第4話 スキル
改めてシエルのステータスを確認すると経験値がゼロになっている。スキルの取得にはこの経験値が必要なのだろう。
シエルが取得した【絶対防御】【攻撃反射】はかなり高位のスキルなので経験値を全て持っていかれた。むしろ足りなかった。
では、なぜ取得できたのか? それは足りない分を俺が補完したからだ。
クロリスは何も言っていなかったが、気がついているのだろう。
俺もスキルを取得していたことに。
最適なスキルを探し出し、シエルに取得させるための時間が欲しかった俺は【思考加速】【並列思考】を取得し、更にシエルに取得と発動を行わせるために【スキル最適化】【スキル改変】【強制付与】【強制発動】を取得した。
取得したというよりも、作ったといっても過言ではない。
元々あったスキルは誰がどうやって作ったかはわからないけれど、今の俺には世界にある全てのスキルを識ることが出来ている。どういう能力であるかについても概要としての理解はできる。天の声としての権能だろうか? スキルの総数はかなり多い。こんなスキル、誰が好き好んで取得するのだろうというものもある。
全てのスキルは経験から得た“技術”であり“能力”である。
だから鍛錬により成果を得た者や、勉学や会話、研究などから気づきを得た者からチカラだけが抽出され世界に新たなスキルが追加される。
スキルの習得、取得、行使は何もヒトだけに限られた“特性”ではない。
この世界には多種多様な生物が共生している。動植物も種族特有のスキルを持っていて、稀に固有スキルを持つ個体が生まれている。
超常的な能力の殆どがヒト族以外から生まれたらしいが、そのスキルや魔法を発展させてきたのは殆どがヒト族だというのだから不思議だ。
他人が努力した成果をお手軽に得られる……わけではないけれど、その力を得るための道筋はより容易にはなっているのだろう。
だからこそ、その技術や力を昇華させることも適うのだ。
だがそれは、飽くまでもこの世界に生きる者たちのお話。
——俺には関係ない
系統もなく散乱したスキルたちを仕分けし、俺が見やすいようにまとめたら【スキル最適化】が出来た。一定数の実行をしたら【スキル改変】の完成。
あとは【スキル共有】【自動発動】を少し弄って【強制付与】と【強制発動】の出来上がり。
【絶対防御】と【攻撃反射】は元々あった高位スキルだ。
だがこの2つは自動で発動する。戦士が寝込みを襲われないようにとかで会得したのだろうけど、常時発動は社会生活の邪魔でしかないと思う。
——きっと一人ぼっちで寂しかっただろうな……
同情はするが、そんな不便な生活をシエルにさせられないので改変した。
都合よく改変をしまくっているが、既に派生分岐したようなスキルもあるから問題ないだろう。
問題はピンチを脱していないこの状況だった。
賊の一人がやつらの頭領を連れてきた。大柄の山賊みたいなゴリラだ。
階下で警備兵との戦闘があったようだが、傷ひとつ負っていない。手練れではあるのだろうが、警備兵に扮した者が2名紛れていた。
——内通者……。計画的犯行か
賊の頭領は状況を確認し、光の壁ごと持ち上げられないか試し始めた。
——こんなゴリラにシエルを渡すわけにはいかねぇ
だからと言って、攻撃されなければ反撃もできないのが現状であって、このままシエルの体力が尽きれば終わりだ。
賊たちに焦った様子を感じられなかったのは、兵士の格好をしている者が現れた事でわかる。内通者であったか成りすましで正規の警備兵を騙しているのであろうことは確実。正規の警備兵が来ることは当分なさそうだった。
屋敷で発生した火災は幸いなことに被害が小さく、煙の心配も今のところはない。もしかすると火災を偽装して時間を稼いでいるのかもしれない。そうだとすればかなり念入りに仕組まれている。
賊たちがシエルを目の前にして発生したイレギュラーに対し、平然と攫う算段を立てているのはこうした状況からであった。
それにしても防御障壁ごと持ち去ろうなんてプロの誘拐犯は考えることが違うと思ったが、今考えることでもなかった。
——さて、どう切り抜けるか。そろそろ騒ぎに気付いて誰か来るだろうから、それまで時間を稼がなきゃってことか。
シエルにこれ以上のスキルを取得させるのは少し怖くなっていた。クロリスが言っていた心身の成長に支障をきたす恐れがあるからだ。
他にも生まれて3ヶ月の赤ん坊がスキルを自発的に使えているなど知れたら、どんな目にあわされるかわからない。
赤ん坊に敵意を向ける者などほとんどいないと思いパッシブスキルにしたのに、危険が増えては元も子もない。
とはいえ今は、命の危機から脱していることに安堵はしていた。打開策を考えるには時間は十分だと思っていた。
——よし、この手を使ってみるか
シエルは相変わらずきょとんとこちらを見ているような気がする。
俺のすることを信頼してくれているのかと思うと、俄然やる気も出てくる。だが存在を認識できないらしいし、今も声は聞こえていないらしい。
シエルの声が聞こえたのはシエルが生きたいと願う心が届いたからだと思う。
シエルに【代理執行】のスキルを付与した。
これも改変スキルで『親』となる発動者のスキルや魔法を『子』に指名された者が代わりに実行するスキルだ。発動にかかる負荷はすべて『親』が支払う。
代行するスキルによっては『子』に肉体的な負荷がかかる場合もあるが、経験を得られる恩恵は大きい。
さて、賊たちを皆殺しにしたいところではあるが、そんな凄惨な場面をシエルに見せるのは教育によくないのでやめておく。賊どもはシエルに感謝すべきだ。
——そもそもシエルを狙う理由が宰相のスキャンダル暴露だけか?それならば殺しても良い理由にはならないし、生かしておいた方がメリットは多いはず。
賊たちの、あるいはそれを指示した者が持つ誘拐以外の目的を聞き出す必要があった。
——捕らえておいた方がよさそうだな
【硬直捕縛】を発動して死ぬほどガチガチに縛ってやろうかと思ったが、
——誰がそれを解くねん。二度とシエルの前には顔を出させんよ!
と思い直して麻痺系の捕縛魔法【
「あー」
シエルの掛け声が良いタイミングで発動と重なり、一斉に賊たちを光が貫いた。
「なんだ、これは⁉ まさかこのガキ、が……?」
麻痺はすぐさま全身に回り口が利けなくなった。呼吸はできるよう調整はしているが、丸一日は身体を動かせないだろう。念のため痺れ以外にも魔法縄で手足を縛り、痺れに耐性があっても抜け出せなくなるように改変しておいた。
賊たちは声を発することもできないまま次々に倒れていった。
——取り敢えずは一安心かな……
そう思っていた矢先にシエルは気を失い母親の傍らに寄り添うように倒れ込んでしまった。
——どうした? 何があった?
一瞬焦ったが体力を使い果たして眠り込んだようだった。
まだ生後3ヶ月の赤ん坊……よくここまで耐えられたと思うしかない。
しばらくすれば屋敷の人間や警備兵が助けに来るだろう。これで母子ともに助かるはず。
そう思っていたが、甘かった。
賊たちを捕え、屋敷の火災が収まるのに時間はかからなかった。
シエル母子のもとに最初に駆け付けたのは父親の宰相カエラムだった。
事件発生からすでに数時間が経過していた。
シエルの無事は確認され賊も捕らえられた。
だがシエルの母、アンはすでに息を引き取っていた。
俺は、シエルの最初の願いを叶えてやる事が出来なかった。
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