第36話 どう考えても広告収入を撮影経費が上回っていますが、財力チートなので気にしません

 俺の事務所に、新たなYouTuberが登録された。




 その名は「のりタン」。


 まんまりつのり先生だ。


 先生は弁護士さんらしく、法律の解説チャンネルを始めた。

 だがこのチャンネルには、弁護士さんらしくない点もある。


 動画内で先生の恰好が、メイド服なんだ。


 大丈夫かコレ?

 弁護士会とかから、怒られるやつでは?


 しかし、再生回数は好調だ。

 俺が法律相談をする時もそうだけど、のりタン先生の説明はびっくりするほどわかりやすい。


 動画のコメント欄は、「ためになりました」、「ありがとうございます」といったお行儀のよいコメントで溢れている。


 その分俺のチャンネルに、


『カーナ! ユメイドちゃんだけじゃなく、のりタン先生も囲ってやがるのかよ!?』


『この犯罪者! ロリコン野郎! メイドマニア!』


 といった、過激なコメントが寄せられるようになった。

 傷つく……。メイド服は、俺が着せているわけじゃないのに。

 それにのりタン先生は成人だから、ロリコン呼ばわりは的外れだと思う。




 18歳になったゆめは俺のチャンネルから独立し、自身のアカウントを取得する選択肢もあった。


 しかしあいつときたら、


「え~、今さらめんどくさい。これからも、カナユメチャンネルでやらせてよ」


 と、アカウント独立を拒否。

 

 いまだに俺のアカウントで、動画配信を行っている。


 夢花の発案する動画は、お金がかかる大胆なものが多い。


・屋敷のプールいっぱいにコーラを貯め、大型ショベルカーでメントスを放り込む極大メントスコーラ


・ソシャゲに鬼課金して無双する


・ポルシェ718スパイダーを使った、ドリフト走行動画(運転は若葉マークの夢花)


 などなど。




 メントスコーラは、世界各地で人気の動画ネタ。

 炭酸飲料にお菓子のメントスを入れると、反応して泡が勢いよく噴き上がるというもの。


 プールメントスコーラは、エグいほど再生回数が伸びた。


 夢花とのりタン先生が、プールサイドで水着姿を披露したからだと思う。

 2人ともお揃いの水着で、黒い布地にフリフリのレースがついたビキニ。

 ここでもメイド服モチーフか。


 色々はち切れそうな夢花も、妖精みたいな先生も火力が高い。


 アレクセイに娘の水着姿を止めないでいいのか聞いたところ、


「私も負けてはいられませんな」


 と、自分も水着になってしまった。


 男の俺でも見惚れるぐらい、完璧な肉体美だった。

 アパート住まいで瘦せこけていた頃とは、筋肉量が全然違う。

 コメント欄は、黄色い歓声の嵐だ。


 アレクセイが水着になったものだから、俺までむりやり水着にされてしまった。


「アレクセイと違って貧相な体だから、恥ずかしいな」


「何言ってるの、ご主人様! それは細マッチョ体型っていうのよ!」


 そうなのか?

 男としては、少年漫画のヒーローみたいなムキムキ体型に憧れるんだが。

 レースやってた頃は、もう少し筋肉あったし。




 大型ショベルカーのバケットいっぱいに詰め込まれたメントスが、一気にプールへと落とされた。

 重機オペレーターさんは、動画撮影のために雇ったプロだ。

 まさかメントスコーラのために、ショベルカーを操縦する羽目になるとは思わなかっただろう。




 少しの時間差を置いて、爆発したみたいにコーラが噴き上がった。

 予想以上の威力だ。


 おかげで全員ずぶ濡れになってしまった。


 開き直って、みんなで泳いだ。

 コーラのプールで泳ぐと、全身ベトベトになる。


 だけど、とても楽しかった。




 動画撮影のあと片づけは、大変だったけど。




 続いてソシャゲ鬼課金動画。


 ゲームはマシンゴーレム大戦という、巨大ロボによる戦争ものをチョイスした。


 このゲームを夢花が選んだのには、理由がある。


 課金しないと上げにくい、「自由神の加護」という隠しステータスがあるんだ。

 他のプレイヤーからは、見られることがない。


 つまり敵プレイヤーからはすごく弱いザコに見えるのに、隠しステータスで実際には超強いというロボを作ることができる。


 夢花はプレイヤーレベルが低いままなのに、「自由神の加護」だけはレベルMAXにした。


 かかった費用は2000万円。

 こういう廃課金プレイヤーが、ソーシャルゲームの会社を支えているんだな。




 一見弱そうに見える夢花のロボは、敵プレイヤーから偵察行動を受けた。

 そしてザコだと判断され、戦闘を仕掛けられる。


 ……が、そこは「自由神の加護」レベルMAX。

 あっさり返り討ちにしてしまう。


 戦闘CGデモが入り、夢花の赤いロボがマシンガンで敵プレイヤーロボを蜂の巣にしていく。


 ん?

 敵プレイヤーの名前、MISAWAになっている。

 まさかあのさわじゃないよな?




 敵プレイヤーは敗北を認められなかったようで、何度も夢花に挑んできた。


 そして、やっぱり蜂の巣にされる。

 可哀想に。


 何度も負けると、ゲーム内での資金やアイテムを失っていくんだよな。


 なのにMISAWAは、しつこく挑んでくる。

 とっくにゲーム内の資金やアイテムは、尽きているはずなのに。


 これは課金して、資金やアイテムを補充しているな?


 リアルマネーを投入したにもかかわらず、MISAWAは1回も夢花に敵わなかった。


 ウチのメイドは、戦い方がえげつないな。


 MISAWAは途中から、チャットで罵詈雑言を浴びせてきた。


『お前! 何か不正をしているな!?』


 とか、そういう内容だ。

 リアルマネーごり押しではあるが、不正ではない。


 言いがかりをつけてくるMISAWAに対して、動画視聴者達のヘイトは爆上がりだ。


 動画コメント欄は、「ざまぁ」コールに染まった。


 ラストに夢花は課金武器である、ガトリンググレネードをぶっぱなした。


 MISAWAのロボは粉々だ。

 それっきり、チャットにも出てこなくなった。


 ……成仏してくれ。




 そうそう。


 サーキットでしろたぶのブガッティ・シロンをぶち抜いた動画も、投稿してある。


 ツーリングの様子を収めようと、車載カメラを積んでいたから録画はバッチリだ。


 リアルなスーパーカーバトルは、結構な人気動画になっている。


 政財界のフィクサーじい様をはじめとする、イベント参加者達が熱いコメントをたくさんくれた。


 嬉しくてついつい、コメント欄を何度も見てしまう。


 そこで俺は、とある書き込みを見つけた。






『カーナ兄ちゃんのバカ! まだ走っているのにゃら、ちょっとぐらいお店に顔を出すにゃあ!』




 書き込んだアカウントは、「野良猫のタマ」という名前だった。





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