20話 王墳墓の中心部

「んーっっと……、開きましたよ! この大部屋のカギ」


 王墳墓内を粗方探索し尽くし、どうやらここが中心部だと思われる部屋を見つけた私達は、マーフ嬢の言葉に反応して、戦闘準備を整える。


「これだけの警戒をして、ミイラ兵やヒューマンキマイラを配置していたんだ。このお奥には、大物が待っている可能性がある。覚悟を決めないといかんな。迂闊な気持ちでかかるわけにはいかん」


 私は、パンネ嬢にテュトとマーフ嬢、それに自分自身に回復用の神聖術を掛けるようにと指示を下した。


「さて、いよいよです。なかなか手こずらされましたが。この陰鬱な王墳墓の探索も終わりですね」


 テュトとマーフ嬢に回復呪文をかけて、自分自身にもそれを施したパンネ嬢がようやくだというように言葉を放った。


「そうだな。この先に何が待ち構えているのか……。嫌な予感が当たらねば良いが……」


 私は語尾を小さく囁くようにしながらそう言った。


「……やはりか……。貴様」

「おやおや? 何者ですかね、君たちは。私が実験場として使っているこのイナダールの王墳墓に。何か御用ですかな?」


 扉を開いて、大きな部屋をしばらく奥に進むと。

 そこにいたのは奴だった。パスアル・ドゥラ。この男が屍鬼魔族軍団の参謀に復位したのはどうやら疑いようもない。王墳墓の死体たちが一斉に動き出したのも、恐らくはこいつの仕業に拠る物だろう。


「貴様は相も変わらず、ロクでもないことをしているようだな」

「……ほう! ほほう! 貴女は誰かと思えば! イルディアナ様ではないですか! 人間に擬態して、人間の子供を連れて! 何をなさっているのですか? 魔王も落ちぶれるとこうなるとは! 哀れすぎて言葉も出まっ……!」


 そこまでパスアルがべらべらと喋ったところで。私は鉄拳を叩き込んだ。魔法? そんなものは掛けてはいない。


「がはっ!! なんという腕力……っ! そのような姿に擬態していても、流石は元魔王……! 実に……! 実に興味深い! 貴女を素体にして、新生命体を作れば、どれほどの物が出来上がるのか! 興味が止まりませぬな!」

「黙れ変態! そのような忌々しい視線で私を見るな!」

「おやおや。彼我の戦力差を弁えていないと思われる。では、参りましょうか! 『屍鬼召喚ビカム・アンデッド』!!」


 奴がその呪文を唱えると。周囲の床から、むくむくと死体が起き上がって次から次へとこちらに向かってくる!


「アンデッドの群れだ! 三人とも、もうコツは掴んでいるだろう! 落ち着いて対処すればどうということは無い! アンデッド共の対応は君たちに任せる! 私はこの忌々しい男を叩き殺すっ!!」


 私そういうと、両手から炎の剣を現出させてパスアルに斬りかかった!


「おおっと危ない! 『魔法結界マジックシールド』!」


『魔法結界』の効果により、遠隔からの炎の剣の攻撃はパスアルには届かない。


「くっ!! 小癪なっ!」

「いえいえ。そこまでお褒めに預かるほどの事は致しておりません」


 こうなれば、先ほどヒューマンキマイラを葬った魔法の拳を叩き込むのが有効なのだが、さて。

 この狡猾な男が、それに対する備えをしてないとも思えない。


 となれば。そうだな、有無を言わさず消し飛ばせる手段が。無くはない。


「パスアル。貴様は私の正体を知っているようだが……。ならば、この術の事も知っているな?」

「? 何のことですかね? 元陛下?」

「忘れているか。ならば都合がよい」


 私はそういうと、全身の「」を練った。「練氣れんき」というモノだ。


「何をしているのですかな? 攻撃に移らずにただ突っ立って。為すすべもなくなりましたかな? ファハハハハ!!」


 挑発をしてくるパスアルに何も答えず。私は充分に気を練る。

 そして、充分に氣が練られたと判断した時点で。


「『氣功弾きこうだん』!!」


 という言葉と共に、魔法ではない生命エネルギーを叩き込む術をパスアルにぶち込んだ!!

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