第25話 ゴリラが力説するメイド喫茶とコンカフェの違い

 高級寿司をたらふく食べた、俺と川原がわら




 支払いがくは47万円。

 ふむ? もっと食べたような気がしたんだけどな。


 現金でさっと支払って、店を出る。

 五里川原は恐縮していたが、特にふところが痛むような額じゃない。


 さっき購入を決めた、30億円のジュエリーに比べたら全然だ。




 次はどこか、お酒を飲めるお店に行こうという話になった。


 頭に浮かんだのは高級クラブ。


 アレクセイから教えてもらった店だ。

 「社長なら、接待に使えるお店も知っておかなければなりません」と言われて。


 ホステスさん達も俺と年齢が近い女性が多く、落ち着いて静かに飲める。

 若い子ばかりのお店より、好みなんだが……。




「なあ五里川原。お前、静かに飲みたい気分か? それとも賑やかなお店がいいか?」


「僕は賑やかなところがいいっス。できれば若くて可愛い女の子がいるお店だと、嬉しいな~なんて。うほほっ」


 だよな。

 こいつはまだ、20代半ばなんだ。

 同世代の女の子がいるお店の方が、楽しいだろう。




「ふーむ。お前の好きそうな店に連れて行ってやりたいが、あんまり知らないんだよな。オススメのお店とか、あるか?」


「えっ? 僕が選んでいいんスか?」


「おう。キャバクラでもガールズバーでも、好きに選んでくれ。250万円以下で楽しめるお店で頼むぞ。カード決済可能なお店なら、予算無制限だ」


「なんスか……。そのムチャクチャな予算は……。あの……ちょっと変わったお店で、前から行ってみたかったところがあるんスけど……」


「へえ、面白そうじゃないか。話のネタになりそうだし、行こうぜ。……で? どんなお店だ?」


「コンカフェ……コンセプトカフェってお店なんですけど……」






■□■□■□■□■□■□■□■□■






「お帰りなさいませ、ご主人様~」


 俺が五里川原に連れてこられたのは、ヴィクトリアン風の家具と内装で飾り立てられたお店だった。

 店内はかなり広い。


 来店を出迎えてくれたのは、なぜかメイドさん。

 まるで屋敷に帰ってきたみたいな気分だ。


 いや、ちょっと違うか?

 極端にスカートが短いし、胸元がやたらと開いたメイド服を着ている。




「五里川原、これは……。いわゆるメイド喫茶ってやつなんじゃないのか?」


かなおいさん。メイド喫茶とコンカフェは全然違うっス。コンカフェはその名の通り、お店ごとに様々なコンセプトを持って営業してるカフェっス」


 拳を握りしめながら、力説する五里川原。


「メイドさんが奉仕してくれるお店以外に、バニーガールのお姉さんが相手をしてくれるカジノ風カフェ。男装した吸血鬼が接客してくれるヴァンパイアカフェなんてのもあるっス」


 こいつ、やたら詳しいな。


「しかし……カフェなんだろ? お酒飲めなくてもいいのか?」


「ご安心を。ほとんどのコンカフェはカフェ&バースタイルなんで、お酒もばっちり飲めるっス。しかもこのお店は風営法の届け出をしているから、女の子がすぐ隣に座って接客してくれるんスよ。うほほほほ」


 五里川原の笑顔が眩しい。

 こいつ、よっぽどこのお店に来たかったんだな。


 正直俺にとっては、メイドさんって身近すぎて新鮮味がないんだが……。

 五里川原が楽しいなら、まあいいか。




 VIPルームがあったので、そちらを選択した。

 セット料金は……30分で、6000モエール?


「五里川原、モエールって何だ?」


「店内での通貨単位っス。非日常感を演出するために、そう言うんス」


 1モエール=1円らしい。

 凝っているというか、なんというか。




 VIP席に着くと、すぐ両脇にメイド服姿のキャストさん達がついてくれた。


 スカートが短いせいで、座ると今にも下着が見えそうだ。


 綺麗な足だが、あんまりジロジロ見るのも失礼だろう。

 意識して、視線を逸らす。




「五里川原、好きな酒を選べよ。俺は何から飲もうかな?」


 メニュー表片手に悩んでいると、隣にいたメイドさんが胸を密着させながらおねだりしてくる。


じつは今日、私の誕生日なんです♪ だから記念に、私のオリジナルシャンパンを入れてくれたら嬉しいな♪ ……なんて」


「そりゃめでたい。じゃあ、そのオリジナルシャンパンで」


「えッ!? 結構高いんですよ? いいんですか?」


「20万か……まあ、それぐらいなら別に問題ない」


『20万がそれぐらい!? 問題ない!?』


 メイドさんと五里川原の声がハモる。


 いかんな。

 やはり俺も、金銭感覚が狂ってきている。


 ゆめのことを、とやかく言えない。




「ああ。女の子のドリンクも、別に頼む方式ですよね。1番高いのがいいかな? ……この3000円のやつをどうぞ」


「あ……、ありがとうございます。ご主人様♪」


 うーん。

 夢花以外から、ご主人様と呼ばれることに違和感。

 だけどそういうコンセプトのお店なんだから、仕方ないか。


「五里川原も両側の子達の分、ドリンク頼んでやれよ」


「え……。でも僕は……」


「いいからいいから。どんどん頼んでやれって」


 たぶんその方が、盛り上がるだろう。

 俺が奢ると伝えてあるので、支払いは気にしなくていい。


「うほ。そ……それじゃあ、ドリンクをどうぞ」


「わあ! ありがとうございます。ご主人様♪」


 五里川原の両肩に、メイドさん達のふくよかな胸が押し付けられる。

 ゴリラフェイスが、一気に緩んだ。


 ……これでいい。




(クビになるなら、さわの方っス!)




 そう叫んだ時の五里川原は、うっぷんが溜まっているようだった。

 こいつも俺と同じで、美沢からは嫌われていたからな。

 俺がクビになって、美沢からの嫌がらせは五里川原に集中してしまっているんだろう。


 ガス抜きをしてやらないと。




「スマートで眼鏡が知的なご主人様♪ お名前を伺ってもよろしいですか?」


「金生です。よろしく」


「こちらの筋肉が逞しいご主人様のお名前は?」


「ご……五里川原っス!」


「金生様、五里川原様。当店では3000円のドリンクを頼んだとき、チップを挟むことができるんです。キャストの体の好きなところに」


 説明してくれたメイドさんは、胸を両腕で挟み込み谷間を強調する。

 なるほど。それで胸元が開いたメイド服を着ているのか。


 五里川原が唾を飲み込む音が、ここまで聞こえる。


 奴は震える手で1万モエールのチップ札を掴み、メイドさんの胸元におそるおそる差し込んだ。

 寿司の時と同じだ。


 「きゃあ♪」というきょうせいがあがる。


 チップなんだから、そのまま彼女の稼ぎになるんだろう。




「金生様も、お好きなところに挟んでいいんですよ?」


 お好きなところとか言いながら、メイドさんはやはり胸を強調してくる。


 商売だから、しかたなくそうしているんだろう。

 オッサンから胸にチップを挟まれるなんて、本当は嫌なはずだ。




 だから俺は、彼女の頭上にあるホワイトブリムに1万モエール札を挟み込んだ。






「好きなところでいいって、言ったのに……」


 あれ?

 機嫌悪くなったぞ?


 しまったな。

 頭触られる方が、嫌いなタイプだったか?






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