできた敵でいっぱいよ? テュト君……」

「え?」

「どうするのよ? このままじゃ私たち、オークの晩御飯になっちゃうわよ」

「くっそ……。とにかく、退路を作るために斬りまくってやる! パンネさんは、攻撃を食らわないように注意していて! 僕みたいにプレートメイルもラージシールドも無いから」

「そりゃ。私だって、乙女の大切な身体に傷なんてつけたくないもの」

「じゃ、行くよ! 出口に向かって飛び出そう!!」


 とか言っている間にも。オークたちの数はうじゃうじゃと増えている。ここは考えていたよりも遥かに大きなオークの巣だったんだ。何てことだ。


「ねえ。君たち困ってるの?」


 爽やかながら凛とした声が。洞窟の出口の方から聞こえた。


「だれ?! 助けてくれるの?」


 人間の声だったので、僕は思わず大声で助けを頼んだ。


「うん。いいよ、助けてあげる」


 男の子の声だ。その声が、呪文の詠唱に変わっていく。


「風の精、シルフィード。汝の鋭くも奔放なる力にて、邪なる者たちを切り裂け!! 『風精刃エアスラッシュ』!!」


 その詠唱が終わったとき。無数の風の刃が洞窟の中を乱舞して、オークたちを大量に切り裂いた。


「ヴェア!! ガグン、ガキグア!!」


 オークの生き残りが、オーク語で大声で叫ぶと。オークたちは洞窟の奥に引き上げていった。


「ふう……。大丈夫だった? 君たち。オーク狩りもいいけど、この洞窟は危ないよ? いくらなんでも広すぎるし、棲んでいるオークの数も多すぎるからね」


 洞窟の出口まで出て行った僕たちを待っていたのは、アイスブルーの髪の毛を持った、爽やかな表情と整った顔を持つ、魔導師のローブを着た少年だった。

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