17話 イナダールの王墳墓

「生キタイ、生キタイ、生キタイ!! マダ、マダ、マダ!! マダ生キタイ!!」


 それは凄まじい光景だった。王墳墓の周囲にはゾンビの大群がうろついていて。既に死んでいるにも関わらずに、強烈な生への執着を燃やして、生の匂いを漂わせる私達を襲ってきた。


「テュト、剣で切り払え! パンネ嬢は、アンデッドを成仏させる解呪アンカース! マーフ嬢はホーリーウィップでゾンビどもを縛り上げろっ!!」


 私は、そう三人に指示を飛ばすと呪文詠唱に入る。


「魔界の炎竜、フレインガンズよ! わが呼びかけに答え、召喚されよ!! わが望むは汝の炎の息吹!」


 そこで一呼吸おいて。

 私は呪文の発効のワードを吐いた。


「『魔炎竜の息吹ファーゼグァード』!」


 呪文の詠唱が終わると、空に黒い穴が開き、そこから巨大な炎竜が頭を出した。そしてブレスを吐き、目の前に広がっていたゾンビの群れを一掃する。


「うあおおおおっ!!」


 残りのゾンビにテュトが斬りかかり。


「哀れなる肉体に囚われし魂を解放いたしませ。聖神ニルダよ! 『解呪』!」


 パンネ嬢が解呪によって数体のゾンビを一気に無力化する。


「行くよ! せっかく買って貰ったんだから! ホーリーウィップ! 縛せ!!」


 マーフ嬢がホーリーウィップでゾンビを縛り上げると、鞭の特性効果でゾンビの肉体が溶ける。


「ふう。一段落はついたな。では、王墳墓に入るとするか」


 私たちは、燃え尽きて灰となったゾンビたちに僅かに憐憫の情を覚えつつも、王墳墓の入り口に登って行った。


「開きそうか?」

「もうちょっと待ってください。意外と難物です、この鍵は」


 マーフ嬢が王墳墓の入り口の扉を開くのに四苦八苦している。ふーむ、この分だと中はもっと厳しいな。私はそんな事を思った。


「開いた! 扉を開きますよ!」


 鍵が開いたらしい。マーフ嬢が大きな王墳墓の扉を開く。


「っ!! マーフさん、危ないっ!!」


 凄い反応速度だった。テュトが、マーフ嬢にいきなりタックルをかけて吹っ飛ばしたのだ。あの軽量の体のどこにあんな力があったのか。

 しかし、テュトがその行動をしなければマーフ嬢は命を落としていただろう。

 大量の矢が入り口の奥から発射されてきたのだから。


「ウソでしょ?! この王墳墓、設計したやつの性格悪いよ!!」


 マーフ嬢もテュトも怪我をしなかったことを確かめたパンネ嬢が、ようやくこの王墳墓に対して悪態をつく。


「まあ、盗掘を避けるためにこれくらいの仕掛けはしているのが王墳墓という物だ。しかし、ここまで殺意剥き出しの墳墓も珍しい」


 私は妙に感心してしまった。この分では、この墳墓を作らせた王、相当な量の宝物を自分の副葬物としてこの墳墓に収めているな。そんな事も思い、マーフ嬢に向かって言葉を放った。


「マーフ嬢。恐らくこの墳墓の宝を持ち帰れれば。君の顔は治る。だが、それに張り切ってこの墳墓の中で死んでしまっては意味はない。私もフォローに回るから、自分の命を大切にな」


 私がそういうと、マーフ嬢はごくりとつばを飲み込んだ。


「私も感じています。この墳墓には、膨大な宝が眠っている。私の顔を治してもお釣りがくるどころの話じゃない膨大な宝が。そんな事を思わせる、罠の張り具合です」


 なるほど、マーフ嬢にもそういう事はわかるか。まあ、本職の盗賊だしな。


 私はそう思うと、無言で王墳墓の奥に進んだ。三人も後をついてくる。

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