18話 王墳墓の戦い

 ここでは、パンネ嬢の「解呪」が猛威を振るった。それはそうだ、王墳墓の中で動き回る物と言えば、ほとんどが王の殉死者のミイラ兵ばかりなのだから。


「はーっ……。流石にキツイです……。こんなに連続で『解呪』を使うのは初めてですから」


 連戦に次ぐ連戦で、パンネ嬢がかなり疲弊している。


「そうか。では、暫くは私が戦う。君たちには経験を積んでほしいので、私は手出しを控えていたが。危ないときは助けるよ」


 私はそういうと、両手に炎精霊サラマンディの炎を纏わせた。そして、そのまま王墳墓の中を降ってゆく。


「テュト。君はまだ戦えるか?」

「僕は大丈夫。意外と疲れてない」

「ならば、よし」


 マーフ嬢が、眼鏡にマフラー姿はそのままだが。何やら感情を動かしたような様子を見せる。


「私もまだ大丈夫です。それにしても、ディアナさん。貴女は、これだけ戦っても汗一つも浮かべていませんね。人間離れしてますよ」

「ん? まあな。鍛えればこうなるというだけの話だ。伊達に長生きはしていないよ」

「? ディアナさんはそんなにお歳なのですか? 見た目は若い女性ですのに」

「まあ、アンチエイジングの秘訣はあるがな。実際の所、肉体の老化を抑えるという事はそう難しいことではないのだよ」

「はー……。ぜひ、その秘訣。教えていただきたいです」

「むやみやたらと長生きしても、幸せとは限らんぞ。人間は苦難を生き抜き、幸せに死んで行ければそれでいいと私は思う」

「……まるで。人間を超えたものの言う言葉みたいですね」

「ある意味ではな。私は人間ではないかもしれんからな。詳しくは言わんが」


 私がそこで言葉を止めると、テュトがこちらを見てニヤッと目配せしてきた。


「ディアナさんは、いくら人間離れしていても人間だよ。それでいいでしょ? マーフさん」

「う、うん。ていうか、人間以外の何者にも見えないし」

「でしょ? ならそれでいいんだよ」


 あはは、と笑ってテュトが先に進もうと言い出した。

 私達は、それに従って歩を進める。


「おかしい」


 私はぽつりとつぶやいた。


「? 何がおかしいのです? ディアナさん」


 パンネ嬢が、私が突然歩を止めたことに訝し気な表情を浮かべる。


「この先に、何かがいる。そしてそれは……」

「?」

「アンデッドとか、魔物とか。そう言った物ではない、禍々しさと邪悪さを持っている。なにか、変なものがいるぞ」


 テュトが、剣を抜いて構え、私に言う。


「どっちにしてもそいつ。倒さなきゃいけないんでしょ? 先に進もうよ、ディアナさん」


 マーフ嬢もテュトと同意見のようだ。


「この王墳墓のアンデッドの発生源を封印してしまえば、故王の遺産の権限は私達に移る。それがイナダール王との契約だったはずです。先に進みましょう」


 ホーリーウィップを両手でビシンと引っ張って、そう言い放った。


「……わかった。進もう。だが、この先で待ち構えている物は、とても忌々しい物であることは覚悟しておいてくれ」


 私はそういうと、濃密な邪気の満ちるその回廊を先に進んだ。

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