8話 お留守番(テュト視点)

「テュト君、ディアナ様はね、いま戦場で戦っているの。お戻りになられることを祈りましょう」


 僕が、剣術道場から戻ってくると。見知らぬ女の人が僕とディアナさんの部屋に居て、ディアナさんは戦場に出ているのだと言った。今朝まで、そんな話はディアナさんはしていなかったのに。


「私は、シスターのパンネ。ディアナ様が、自分が不在の間にテュト君が寂しがったり不便をしないようにと遣わされたのよ」

「……ディアナさんが戦場で戦っているって? 敵はどこのどいつさ?」

「我が国の宿敵のガエルド王国よ」

「僕も行く」

「それはダメ」

「なんで!」

「今の貴方では、ディアナ様の足手まといになる。ディアナ様がそう言っていたわ」

「……」

「悔しいの? テュト君」

「うん……。僕だってもう、剣術道場に半年も通っているのに……」

「……その程度のレベルでは、どうにもならないのよ。本物の戦という物は」

「僕だって……。戦わないと強くなれない……」

「戦って死んだら。それで終わりよ」

「じゃあ、どうすれば強くなれるってのさ!」


 僕は、僕なんか無力だって言っているようなパンネさんに腹を立てて、思わず怒鳴ってしまった。


「怒鳴らないの。そうね、普通の冒険者たちが強くなる方法。教えてあげようか?」


 パンネさんは怒鳴られてもなんという事も無いような顔をして言葉を返してきた。


「まずはね、自分の力量を図ること。それには、訓練も大切だけれど、自分より弱い魔物を倒すことで自分の力がわかる。それを繰り返して、大丈夫だと思ったらもうちょっと強い魔物に戦いを挑むの。一番無難な方法はこれね。自分の欠点とか利点も掴めるし」

「……ディアナさんは、何日くらい戻らないの?」

「さあ? 戦争という物は先の見通しがつかないものだから」

「パンネさんって、シスターでしょ?」

「ん? そうだけど?」

「癒しの術、使える?」

「初等級の物なら。だって私、まだ18歳だもの」

「じゃあ、行こう」

「ん? どこに?」

「魔物狩りだよ。僕は、剣術道場で使ってる剣があるし。弱いモンスターなら、狩れるはずだもん」

「んー……。すぐに?」

「すぐに」

「お昼ゴハン、食べてからにしましょう」


 パンネさんはそういうと、手慣れた様子でお昼ご飯を作り始めた。


「トハルの草原。ビーストラビットとか、ウルフェンドッグとかが出る、初級の冒険者が訓練場代わりに使う草原よ、ここ。ここなら、君の腕でも通用するんじゃないかな?」


 お昼ご飯を食べた後で、近くの草原に出て。くすくす笑いながら、そういうパンネさん。


「ちなみに、シスターの攻撃手段は杖で殴るくらいの事しか出来ないから。戦力としては私を期待しないでね」


 僕の後について、前には出ようとしないでそう言う。


「……僕、何かを殺すのって初めてなんだ」

「あら? そうなの?」

「何かを殺すのって、悪いこと?」

「そうねー。貴方、お肉食べるよね?」

「うん」

「だったら、間接的に殺しているも同じことだから。今更遠慮なんてしないでいいわよ。ウルフェンドッグはお肉は臭くて売れないけど、毛皮がそこそこの値段で売れて、ビーストラビットは毛皮もお肉もいい値段で売れるから。

お小遣い稼ぎをしておくのもいいんじゃない?」


 パンネさんは何だろう? えらく物腰が柔らかくてポエーッとしてるけど、この人大丈夫なんだろうか?

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