Ⅲ
ある朝、企画部広報髁の課長が総務部に青い顔をして、飛び込んできた。
「た、大変だ! 総務部長! 今日の化粧品発表会に頼んでいた、モデルにドタキャンされた。モデルの代わりに、白鳥さんか、和田さんが代わりに出て貰えないだろうか?」
「化粧品の発表会? 何処でやる発表会だ?」
「西口の東部デパートだ」
「なんだ直ぐの反対側じゃないか」
「だから頼むよ、総務部長。白鳥さんか和田さんを代役として来て貰えないかな?」
「白鳥さんは駄目だ。一回お願いしてやって貰ったことがあるけど、一寸問題があってね。彼女とはもう二度と代役にはしないという確約書を交わしているんだ。えっと……。和田さん❗ 君が代役を引き受けて貰えないかな?」部長が経理課の和田さんに声をかけると、
「え~、私で良いのですか?」
「勿論。君は綺麗だしプロポーションもモデル並みだからね。頼むよ」
「え、いやだ~、部長さんたら。でも、困っているのなら、私でよければ良いですよ」
「おう、そうかい。じゃあ札即頼むよ、東部デパートの営業エリアに早速行ってくれたまえ。係員には私から連絡しとくからね」と企画広報課長が両手で拝んで頼んでいた。それを見ていた、常磐久子は、言わなくても良い言葉をつい呟いてしまった。
“アラ、何だったら私が言っても良いんだけど”と、口を押さえ自分でも笑いながら呟いた。勿論本人も冗談のつもりで言ったのだが、悪いことに庶務課の係長、
「何だって。常盤君、今何を言った? 聞こえたよ! プアッハ、ハ、ハ、ハ、君ならそんな心配は全く必要ないよ」野島係長は大声で体をのけぞらせて嗤った。久子にも入社した時から気にくわない男だと思っていた係長だ。まだ三十の半ば程なのに、頭はハゲ散らかってるし、そう、ハゲたうえに散らかっている頭であった。更に細身のだらしない感じのする男だった。アッハ、ハ、ハ、と、いつまでも嗤っている。更にその笑い声で、
「常盤君、何を勘違いしてるのだ! 君が気を利かす場面では…な、無かろうに」私を指差して腹を抱えて笑っている。酷い! 酷い! いくら係長でも笑いすぎじゃないのか。これはセクハラ、パワハラだ! 久子は怒ると、席を立ち係長の席まで近づいていった。久子は両手に力を込めると、赤くなった顔で係長に近づいていった。それを見ていた。同僚の隣にある人事係の竹田庸子は、不味いとばかり立ち上がり大声で怒鳴った。
「久子‼️ 右手は駄目よ! 左手でね! お願いよ~」
その声が耳に入ったかどうか、解らないが、久子は係長が座って寄り掛かっている椅子の右端を持ち、時計回りにクルット回したと思ったら、ちょうど椅子が一回転をしたところで、係長の胸もとにズバーンと軽く左腕でラリアットをした。係長は仰向けにひっくり返り、後頭部をフロアーに少しぶつけた。
「あいたたた❗ 常盤! 君は何をするんだ❗」と頭をさすりながら起きた。
「係長が、セクハラしたりパワハラしたりするからですよ❗ 左手でやったから、軽くすんだんですよ」久子は、
「き、君は、私を誰だと思っているんだ❗ 許さんぞ。部長に言ってやる」
「好きなようにすれば~」と久子は舌をだした。総務部の社員がみんな押し黙って、笑いをこらえていた。
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