16話 イナダール王国

「暑い……」


 三人が言う。

 灼熱の太陽ギラギラ、砂を含んだ熱風が吹く。日よけマントなくしては熱射で火傷すること間違いなしの直射日光が差す砂漠の真ん中。

 私の転移術で降り立った場所は、そんなところだった。


「あそこに、街並みが見えるだろう。アレがオアシス都市のイナダールだ」


 私が指さした先には、蜃気楼のようにゆらゆらと動く街並みが見える。


「蜃気楼じゃないんですか? アレは」


 パンネが私に問うが、私は首を振る。


「この国には以前にも来たことがある。座標は間違っていないはずだ」

「では、行きましょう」


 マーフが暑さに耐えかねたのか、フラフラとした足取りながらもそちらに向かう。

 すると、その足元の砂漠にボコリと穴が開いた。


「いかん! 大アリジゴクだ!!」


 私は思わず叫んだ。


「え?」


 そう声を出したマーフは、あっという間に穴に引きずり込まれる。


「ちっ!! 仕方がない!!」


 私はそういうと、空中に飛んで。大アリジゴクの巣の直上に位置を合わせると、魔法を放った。


「『氷槍撃アイスジャベリン』!」


 マーフが大アリジゴクの巣に飲み込まれる前に、私が放った氷の槍は大アリジゴクを貫いて、凍結させて爆散。一撃で死に至らしめた。


「は、はう。死ぬかと思いました……」


 テュトとパンネに穴から引っ張り出されたマーフは、息を切らしてそう言った。


「ここら辺にはな、ああ云った結構危険な魔物が現れるから、重々注意することだ」

「はっ、はっ、はい……。わ、わかりました、ディアナさん」


 マーフはいきなり怖ろしい目にあったので、態度を硬直させて私に答える。


「しっかし……。凄まじいわよね、ディアナさんの魔法って。あのサイズの魔物を即死させるなんて」


 パンネが腕を組んで、私をそのように評する。


「僕も、ディアナさんの魔法は初めて見るけど。本当に凄いんだな……」


 テュトがそう言う。なるほど、そう言えばテュトが直接に私の魔法を見るのはこれが初めてだったような気もする。


「まあ、ともあれ大きな被害はない。道を急ぐぞ、砂漠で干物になりたくなければな」


 私はそういうと、三人を急がせた。


「ぽえー。砂漠の真ん中なのに、凄い繁華じゃない。この街」


 イナダールの街に辿り着いた時、三人が驚いたような声を上げる。


「それはそうだ。砂漠の交易の中間地点として、水は湧いているし、水を売っているので、その代わりに手に入る物資も多い。世界有数の富裕国家だよ、イナダールは」


 私はそのように答える。


「なんだろう? いい匂いがするよ?」


 ある店舗からたゆたっている煙の匂いを嗅いで、テュトがそんなことを言う。


「あれは、乳香にゅうこうという物だ。香炉で火にくべるとえもいわれぬ香りがする高級アロマだよ」


 他々諸々。私達はしばらくイナダールの街を歩き回って、街の風情を堪能して。


「では、王宮に向かおうか。王墳墓のアンデッドモンスターの封印の仕事を受けに行こう」


 私はそういうと、三人を連れてイナダールの王宮に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る