9話 初めての戦い

 ぴょこ、ぴょこ。と。ビーストラビットが跳ねているのを後から追いかける。臭いを感づかれないように、風下から。


「とにかく。先制攻撃を取ることが大切よ」


 パンネさんはこそっと僕にそう言った。

 ぴょこ。と。跳んだあとにビーストラビットが止まった。今だ!


「うりゃーっ!」


 僕は剣術道場で使っているミドルソードでビーストラビットに斬りかかった。


「ピーッ!!」


 ビーストラビットは、いきなり僕の斬撃が体に入ったのでビックリしたようだ。悲鳴を上げる。だが、僕の斬撃は致命傷にはならなかったらしく。


「フーッ……!!」


 こちらに、赤い目を向けて怒りの表情を露わにする。

 そして、飛び掛かってきて。

 僕の左腕に噛みついてきた! 鋭い前歯が刺さって、超痛い!!


「パ、パンネさん! 左腕なおしてっ!!」

「何言ってんのよう、テュト君。その程度の軽傷、癒しの術を使うまでもないじゃない」

「ビーストラビットの前歯が刺さって、お肉抉れてるんだよ?!」

「もう、ギャーギャーうるさい子供ねぇ。ホイっと『治癒ヒール』」


 僕の腕からドクドク流れていた血が止まって、傷口が完全に治った。これがうわさに聞くシスターとかプリーストの神聖術か。凄いな!


「ほら、さっさと止めを刺してしまいなさいな。可愛い見た目してるからって惑わされてると、あの前歯が今度は喉に突き刺さってくるかもよ?」


 おっかないことを言うパンネさん。僕は、ミドルソードを取り直して、ビーストラビットに向かって再突撃。何とか仕留めた。


「はーい、よくできました♪ 自分の欠点、わかった?」

「……魔物を殺し慣れてない事……」

「はーい、その通り。君の剣には、見た限りすごい迷いがある。世の中のホントを分かってない証拠ね。とにかく、そのビーストラビットの死体、街まで持って帰るわよ?」

「持って帰ってどうするの?」

「食べるのよ。私がウサギ肉の串焼き作ってあげるから。毛皮も剥いで売るの。人間は、他の命を犠牲にして生きている生き物だって自覚を、自分の身に刻まなきゃ」

「シスターって……。お肉食べていいの?」

「ウチの宗派は生臭なまぐさモノOKな宗派だから」

「……なんかゆるいなぁ……。だから、パンネさんもなんか性格がゆるいのかなぁ……」

「何か言った? 誰がだらしないのよ?」

「いや、僕はゆるいって言っただけで、だらしないとは一言も言ってないけど」

「……そう言えば言ってないわね。あー、でも。私のアパート、掃除1か月もしてないわ、そう言えば……」

「……だらしないんだ」

「うるさいなぁ……。彼氏がいるわけでもないんだから、片付けても仕方ないでしょ?」

「パンネさん、好きな人いないの?」

「いないわよ。というか、私に今そんな余裕ないの。シスターとしてのお勤めをするだけで、結構大変なんだから。社会人って、やっぱり大変なのよ?」

「うーん……。なんだか本当に大変そうだね、パンネさんも」

「そうよ。教会の掃除やお洗濯に、司祭様方の着替えやお料理。その上で、神聖術のテストや実習もあるんだもん。もう大変すぎて頭ぐるぐるよー」

「僕の所に来たのは、仕事ででしょ?」

「うん。王宮から教会に依頼が来て、子守に向いていそうなシスターを派遣してくれって。私、妹や弟が沢山いるから、子守は得意なのよね」

「むむー。子供扱い慣れている感じはする」

「貴方だって子供じゃない? テュト君。君って、幾つなの?」

「多分、12歳くらい。両親が山賊に殺されたころが10歳だったから。それくらいだと思う」

「……これは参った。貴方、孤児だったのね。で、ディアナ様とはどういう関係なの?」

「ディアナさんは、僕の命の恩人で、保護者になってくれた人なんだ」

「……そう、あの人、そういうことするタイプには見えなかったけど。意外ね。見た目は黒髪の長身で、モデルみたいだったからてっきり子供嫌いかと思ってた」

「そんなことないよ」

「わかんないもんだなぁ、人間って。あんなに冷たそうなオーラを放っている人が、他人の子供を拾って面倒見るなんて……」


 パンネさんは、僕と二人でビーストラビットの死体を運びながらそんなことを言っていた。

 ちなみに、ビーストラビットは意外と大きくて重たい。

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