エグザイル・デヴィルクイーン ~魔界追放女魔王様、勇者を育ててみるのこと~

べいちき

序話 女魔王の追放劇(イルディアナ視点)

「……して? 何が不興ふきょうだというのだなんじらは」


 私は。魔界まかい宰相さいしょうアフルギアスと、その後ろに大勢いる六大魔族軍団ろくだいまぞくぐんだん面々めんめんにらみつけて聞いた。何だコイツらは。何を考えてこの至高しこうの魔王の玉座ぎょくざの間に詰めかけてきているのか。


おそれ多くもかしこみみ申す。我ら六大魔族軍団長ろくだいまぞくぐんだんちょう魔界宰相まかいさいしょうであるこの私の協議により。魔族しいては魔界に、強烈きょうれつなる求心力きゅうしんりょくを持たれるイルディアナ魔王陛下は、必要とされなくなったということに決定致けつじょういたしました」


 なるほど、クーデターというワケか。そう言う頃合いかも知れんな、と。私は思い始めた。

 私が魔王の座についてから2000年以上の時が経っている。完全なる中央集権、王政下の魔界の統治にも限界が来たという事か。

 それに、魔界宰相のアフルギアスの野心も勃々ぼつぼつと沸き立って、この魔界を支配するというよりは私の意を受けずに、自らの意でこの魔界を治めたいと思うようになったのかもしれない。


 私は、アフルギアスに問うた。


「自信はあるのか? 魔界を治める自信が。貴様如きにな・・・・・・


 その問いを受けたアフルギアスは、角の生えたこめかみに青筋を立てた。


「陛下の独断どくだんには、私は付き合うだけは付き合ってきたつもりですが? 私の落ち度と言っては何がございますか?」

「ふむ。確かに、貴様に落ち度はない。わが命令と決定を実行するのみだからな。だが、命を降し決定や決断をする能力が貴様にあるかな? はなは心許こころもとないことではないか?」

「おだまり下され、陛下。私は陛下の手足として2000年以上もの年月を重ねているのです。今までの陛下の発想法はっそうほうなど、私の頭の中にはすべて記憶されております。私は今更、貴女の決断力を必要とはしないのです、イルディアナ魔王陛下。貴女が今まで行ってきた治世ちせいは、確かに見事なものです。しかしながら、もうそれもネタ切れというか。最近の魔界は停滞状態ていたいじょうたいに置かれ、発展はってんに乏しいではないですか。まるところ、貴女の発想力が限界に達したという事でしょう。もう、用済みなのですよ。引き際をわきまえられては如何いかがですか?」


 ふむ。随分ずいぶんとずけずけとモノを言う。まあ、確かに近年の私の出す法令ほうれいには切れ味も新味しんみもない。それは認めるし、言い分けもしない。ただ、そうなったのには理由があった。簡単な理由が。


 なにしろ、私は。


 この魔界を治めることに飽き飽きし始めていたのだから。


「その玉座を空け、王冠おうかんを私におゆずりください。私の根回しによって動いた六大魔族軍団の精鋭たちは、この魔王城を既に取り囲んでおります。お言葉ですが魔界最強のイルディアナ様とは言え。膨大ぼうだいなる数の魔族たちすべてを退けられますかな?」


 くくくくく……、と。してやったりといった感じのうす暗い笑みを浮かべる魔宰相アフルギアス。私は、奴のひとみを覗き込んだ。


「……気に入りませんな。大いに気に入りませぬ。何ですかな? その余裕の表情は?」


 汗を僅かに頬に浮かばせながら、アフルギアスは私に刺すような口調くちょうで言葉を向けた。


「いや……。そうだな。この玉座と王冠か。欲しければくれてやる。ただし、交換条件が1つある」


 私はアフルギアスの瞳から目を逸らさずに睨みつけたまま、言葉を放った。私の瞳から発せられる魔力によって、アフルギアスは身動きが取れなくなっている。


「交換……条件とは……?」

「なに。私も魔王の座を引退するのは構わぬのだが。だが、あるマジックアイテムが欲しいと思ってな。この城の宝物殿ほうもつでんから勝手に持ち出してもいいのだが、何しろ私はクーデターによって追放される哀れな元・女魔王だ。慈悲深き魔界宰相閣下に、今までの務めの代償として、1つだけマジックアイテムを頂ければと。そう思ったのでな」

「ふん……。我らが軍勢に恐れをなして、玉座と王冠を譲られるか。今までの貴女に対する私の持っていた印象イメージとはいささか異なりますが。まあ、良いでしょう。聞き入れられるものならば、聞き入れます。ただし、武具防具の類は認められませんぞ」

「そこらへんは承知の上だ。魔界の強力な武器を持ち出されたら、貴様らもたまらなかろう。いつ、私が戻ってきて寝首ねくびきに来るかとな」

「ふむ……。この魔王城の宝物殿に収められている武具や防具の中には、天変地異レベルの魔法術を発効する武具や、ほぼあらゆる攻撃を受け付けないというとんでもない防具も含まれます。最早魔王でない貴女には、そのようなものは渡すわけにはまいりません」

「分かっている。承知の上だといったろう。私が望むのは、『1日1トークンの革袋ワンデイワントークンポケット』、つまり、1日に金貨1枚を産み出す革袋だ。大したマジックアイテムではない。これなら、玉座と王冠の代わりになるかな?」


 私の問いに、アフルギアスは「その程度ならば」と言って、許可を下した。

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