13話 装備一式プレゼント
「テュト。君の誕生日はいつだ?」
「忘れた」
「……忘れるか? 普通。自分の誕生日だぞ?」
「僕、記憶が一部だけどないんだ。父さんと母さんがデコンに殺されて。姉さんがナイフをひっつかんでデコンに斬りかかって、逆に斧で頭をカチ割られたとき。家族の事は、もう忘れようって思ったんだ。覚えていても、辛いだけだから」
「……そうか。済まん……」
「ディアナさんが謝る必要はどこにあるの? ディアナさんは、僕をどうしようもない境遇から救い出してくれたじゃないか」
私は、実はある物をテュトの誕生日にプレゼントしようとしていたのだが。誕生日を聞いた途端にこんなヘビーな返事が返ってくるとは思いもしなかったので、思わず口ごもった。
「そうなんだが……。まあ、言ってしまえば、君の誕生日に贈り物をしようと思っていたのだが、誕生日を覚えていないのならばいつ渡しても同じだな。少しこっちの部屋に来てくれ」
私はそう言って、私達が借りている借家の一部屋にテュトを連れて行った。
「これ。この箱だ。開けてみてくれ」
「? 随分とデカい箱だね?」
「いいから」
「うん……」
テュトは私に促されるままに箱を開ける。そして、目を輝かせた。
「剣と鎧と盾だ!」
「この前の廃鉱山の探索で見つかった鉄鉱石で作ってもらったものだ。質はかなり良いものが出来たと鍛冶屋が言っていたぞ」
「やった、やった! これで僕も冒険に出られるってことだよね? ディアナさん!!」
「最初は私がバックアップについて行くがな。パーティメンバーが見つかったら、自分たちのパーティで世界を回ってみるのもいい。私はこの国の守護者としての契約期間がまだ終わっていないので、そう遠くまでは出られないのだが」
「うん。僕も早く、一人前の勇者として一人で立てるようになりたいよ」
「今年で13歳になったのだよな、君は。テュト」
「うん。冒険者になるのは、16歳になるまでは無理らしいけど」
「公的にはな。私的目的の冒険は許されるぞ。ギルドに参入する為の年齢制限が下限16歳だというだけだからな」
「うーん……」
テュトが顎に手を当てて、胡坐をかいて何かを考えている。
「ん? 何を考えているんだ? テュト」
「いや、さ。13歳の僕とパーティ組んでくれそうな相手って、誰がいるかと思って。剣術道場の仲間たちじゃ、まず無理だし。アイツら冒険者になるというよりは騎士や戦士になるために剣術学んでて、将来は雇われ者になる気らしいからね」
「ああ、そういう事か。そうだな、私には癒しの術は使えぬから、例のパンネ嬢にでも頼んでみるか? 一応、連絡先は私が知っているぞ?」
「あの人、忙しいでしょ? シスターのお仕事で」
「あの子は、神聖術が学べれば何をしていても構わないと言っていたからな。世界を旅して、優れた僧侶や司祭に出会える機会があると持ち掛ければ動くかもしれん」
「うーむむ。パンネさんも、僕と最初に草原で魔物狩りしたときよりも神聖術の勉強も進んでいるだろうし。あの人が仲間になってくれたら心強いんだけど」
「剣技は、君が使うし。攻撃魔法は私が使う。回復用の神聖術がパンネ嬢とすると、あと一人欲しいのは、盗賊かな?」
「盗賊かぁ。何かと器用な職業だよね」
「そうだな。遺跡の鍵がかかった扉を開けたりもできるからな」
「金銭管理を任せたら怖そうだけどね。あんまりお金に綺麗なイメージが無い職業だから」
「財布のひもは、僧侶や聖職者に預けるのが一番だぞ」
「うん。ああ云う人種は、無駄遣いには縁がなさそう」
「とにかく。明日から街を回って腕の良さそうな盗賊を探してみよう。パンネ嬢には私の方から手紙を送っておく。君のパーティへのスカウトのな」
私はそういって、夕食を作りにかかる。今日はビーフシチューだ。煮込み料理が多いような気がするが、私はこれが好みなのかもしれない? この前はロールキャベツだったし。美味しいから良いんだがな。うむ。
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