1話 みなしご
私は、魔道具「ワンデイワントークンポケット」の産み出す、1日1枚の金貨で、そこそこの生活を送りながら世界を旅してまわった。
1日金貨1枚と侮られそうだが、この世界の金銭価値は、金貨1枚が銀貨10枚になり、銀貨10枚が赤銅貨100枚となり、赤銅貨100枚が青銅貨1000枚となる。ちなみに、最小単位である青銅貨1枚で買えるものと言えば、パンが1つ、酒を1杯、ソーセージが1本。そんな感じである。
1日に酒が1000杯飲めるだけの金を産み出せるこの革袋、「ワンデイワントークンポケット」の力が大したものではないと思える奴らは、きっと貧しい生活という物をしたことが無いのだろう。一人旅の共には、こう言った地味で確かな道具こそが頼りになるのである。
『この先、テルアーブ王国領・ミランディアの森』
私が徒歩で大陸の街道を歩いていると、そんな
森もまた
森からそよいでくる風が
すると。
「おい、女!! 止まれっ!!」
なんだ? 私を女呼ばわりする中年男のだみ声が聞こえた。
「何か? 用か? 人間」
「何か? じゃねぇ!! ここは、通行料が必要なんだ。通るなら払ってから行け!!」
「そうなのか?」
「あんだぁ? テメェ、この俺様が嘘ついてるってのか?」
「その可能性も否定できんな」
「なんだよ!! なんで女のくせに山賊の俺にビビらねぇんだよ!!」
「やはり、賊の類か。声がゲスだからすぐにわかったぞ」
「うるせぇ!! テメエら、かかれっ!! 自爆部隊突撃だぁっ!!」
「?」
山賊の男が命じると、懐に火のついた爆弾を抱えてとびかかってくる人間の少年が三人。何だコイツらは? 正気なのか?
「デコンさん! 妹たちをお願いします!!」
「僕たちは、妹や弟たちを食べさせてもらっている代わりに!!」
「この女を殺します!!」
目をギラギラさせて私の手足にとびかかって、組みついてくる少年たち。
「放さんか」
私は、右足に抱き付いてきた少年を蹴りとばした。だが。
二人の少年は、私に抱き着いたまま見事に自爆してしまった。
そんな攻撃は、私には痛くもかゆくも無いというのに。
「……何をやらせているのか? 貴様は」
私は頭に血が上るのを覚えた。我ら獰猛狡猾な魔族と言えども、同族の子供を自爆させて、その成果を大人が受け取るというようなイカレた思考法は持たない。持ったところで、実行はしない。
だが、このデコンという山賊の男。そのイカレた思考法を実行しおった。
「な?! テメエどうなってやがんだ?! なんで爆弾で吹っ飛ばねぇ?! 妙に身なりがいいから、吹っ飛ばした後で装飾品を盗もうと思ってたのによ!!」
「運が……。悪かったな山賊。私はつい先ほどまで上機嫌だったが、今、最高に機嫌が悪くなった。貴様のような醜い存在は、消し去るべきだ。そうは思わんか?」
私は、人間界に来て。初めて魔法を使った。
「発せ『
私が右手を向け、人差し指をクッと。曲げただけで発生した炎の渦に山賊デコンは飲み込まれ、塵も残さずに蒸発して、後は臭い煙だけが残った。
「おい、少年。起きろ」
先ほど蹴り飛ばした一人の少年は、森の樹木にぶつかって爆弾を取り落とし、それが離れた所で爆発したために命を拾ったらしい。
その様子を見た私は、これも何かの縁かと、少年を起こしにかかったのだ。
「ん……。ん? 僕、生きてる?!」
「無茶をするな、子供。何故自爆しようなどと愚かなことを考えた?」
少年は、周りを見回して。デコンの姿が無いことを確認したのか、ぽつりぽつりと語り始めた。
「……僕ら、みんなみなしごなんです。それで、山賊のデコンさんに拾われて……。追いはぎの手伝いをするなら、食わせてやるって言われてて」
「それで?」
「デコンさんに拾われたみんなは、死ぬ順番が決まってるんです。爆弾を抱えてとびかかれば、まず大概の人間は殺せるって。デコンさんに言われてて……」
「……呆れたものだ」
「お姉さんは、どこかの貴族の娘でしょう? だからそんなことが言えるんです。今の世の中、みなしごや貧乏人は命を張らないととても食べていけないんです」
そんなことを言う少年。さて、どうしたモノか。
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