4話 二人の生活
結局、テルアーブ王に仕えることになった私は、テリルアブル市の一角に借家を借りて、テュトと一緒に暮らし始めた。
「ねえ、ディアナさん。剣術の稽古つけてよ」
テュトがそんなことを言ってくる。
「その前に飯を食べろ。腹が減っては、力も出ないぞ」
私は借家のキッチンでパンを焼き、昨晩作ったシチューを温めて答えた。
「ディアナさんって、料理うまいよね。どこで覚えたの?」
「ああ。魔王城の厨房ではよく勝手に料理をしていたものだ。自炊が好きでな」
「
「……いや、冗談だ」
「……怪しい。ディアナさんて、本当に旅の魔導師なの?」
「旅の魔導師であることは確かだ。ほら、パンとシチューだ。食べろ」
「うん! 頂きます!」
ガツガツとパンとシチューを貪り食うテュト。それを見ていると、この質素なメニューが妙に旨く思えてくるから不思議だ。
「食べ終わったよ! 稽古つけてよ!」
「皿を洗うから、少し待て」
「僕も手伝うよ!」
「では、皿を拭いて棚にしまっておけ」
「了解っ!!」
テルアーブ王国に定住し始めて、ここ一か月くらいのことなのだが。テュトはガリガリだった体にいい感じに肉がついてきて、健康的になって元気を持て余している感じだ。私は、少し考えた。このまま、この坊主を本当に勇者に仕立て上げて。アフルギアスの治める魔界に攻め込ませたら、面白いのではないかと。私は、魔界をクーデターで追い出されたが、私が敷いた魔界の法はそう簡単には潰えないだろう。だとすれば、勇者の一人や二人が攻め込んできたところで魔族は滅んだりはしない。
アフルギアスの治世が確かであれば、であるが。
それを量るためにも、手駒として勇者を作っておくのは悪くない。そんな事を思う私がいた。
「なんで!! ディアナさんは考え事しながらなのに!! 僕の木刀が届かないんだよーっ!!」
テュトの声に、ふと我に返る。そう言えば、適当に木刀でさばいているだけだったな、テュトの剣術を。
「……何でと言われてもな。何も考えんでも対応できるだけの、単純な剣筋だからとしか言えん」
「むきー!! ディアナさんは、何でも出来すぎるんだよ!」
「手を抜いて負けてほしいか?」
「絶対に嫌だよ! そんな事されたら、惨めすぎるもん!」
「ふむ。いい感じの言葉を吐くな。では、見せてやろう。ちょっとした技を」
そういうと私は、木刀を右腰に構え。呼吸を整える。
「絶対にそれ以上前に踏み込んで来るなよ?」
私はテュトに確認を取る。テュトは頷いて、木刀を構えて動かない。
「『
静かに呟いて、剣技を放った。
放った後、私はテュトの目の前に立っていた。
そして、テュトの握っていた木刀が二つに斬れて、先端が地面に落ちた。
「いわゆる、『居合斬り』という奴だ。覚えておけ」
私がそういうと。テュトは目を大きく開けて大いに驚いているようだ。
「すごい……! 全く見えなかった……。ディアナさん、剣術もできるんだね……」
「本職は魔導師だがな。必要に応じてあれこれできるようになってしまっただけの話だ」
テュトが妙に興奮して感動しているので、私は少し苦笑いしてしまった。
「では、私はそろそろ王宮に出るぞ。この街の剣術道場の入門金はもう納めたから、君も剣術道場に行ってこい」
「うん。ディアナさん、孤児の僕にこんなに良くしてくれてありがとう!」
「……あのな、テュト。それは私に対してとても失礼な言葉だぞ?」
「ん? なんで? お礼を言っているんだけど?」
「私は、孤児だったお前を拾った。そして、今はお前の保護者だ。つまり、保護者がいるお前はもう、孤児ではないんだよ。自分を孤児だと卑下するな。わたしは、お前のことを守ってやる」
「……なんだか、ディアナさん。お母さんとかお姉ちゃんみたいだよ……」
テュトはそう言って、唐突に泣き始めた。
「湿っぽい顔をするな。私は、お前が成長したいと思う限り。お前の保護者でいるつもりだ」
私は、そう言って笑った。なんだか、この子供は気持ちがいい。そんな事を思いつつ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます