第21話 投資家でYouTuberで事務所の社長

 その日俺は、朝からノートパソコンとにらめっこしていた。


 場所は屋敷のリビングだ。




「……どんな銘柄の株を買えばいいのか、わからん」


 そう、俺は投資に手を出し始めていた。




かなおいさんは~、どうしてまた株式投資をしようと思い立ったんですか~?」


「のりタン先生……。アレクセイが言ったんですよ。『富を得た者は、金を使って経済を回すのも使命です』って」


「なるほど、それで~。立派なことだと思います~。だけどただ株を買うだけでは~、そんなに経済貢献になるとは思えませんね~」


「……え?」


「普通に上場されている株を売り買いしたところで、投資家の間でお金が動くだけなんです~。経済貢献目的でしたら、新規公開株を買うといいですよ~。IPO株ってやつです~。それで企業は、資金調達ができます~。抽選に当たらないと、買う権利をもらえませんけど~」


「そんな仕組みになっていたのか……。知りませんでした」


「それと株だけじゃなくて~、クラウドファンディングに出資するのはどうですか~? 金生さんが面白いと思うプロジェクトに、お金を出すんです~。インターネット上に、そういうサイトがありますよ~」


「どれどれ……。ああ、ホントだ。色々なプロジェクトがありますね。『品種改良で、おいしい高級ナマコを生み出す研究』とか、『すさまじく長いウェブ小説を、アニメ化するプロジェクト』とか……。『性別逆転薬の商品化』? これは怪しいな」


「研究者や発明家、活動家達は、資金を得られてハッピー。金生さんも経済貢献できるし、プロジェクトによってはリターンが得られたりしますよ~」


「いいですね、それ」




 俺はクラウドファンディングサイトで興味を持ったプロジェクトに、片っ端から出資してみた。


 お?

 宇宙飛行機スペースプレーンを開発して、月まで旅行しようなんてプロジェクトもあるのか。


 夢があるな。

 多めに出資しておこう。


 これで少しは、世の中のためになったかな?


 あとは国債でも買っとくか?




「そういえば~。ついにYouTuberとして、動画を投稿しはじめたんですよね~。どんな具合ですか~?」


「わりと順調ですよ。これならすぐに条件を満たして、チャンネルの収益化ができそうです」


 俺が作ったYouTubeチャンネルの名前は、カナユメチャンネル。

 命名はもちろんゆめだ。


 俺と夢花、2人の名前を取ってはいる。

 だが、動画でメインを張るのは夢花の方だ。


 オッサンの俺に、需要はない。


 動画内で俺は、「カーナ」と名乗っている。

 夢花は「ユメイド」だ。




「最初に投稿した、札束ストーム。あれは面白く仕上がりましたね~」


「のりタン先生が、アドバイスをくれたおかげですよ」


 ダンプカーからの札束嵐で、不動産屋を生き埋めにしてしまった映像。

 あれをそのまま使ったら問題になりそうなので、色々編集したんだ。


 具体的には不動産屋から許可を取り、やらせ感満載のフィクションとして投稿した。

 不動産屋は評判を下げずに済むし、宣伝にもなるって寸法だ。


 動画のコメント欄では、札束が本物かジョークグッズかで話題沸騰だった。




「意外だったのは、車のレビュー動画がけっこう伸びてるんですよね」


 夢花の提案で投稿したのが、我が家の車3台を紹介する動画だ。


 ポルシェ・パナメーラ。

 カイエン。

 718スパイダー。


 これらの魅力を、俺なりに解説してみた。

 ……とはいうものの、実際に動画内で喋ったのは夢花だ。

 俺は解説内容を考える役。

 それと夢花は車の運転免許がないので、公道レビューでの運転担当も俺だ。


 これがまた、かなり再生回数を伸ばしている。




「ポルシェなんて~、普通の人はなかなか運転する機会がありませんからね~。レビュー動画で、オーナーになった気分を味わいたいんでしょう~」


 のりタン先生の言う通りかもな。


 それともうひとつ、夢花の人気もある。


 メイド服を着た可愛らしい少女が、高級外車について語るというギャップがウケているらしい。


 運転している俺の姿も時々動画に映るんだが、そのたびにコメント欄が荒れる。


『カーナの成金野郎!』


『俺達のユメイドちゃんに、手を出したらコ〇スぞ!』


 なんて書きこまれる。

 わりと傷つくんだよな。




「こないだ撮影していた~、夢花ちゃんのバイク曲乗り動画はどうですか~?」


「昨日投稿したばかりなので、まだそんなには……。げっ、嘘だろう? なんだこの再生回数は?」


 再生回数と高評価の数に、驚いた。

 思わず眼鏡を拭いて、2度見してしまう。


 のりタン先生が背後から、パソコンのモニターを覗き込んできた。




「うわ~、信じられない伸びっぷりですね~。コメントもたくさんです~」


「伸びるかもしれないとは思っていましたが、これほどとは……。運転前に、顔出ししたのが効いたかな」


 昨日投稿したのは、夢花がガンマで曲乗りをやる動画だ。

 披露した技は、以前俺に見せたものより過激になっている。


 ウイリー時はより高く前輪を持ち上げ、左手でピースサインまでかましやがった。

 前回はメイド服にノーヘルだったから、あれでも安全のためにセーブしていたんだな。

 今回はちゃんと、フルフェイスヘルメットにライダースーツでの撮影だ。




「コメント欄見てください~。バイクスタントチームやロードレースのチームから、お誘いがきていますよ~」


「夢花の奴、ひと晩で有名人になっちゃったな」


 自然と頬が緩む。

 あいつは華やかな世界で活躍するべき人間なんだ。

 貧乏や四堂からの嫌がらせで抑圧されていた分を、取り戻して欲しい。




 ちょうどその時、夢花がリビングへと入ってきた。

 今日の恰好は珍しく、メイド服じゃない。

 カジュアルなミニスカート姿だ。

 いつもは屋敷外でもメイド服を着ようとするから、止めるぐらいなのに。




「夢花、お前にバイクスタントチームやロードレースチームからお誘いが来てるぞ? 挑戦してみたいなら、資金援助スポンサードしようか?」


「パス! 全然興味ない。それよりご主人様、出かける準備が済んでいないじゃない。早く! 早く! ハリーアップ!」


「そんなに慌てるなよ。大したイベントじゃないだろ?」


「嘘よ! 昨日ソワソワして、眠れていなかったじゃない。あたしとお父さんは、ちゃーんとお見通しなんですからね!」


「夢花ちゃ~ん。わたしもお見通しですよ~。金生さん、いつもより唇の端が1ミリ吊り上がっています~。ゴキゲンですね~。いいな~。わたしも弁護士会に顔出す用事がなければ、一緒に行ったのに~」


 ウチの家族達にはバレバレか。

 この歳になってウキウキしているとか、ちょっと恥ずかしいんだよな。






 さて、そろそろ出かけるか。


 やっと納車される、ポルシェ911GT3RSを迎えに。





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