19話 ヒューマンキマイラ

「……コイツは……!」


 私達は、目の前に現れたその異形の存在に息をのんだ。


「オゴ……? ゴオウ……ン?」


 それは、幾人もの人間の死体を合成したものであるかのような、幾つもの腕と、多くの脚。そして、顔が、頭が。全身の至る所から飛び出している、化け物というにもまだ足りない忌々しくも哀れな存在だった。


「……人間の死体を……。合成して、コアに生命の石を埋め込んだ存在か……!」


 私は呻いた。これに似たような実験をしていた魔界の博士を思い出してしまったからだ。

 パスアル。六大魔族軍団の屍鬼しき魔族軍団の参謀である、パスアル・ドゥラという奴の事を。


「アイツ……。この王墳墓に何をしおったのか……」


 私は、ある信条を持っていて。一つの命を、死ぬときまで一つの命として全うさせるという信条だ。だが、あのパスアルは。


『生き物とは組織の集まりであります。機械の組み合わせをするように、組織を組み合わせて新しき命を作る。それの何が悪うございます?』


 と、私が魔王の座にあったときに持論を述べて、私の不興を買い、一時権限を剥奪されていた奴だ。アフルギアスめ、アイツを復権させおったか。

 そんな事が頭をよぎった。


「気を付けろ!! コイツは元は人間の死体だが、コアの生命の石の力によってアンデッドではない存在になっているヒューマンキマイラだ! 『解呪』も、ホーリーウィップの特性効果も発効しないぞ!」


 パンネ嬢とマーフ嬢が顔を引き締める。そして、パンネ嬢は杖を構えて味方の負傷に対して即座に治癒回復を行えるように、杖の先端に魔力を溜める。

 マーフ嬢は、ホーリーウィップを腰に吊るして、暗器であるダートナイフを構える。

 そしてテュトは、正面から斬りかかるべく剣を構え、攻撃に備えて盾を備える。

 私は、恐らくこの手の化け物の弱点でありかつ、私の最も得意とする炎系の魔法を両腕に掛け、殴りかかるつもりである。


「ウギ……ッイ? イウギギギギギ!!」


 ヒューマンキマイラには、朧気ながらに知性という物があるらしく、こちらの敵意に対して反応して、敵意を露わにしてきた。


「来るぞ!!」


 ヒューマンキマイラは、その巨体には似つかわしくない俊敏さで飛び掛かってきた!


 最初の狙いになったのは、パンネ嬢。どういう事だ? 戦力としては一番低いパンネ嬢を狙ってくるとは。


「ヒヒヒ……。シスターハ味方ヲ回復スルカラナ……。マズ、潰ス!」


 幾つかの頭の中の一つが、妙に明晰な口調でそう言った。

 しまった。コイツは朧気どころか、確かな知性を持っている! 幾人もの人間の脳が含まれているのだから、そうであってもおかしくはない。


「パンネさん!! 僕の後ろに!」


 テュトが叫ぶ。そして、ヒューマンキマイラとパンネ嬢の間に割り込んで、盾でヒューマンキマイラの攻撃をガードした。だが、吹っ飛ばされてパンネ嬢と共に倒れてしまった。


「ちっ!! 変な知恵があるんだね! そういうの大っ嫌い!」


 マーフ嬢が、ダートナイフを投げて、ヒューマンキマイラに突き立てる。


「ツギハオマエカ? 人間ヲ殺スノハ、タノシクテナァ……。ヒッヒヒヒ!!」

「うえっ……! やだ、こっち来ないでよっ!!」

「ダァメー! ヒャッハハハハ!!」


 マーフ嬢に飛び掛かってくるヒューマンキマイラであったが。このときには、私は体勢を整えていた。


「おい、このバケモン。いい加減にせんとぶち殺すぞ?」

「……? アアン? 魔法使イカ? オ前。サガッテロ、死ニタクナケレバ」

「言う事だけは大きいな。まあ、実力の違いという物を……」


 私は、両腕にかかっている炎魔法の拳の温度を跳ね上げる。赤かった炎が、青くなり、やがて白熱する。


「思い知れっ!!」


 そして、魔法拳をヒューマンキマイラに叩き込んだ。


「ゴブハッ……! グアッ!!」


 私の拳が叩き込まれた周囲は、見事に溶解、蒸発し。ヒューマンキマイラの中にあった生命の石がゴロリと転がり出てきた。

 それと同時に、ヒューマンキマイラは完全に動かなくなった。

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