15話 四人パーティ

「ディアナ様。こたびは私なんかで良いんですか?」


 私とテュトの家に、パンネ嬢が訪ねてきた。なぜか、旅行鞄を持って。


「君なら、多分。教会の職に未練は無いと思ってね。教会上層部に随分不満を持っていそうだったからさ」

「そりゃもう。あそこの教会、ブラック職場ですから。給料安い、ハードワーク、セクハラ、パワハラ。四拍子全部そろってますよ。私はただ、神聖術を極めたいからシスターの道に進んだだけですのに」

「それで、私が送ったスカウトの手紙に乗ってくれたと。そう思っていいのかな? その大荷物を持ってきたという事は」

「もちろんです。私の目的は、神聖術を究めること。他の事はどうでもよくて、もちろん手段も選びません」

「そうか。こちらも君が来てくれると助かる。ここ一年弱で、少しは神聖術の使える呪文は増えたかね?」

「2、3個ですね。増えたことは増えました。ただ、勉強以外の雑務でこき使われていたので、この職場も見限り時かなぁ、って思っていた時に。ディアナ様からの手紙を読んで。天啓かと思いましたよ、ホントに」

「ふむ。おい、テュト、それにマーフ嬢。この子が四人目だ。パンネという名前のお嬢さん。職業はシスターで、神聖術を使う娘さんだよ」


 私は奥の部屋に向かって声をかけた。


「え? パンネさんが来てくれたの?」


 テュトがてとてと走って玄関に出てきた。


「あら、テュト君。久しぶりー。ヴィっ♪」

「ひさしぶり、パンネさん。ヴィっ? ってなに?」

「Vマークの事。仕事辞めてきちゃったー♪ どう考えても、こっちのほうが楽しそうで」

「うーむ。今の所の僕らの収入源って、ディアナさんが王宮務めで稼いでるお金くらいしかないよ?」

「それはそれよ。流しの治療師でもやって、私も稼ぐわ」


 奥の部屋から、眼鏡とマフラーをフル装備のマーフも出てきた。


「盗賊のマーフです。こちら、名刺……」

「あ、どうも。シスターのパンネです。前の職場はやめてきたので、個人的な方の名刺でよろしければ、これどうぞ」


 パンネとマーフは名刺交換をして、お互いにそれを名刺入れにしまった。


「あの……。この部屋暖かいですよ?」


 パンネが、マーフのマフラー姿に疑問を覚えたかのように尋ねる。


「寒がりなんです、私」


 無難に言い逃れるマーフ。さすがに、パンネ嬢にあのケロイド顔を見せるのは勇気がいるようで、今はそれを避けた。パンネはそこそこの美人であることも、マーフに引け目を覚えさせたのかもしれない。

 私に言わせれば、マーフは別に不細工だというワケではない。ただ、ケロイドの痕が酷く目立って、彼女の本当の顔立ちや表情まで人は見ずに嫌悪しているだけだ。


「ふむ」


 パンネは、何か感づいたらしいが、何も言わずにその場を流した。


「さて、四人そろったことだ。酒場にでも行って、食事を摂ろうか。今回は顔合わせという事で、代金は私が持つ。好きに飲んで好きに食ってくれ」


 私はそういうと、三人に身支度をさせて。自分は財布の革袋の中にまとまった額の金を入れた。


「ビール! 大ジョッキでー!!」


 パンネ嬢が、景気よくぐいぐい飲んでいる。この子は酒豪なのか? もう3杯目だぞ? 食べている物も、ハムやらチーズやら豆やら。後は魚の燻製とか、ソーセージとか。とにかく酒のアテになる物ばかりだ。

 テュトはテュトで、焼肉や焼き鳥や焼き豚や。とにかく肉ばかりをガツガツと食べている。いや、米の飯もやたらと食べる。野菜も食え。

 マーフ嬢は、お寿司とか天麩羅とか。東方の料理をやたらと好んで食べている。まあ、今の所一番高いのは、ようやく交易路がこの西方と繋がって、その調理法や食材が入ってきている東方料理だ。実は、マーフ嬢が食べているメニューが一番高い。

 いや。実際の所は、私が食べているステーキとか、キャビアのクラッカー乗せとか、ウニやら香草サラダやらが一番高いのかもしれない。それに、私は魔界にいる時からやたらと高いワインを好む癖があって。最近は控えていたのだが、このときは金が多少あったので1本金貨2枚もする高級ワインをクーッとやってしまっている。

 まあ、明日にはイナダール王国に旅立つ準備を始めるのだ。こう言った席で、お互いの親交を深めておくのは大切な事だ。


 が。


 いくらなんでも、この三人、食べ過ぎという物ではないだろうか?

 少々お財布の中身が心配になってきた私であった。

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