武器の工場

青いひつじ

第1話


急募!時給3,000円!簡単な検品作業!未経験者大歓迎!


このありきたりな求人広告に誘われ、私は今とある工場にやってきた。


妻、子供と3人で暮らす私が解雇予告通知書を受け取ったのは1ヶ月前のことだ。

一刻も早く職に就くために、選り好みをしている時間はなかった。



その工場は窓どころか看板もなく、建物というにはあまりにも簡素なつくりをしていた。

受付の無愛想な女は、私を応接室へと案内した。

入ってきた男は丸々と太っており、汚らしいストライプのスーツに煙草の匂いを纏っていた。



「面接希望の子だよね?いやぁ、よろしくね。履歴書見てないんだけど、やる気の程はどう?」


「はい。一生懸命がんばります」


「ん。じゃあ、よろしく。いつから働ける?」


「今日からでも」


「お、そりゃぁいいね。じゃ、その辺のやつに仕事教えてもらって」



正直、ここが何を作っている工場なのか知らなかった。

私は渡された作業着に着替え、軍手をはめマスクをして帽子を被った。

作業場までの扉はやけに頑丈で、それぞれに暗証番号が付いていた。


3つめの扉が開き、私は驚愕した。



だだっ広い灰色のコンクリートの空間には、2つの生産ライン、無駄に高い天井には蛍光灯が虚しく並んでいる。

鉄の匂いと薄黒い空気が漂っている。

よく見えなかったが、右のラインと左のラインでは別のものを作っているようだった。


床には人間の手首や、片足、頭部が山積みになっており、ゆっくり近づいてみると、それは実際の人間ではなくマネキンだった。



「なんだここは、、、」



恐る恐る足を踏み入れた私は、1番近くにいた髭面の男に声をかけた。



「初めまして。今日からここで働く者です。

ここは何を作っている工場ですか」


「お前さん、そんなことも知らずに入ってきたのか」


鋭利な刃物を持ったまま、男はニヤリと嫌な笑みを浮かべ、


「ここは、武器の工場さ」


そう答えた。


その男は、この工場で武器の研究をしている者だった。

この工場では銃と刃物の2つを取り扱っているという。

硬度、切れ味、軽量化、寸法、素材など、実験に実験を重ねできた武器が製造されている。

そしてそれは、一般には流通されず、全ての商品が裏で取引されているらしい。

これらが何に使われているのか、聞かずとも想像できた。



「人間を殺す道具を人間が作ってるなんておかしな話だよな」



「あなたはどうしてここで働いているんですか」



私の問いかけに、男はまた嫌な笑みを浮かべた。



「復讐するためさ」



「復讐、、ですか」



「俺の父親は理不尽な理由で殺された。自殺で処理されたが、あれはきっと奴らに殺されたんだ」



「その人達に復讐をするために、ここで研究をしているというのですか」



「ここにいるのはそんな奴ばっかだよ。聞いてみるといい」




私は銃の部品、マズルの検品担当になった。

傷や破損が無いか隅々まで確認する。

中が欠けているものや、形が歪なものは欠品として赤いカゴに入れ、欠品理由を記入する。

みんな黙々と作業を進める。

私の横にいたのは、黒髪で眼鏡をかけた真面目そうな青年だった。



「突然だが、君はどうしてここで働いているんだい」


「復讐するためです」


彼は小学校からひどいいじめにあっており、相手に復讐するため、ここで銃を作る手伝いをしているという。


周りにいた人達、みんなその答えは同じだった。

他に話せる話題もなく作業を続けていると、突然パンッと銃声が聞こえた。

私が呆気に取られていると、青年が教えてくれた。



「出来上がった銃の最終確認をしているんですよ。ちゃんと人を殺せるかどうか。流石に本物の人では実験できないので、マネキンを使って」


入り口に積んであったのは、実験で使ったマネキンだった。





私はどうにか頑張って3ヶ月勤めたが、精神は限界を迎えていた。

いつものようにマズルを覗くと、ぐるぐると渦を巻くのが見えた。



「もうだめだ。頭がおかしくなりそうだ」



「大丈夫ですか?気分が悪いですか?」



青年が私の肩を支えた。



「君はどうして平気なんだい」



「叶えたい目標がありますから」



「ここで働いて分かったよ。

武器を作り出しているものが一体何なのか」



「何を言っているですか?」



「それは、、、」



そう言いかけた時、パンッと何が破裂したような音が聞こえた。銃声だった。

いつもの実験だと思い気に留めずにいると、少し遅れて叫び声が聞こえた。

声の方に目をやると、工場の入り口では1人の男が手を振るわせながら銃口をこちらに向けていた。



「お前が悪いんだ、、、。お前が俺をクビにしたから、、、。この日を待っていた。俺はここで学んだ技術で銃を作った」



ストライプのスーツを着た男は倒れたまま動かない。

床は赤黒い血で染まっていった。




「これだよ」



その瞬間、私はそう呟いた。












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