2話 山賊の小屋
「これは……。酷いな」
私は絶句した。少年に連れていかれた山賊デコンの小屋の中を見ての話だ。
「犬小屋のようだな」
正直な私の感想だった。狭い部屋の中に、10人以上の少年少女が居て……いや、語弊がある。「檻の中に囚われて」いた。
子供たちは、どうやら質の悪いパンのようなものを食べていたが、一つ手に取って臭いをかいでみたら、人間とはこんなものが食えるのかと私は驚いた。それほどに酷い臭いのするパンだったからだ。
「乾かした雑草を粉にして焼いたパンなんです……」
少年はそう言った。
「そのパンは、あのデコンが作ってくれていたのか?」
「いえ……。僕らが当番制で作っています。そもそも僕らがみなしごになったのって、デコンが父さんや母さんを殺したからで……」
「? 君たちは、親の仇を取ろうとは思わなかったのか?」
「デコンは強くて逆らいようも無くて……。それにデコンの奴がついてくれば飢えさせないっていうから……」
「それでこの様か。呆れた悪質男だったな、あのデコンという男は。焼き殺して正解だった」
「え? デコンを焼き殺したんですか? お姉さん」
「うむ。頭に血が上ってな。つまり、まあ何というか。お前達はもう自由だという事だ」
私がそういうと。一人の少女が檻から出てきて私の顔に向かってつばを吐いた。
「余計なことしないでよっ!! 私達、これからどうやって生きていけばいいっていうのよ?! デコンさんは、少なくとも私達を食べさせてくれた。貴女にそれができるの?!」
私は、頬についた臭い唾液を右掌で拭い取ってから。
「甘ったれるなっ!!」
その少女の横っ面を張り飛ばした。
「そうだな。言い方が悪かったかもしれん。私は、あの山賊のやり口にいら立った。そして、腹も立った。だから、感情に任せて焼き殺した。何も貴様らを思っての事ではない。好きにすればいい。私について来たければついてくればいいし、この小屋に執着するならそれもアリだ。私は貴様らに何の強制もせん」
そういって、私は踵を返して山賊の小屋を後にした。すると。
「お姉さん! まってよ、僕を連れて行って!!」
最初に私に爆弾を抱えて飛びついてきた少年が一人、私を追って走ってきた。
「……少年。君か。いいのか? 仲間たちと離れ離れになるぞ?」
私は、少し気遣うように聞いた。私らしくない事だが。
「いいんだ。みんなはみんな、僕は僕。僕は、生きているときの父さんに散々言われたんだよ。『ここぞと見定めたときは勇気を出して、足を踏み出せ』ってね。父さんはデコンに殺されちゃったけどさ……」
少年は、にこにこ笑いつつも、何やら
「その、『ここぞと見定めた時』が、今だという事か? 何だかよくわからんが、私はついてくるものは拒まぬ性質だ。ついてきたければ来い。だが、私もそう金を持っているわけではない。贅沢はさせてやれんぞ」
「自分の食っていくためのお金くらい、自分で稼げるよ。多分」
「世の中はそうは甘くないぞ?」
「じゃあ、お姉さんに食べさせてもらいながらその術を身に着けるよ」
「……ふん。ちゃっかりした子供だ。まあ、いい。行くとしよう」
「うん。僕の名前は、テュトっていうんだけど。お姉さんの名前は?」
「私の名は、ディアナだ。まあ、本名ではないのだがそう呼んでおけ」
私はテュトに自分は旅の魔導師だという自己紹介をした。
すると、テュトは。
「僕さ。勇者になりたいんだ。悪逆非道の魔族の王を滅ぼして、世界を平和にする勇者に!」
と、瞳を輝かせて言ったのだが。私は、思わず吹き出してしまった。
「そうか。勇者になりたいのか。だが、テュト君。今現在、魔族は魔界からこちらの人間世界に大規模な侵攻はしてきてはいない。なぜこの時期に勇者などになりたいんだ?」
テュトは、しばらく考え込んで答えた。
「僕さ。強くなりたいんだよ。デコンに殺された父さんは、強かった。でも、デコンに母さんを人質に取られてあっさり殺されちゃった。だから僕は、何者にも負けない力が欲しい。腕力も、知力も、度胸も。それに、魔力も。それが勇者だから。バカなこと言ってるってわかってる。こんなチビで、腕力も無いガリガリに痩せた子供がどうやって勇者になるんだってさ。でも、それでもなりたいんだ!!」
「バカなことを言っているとは思わんが、難儀な道だぞ?」
私は思わず頭をポリポリと掻いて答えた。
「まあ、頑張る分にはタダだ。頑張るだけがんばれ。その成果もまた、無駄にはならん。例え勇者とならずともな」
そんな事を言ってやった。
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