Ⅵ
その様子を影で除いていたものがいた。そうあの野島係長である。
「オホン」と手を拳にして、機械室に入ってきた係長が一言わざと
「常盤君! コビーは出来たかな?」
「はい、係長どうしてここに?」
「いやぁ、君が初めてコピーをするのだから、やり方が解るかな? と思って覗いてみたんだ」
「はい、出来ました。これくらいでしたら大丈夫です」
「あぁ、そう。それじゃあそれを私の机の上に置いてきてね」
「はい、解りました」と久子は言って、もとの部署に戻って行った。それを見ていた係長は、”ニヤリ“と火糞笑むと、久子が丸めて捨てたゴミ箱から、ミスコピーを拾い上げると、広げてみた。
「ウワッハハハハ、なんだこれ」と腹を捩って大声で嗤って、広げたコピー用紙を再びギュット丸めてズボンのポケットにねじ込んで、自分の席に戻っていった。席に戻った係長は、
「あー、常盤君。一寸私にお茶をいれてくれないか」と久子に言った。久子は係長を睨み付けたが、その係長は丸めたコピー用紙を右手に握りしめて、久子に見せびらかした。
“アツ、しまった。例のコピーだ”と、直ぐに気がつき、”ウーウ“と唸りながらも、
「解りました。お茶ですね。お茶で良いんですね」と係長に向かって吠えた。
「そうだよ。お茶だよ、お茶」勝ち誇ったように、右手に持ったコピー用紙を机の引き出しにしまった。
“畜生❗ 弱みを握られてしまった。あのコピー用紙をみんなに見せられては、私は明日から会社に出てこられない”と嘆きながら、
「了解しました」と、渋々とお茶を汲みに向かった。係長は勝ち誇ったように、目を細めて笑っている。
「オノレ~、ハゲチャビンめ」と思いながら、お茶をいれていたが、ふと、久子の負けん気が出て、係長の湯呑みにお茶をいれると、ペッ❗ と唾を少量飛ばし、頭をかいて、フケも少々入れて、箸でかき混ぜて、係長の席まで持っていった。
「おー、ありがとうよ久子ちゃん」と言ってお茶をのみ始めた。
「おー、良い湯加減だ。美味しいね~」等と良いながら、勝ち誇ったような顔をして、ぐびぐびと飲んでいた。私は腹のなかで”ザマァみろ“と火糞笑んでいた。
そこで、久子は隣の先輩男性に声をかけた。
「あの~、白田先輩。一寸お聞きしたいことがあるのですが」すると白田先輩は、
「なんだい?」と、顔をこちらに向けずに答えた。
“顔ぐらい向けろよな”と思ったが、「あの~、この会社には労働組合は無いのでしょうか?」
「労働組合? あることはあるんだろうけど、うちの組合はオープン組合だからね、本人の自由になっていて、組合には入っている社員はあまりいないね」との返事が返ってきた。
「ふーん、そんな会社なのか」久子は元気無く呟いた。その時、右斜めまえに座っている、白鳥さんが囁いた。
「久子さん、組合なんてあって無いようなものなのよ、社長が組合には煩いからね」
「でも、組合がないと、社長の言いなりになってしまうじゃないの」
「みんな、それで我慢してるのよ」
「そんなものなのか」久子はへこんだ。社会に出ると、会社によって各々なんだな~、と思った。
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