11話 ダンジョンに潜る
「地図を作るぞ」
私は、テュトにそんな声をかけた。
「地図? どこの地図?」
「とりあえず、この街の地図だ」
「なんで? 売ってるよ? 地図屋か本屋さんに行けば」
「マッピング能力を養おうと言っているんだ。方向感覚や、距離感覚。そう言った物を君に身に着けさせようと思ってね」
「うーん。それ、なんの役に立つの?」
「ダンジョンに潜った時や、普通に森の中にいるときに迷ったりしないようになる」
「……なるほど。勇者って、冒険するものだし。冒険に地図作りの能力が必要だってことだね?」
「そういうことだ。ダンジョンの奥で秘宝を見つけたとしても、地上まで持ち帰るまでに力尽きては意味が無い。いきなりダンジョンに潜っても危険が付き
「面白そう。やりたくなってきたよそれ」
「だろう?」
ノリが良くなってきたテュトを見ていると、こちらまで元気になってくる。魔族人間問わず、子供という物は大切に扱うべき宝なのだなあと、私はまた思った。
「できた?」
テュトが、1週間の後に聞いて来た。
「こちらは出来た。それから、地図屋で地図も買ってきた。答え合わせと行こう」
「うん」
さて、目の前には、緻密に描かれている地図が3枚拡がった。
1枚は、地図屋で買ったモノ。
2枚目は、テュトの作ったモノ。
3枚目が、私の作ったモノだ。
「うーん……。これは」
「うん……。3枚とも、随分違う地図が出来上がってるね」
ベランダから差している太陽の光の下で、よくよく3枚の地図を見比べる。
「テュト。君の作ったほうは、距離が正確だが方向が滅茶苦茶だ」
「ディアナさんの作ったほうは、方向はあってるけど距離がおかしいよ?」
「「そもそも、この地図屋の地図も合っているのかな?」」
二人して声が揃った。そう、魔界も人間界も。地表という物は緩やかな球面からなっているので、何処を起点に地図を作るかで、紙の上に描き出した地図は歪むことになるのだ。
「まあ、本来。地図は目的地に辿り着くための物で。その要点さえ満たしていれば、特に問題はないのだがな。そう言った点では、私の作ったモノも君が作ったモノも特に問題はない。では、行ってみようか」
私はその3枚の地図を丸めて棚にしまうと、探索用の衣服に着替え始めた。
「ほら、テュト。君も着替えるんだ」
「? 何で着替えてるの? それに、行くってどこに?」
「ダンジョンに潜るんだよ。君も剣術道場に通って、もう一年近い。いい剣を与えて、冒険をさせ始めてもいいかと思ってね。勿論私という保護者付きでだが」
そう、今回潜るダンジョンは、質のいい鉄鋼石が採れるが、中に住んでいる野獣や魔物が強いという事で、結構厄介な場所なのだ。だが、私がついていればテュトは死なないだろうし、格上の相手と戦わせることでテュトに緊張感に富んだ経験を積ませることができる。そして、そこで取れた鉄鉱石でテュトに新しい剣を作ってやろうという算段なのだな。うん。
「『
私はダンジョンの入り口まで辿り着いた時。テュトに半日は切れることのない、魔法の防護膜を張った。この子には、勇者になってもらう。最初は手駒にするためにそうしようと思っていたのだが、今は気持ちがだいぶ変わっている事に気づく。
なんというかまあ、バカバカしいことに。「母心、姉心」のようなものが、私の中に発生する羽目になったのだ。本当に、なんとまあ、なのだ。
勇者になりたいというテュトの夢をかなえてやりたい。いままでのほとんどを魔王として過ごしてきた私にとって、これは珍妙な感情だったが。
いままで無防備に甘えてくる存在という物にであったことが無かった私には、このテュトの存在がひどく重く思えて。
なんとか、力を添えてやろう。そんな事ばかりが頭を占めているのであった。
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