7話 要塞戦
そこでは、国王率いる騎士団とアクエス率いる、魔導師団が合流し、共に頑健なる要塞を攻めあぐねている様子が見えた。
私は、国王が座していると思われる本陣前に着地して、
「テバス国王。そちらも片が付いたようだな」
「おお、ディアナ殿か。確かに、我が国に攻め込んできた敵軍は撃退したが……。ガエルド王国の連中は、いつの間にか要塞に増援を入れておった。凡そ10000もの兵をな。こちらの兵数はと言えば、わが騎士団5000に、アクエスの魔導師団3000。しかも、要塞に籠っている敵を追い出すには、通常で言えば5倍近い兵数が必要とされるという。これでは、どうにもならぬ……」
この国王も苦労人だな。まだ、30代も半ばだというのに、国家運営の為に知恵を絞らざるを得ない。私は、同じく国を治めていたものとして、彼を労わってやりたくなった。
「敵司令官の暗殺の任を承ろうか? いかに多くの兵数を揃えていようとも、将が消えれば、その軍は軍としての体裁を為さなくなる。そこを全軍で突けば、あるいは要塞は落ちるかもしれぬ」
「確かにそれはそうだが……。ディアナ殿には無理に無理を重ねさせるようなことではないか?」
「ふむ。私を舐めてもらっては困る。この程度のことで無理と感じるようなか細い神経ではないよ、私の神経は」
「むむ……。それに、私は余りにディアナ殿を頼りすぎているような気がしなくもない」
「弱い者は、強い者を頼りながら色々と自分を磨き、やがて強くなるものだ。産まれたばかりの赤子を戦場に放り出して力を示せというような者は、気が狂っているとしか言えないだろう」
「……申し訳ない。では、頼らせていただく。国王としての重ねた歳月がたかが五年の私は、確かに貴殿の言うとおりにこの戦乱の世では赤子そのものだ。我らも自分を磨く。ゆえに、暫くは。我が国の守護者となってもらえまいか?」
国王テバスは、国王だというのに私に深く頭を下げた。そうだな、私は魔界にいる頃から、子供が好きだった。体の大きさとかそういう事ではない。保護者を必要とするものを守ることに、母性本能が喜びを感じているかのようだった。だとすれば、私も元魔王とはいえ女だという事だな、と。
私は自分の中に、妙な甘さを感じて、それが意外と心地いいことを不思議に思った。
「何だ貴様はっ!!」
私が空間転移の魔法で、司令官の部屋に突然現れると。ベッドで寝ていた司令官は跳ね起きた。
「ほう? 気が付くか。私の気配を察知するとはまた、随分に敏感な男だ」
「何を言うか! そのような濃密な妖しさを滴らせる霊気に気が付かぬとでも思ったか、この妖女めっ!! 私に何用か!!」
「ふん。私は敵方の物でね。貴様の命をいただきに推参した。潔くその命をよこせ」
「ふざけるなっ!! 私とて、この要塞の守護を任された武人だ! そう容易くやられるものかっ!!」
司令官はそういうと、壁に掛けてあった剣を手に取り、鞘を払って私に斬りかかってきた。
私は、右手の人差し指と親指でそれを挟んで止めた。
「!? 何だ貴様は! 指の力だけで、わが剣撃を止めるだと?」
「ふん。人間にしてはなかなか鍛えこんでいるようだが、それでも所詮は人間だな。お前の相手をするのも飽いた。死ね」
私はそういうと、司令官に向かって即死の呪文を叩き込んだ。
司令官は、魔法に対する耐性が弱かったらしく、一発で絶命した。
「あとは、国王とアクエスに任せるか」
私はそう呟いて、再び転移魔法で味方の陣に跳んだ。
そこからは、味方の攻勢となった。私が司令官を討ち取ったと聞くと、国王とアクエスは全軍を以って要塞に攻め寄せ、残兵と死闘を演じたのちに、要塞を奪い返すことに成功した。
まあなんにしても、頭のない組織ほど脆いものは無いという事なんだろう。
そう考えた時、今の魔界はどうなってるのかと言う事が頭をよぎったが、クーデターを起こして私を追い出した以上、私の知ったことではない。
あのアフルギアスが、自信満々に様々な新法案を出しているかもしれぬが、あの実際の魔族の生活を知らぬインテリ魔族如きに魔界が治められるとは。
私にはどう考えても思えなかった。
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