第20話 笑顔の値段は400億オーバー

「クソっ! 役立たず共が! 20人もいて、たった2人にみんなやられちまうなんて……」




 いや、どう

 俺も戦ったから、たったの2人じゃなくて3人なんだが……。


 まあ、いいか。




「お前ら! このオレに盾突いて、無事に済むと思うなよ! オレは県議会議長の息子だぞ! パパに頼めば、ボイスレコーダーの録音なんか簡単にもみ消せるんだ!」


 うげえ。

 こいつ、父親をパパ呼びかよ。

 俺と同じぐらいの歳だろ?




「いや、四堂先生。あんたクビになるよ。夢花への暴行の件だけじゃない。これもマスコミに送りつけておいた」


 奴の前に、資料を投げやる。


「う……あ……。そんな馬鹿な……。どうやってこれを……」


「金に物を言わせた」


 俺が差し出した資料は、四堂の痴態が赤裸々につづられたレポート。

 そして証拠となる写真。


「高校教師が援助交際って、マズ過ぎるでしょう。しかも、相手が中学生とはね」


 探偵さん達グッジョブ。

 中学生女子とラブホテルに入っていく四堂の顔が、ハッキリ写っている会心のショットだ。




「そ……そんな……! 中学生だなんて、知らなかったんだ!」


「その言い訳は~。通用しませんよ~。相手に学生証を提示させたりとか~、年齢確認しました~? そうでないのなら、過失ありと判断されちゃいますよ~?」


 のりタン先生が、すかさず逃げ道を潰す。

 容赦ないな。




「あんた、中高生と手あたり次第に援助交際してるよな? この中学生だけでなく、他に3人分の写真とレポートがある。全部マスコミに送付済みだ。相手の子の顔や名前は、分からないように加工しているがな」


 いやあ、凄かったな。

 県内の探偵事務所や興信所だけでなく、裏の情報屋にも片っ端から依頼したんだ。

 そしたら短期間で、大量の情報が集まった。

 調査費用先払いで、相場の3倍渡したのも効いたようだ。




「ずっと不思議に思っていたんだよな。なんでそんなに、夢花を目のかたきにするのかって。あんた去年、街で歩いていた夢花に援助交際を持ちかけているな? 自校の生徒とは、気付かずに」


「えっ? そうなの? ……あっ! あの時投げ飛ばした、変質者!」


 やっぱり夢花も、気付いていなかったか。

 無理もない。

 四堂は援助交際相手を探す時、変装していたそうだからな。




「公衆の面前で無様にブン投げられたあんたは、夢花を逆恨みした。それで髪に難癖をつけ、ネチネチと嫌がらせをしていたというわけだ」


「大の男が、小娘から恥をかかされたんだぞ! ちょっとぐらい、やり返す権利があるってもんだ! パパだって、きっとそう言う!」


 ……だめだ。

 こいつと会話していると、疲れる。

 自己中心的ってのは、こいつのためにあるような言葉だな。


 いいや、もう。

 トドメを刺してやろう。




「ずいぶんと、パパを頼りにしているようだな。だが、パパにはもうあんたの面倒を見る余裕なんてない」


「はあ? 何を言ってるんだよ?」




 俺はスマートフォンで動画を再生し、四堂に見せてやった。


 四堂議長が逮捕されて、パトカーに押し込まれるニュース映像を。




「な……な……な……? なんだこれは!? どうしてパパが!?」


「収賄罪だそうだ。こんなに早く逮捕されるとは思ってなくて、俺も驚いたよ」


 四堂議長の周辺を調べると同時に、買収も仕掛けた。

 奴の支持者達に、こっそり金をバラ撒いたんだ。


 効果は劇的だった。

 数日間で、みんな手の平クルリだ。


 腹心である秘書まで裏切ったのは、計算外だった。

 おかげで収賄をはじめとする犯罪の証拠が次々と明らかになり、逮捕に繋がったというわけだ。




「そんな……。それじゃ、オレは……?」


「破滅……だな。同情はしない」


 俺は四堂に背を向け、歩き出した。




「帰るぞ、みんな」


 背中に衝撃が走った。

 続いて柔らかい感触と、温もりが伝わる。




「えへへへ……。ご主人様、カッコ良かったよ」


「夢花。それは皮肉か?」


 華麗に不良共を叩きのめした夢花と違い、俺は刺されながら1人撃退したのがやっと。

 カッコいい要素なんて、見当たらない。


「もう! 素直に称賛を受け取りなさいよ」


「腕にしがみつくな」


「おっぱい当たってマズい?」


「のりタン先生が、にらんでる」


「面白くはないですけど~。今日はかなおいさんを貸してあげます~。夢花ちゃん頑張ったので~、ご褒美です~」


「……うん。ありがとう、のりタン先生」




 背後から、絶叫が聞こえる。

 悔しがる四堂の声だ。


 俺達4人は聞かなかったことにして、校舎の外に出た。






■□■□■□■□■□■□■□■□■






 数日後。


 俺とのりタン先生は、屋敷のリビングでくつろいでいた。




「あ~。四堂先生、捕まりましたね~」


 のりタン先生は俺の背後から、新聞を覗き込む。

 四堂は暴行と買春の容疑で、逮捕されていた。


「これで夢花も、穏やかな高校生活を送れるな」


 高校の校長も、味方に引き入れたしな。

 アレクセイとのりタン先生が手を回して、四堂の件で責任を取らずに済むようにしたらしい。


 2人が誇らしげに、「支配下に置いた」と報告してきたのが気になるが。




「それがそうでもないのよ!」


 夢花が掃除機片手に、リビングへと入ってきた。




「クラスの連中が、いきなりあたしに群がってきて友達ヅラしてさ。四堂から目を付けられるのが怖くて、遠巻きにしていたくせに……。おまけに女子達は、『夢花と同じところで、バイトしたい』だってさ。だからご主人様を、見せたくなかったのよ」


 あー。

 高校に乗り込んだ時、ハッタリを効かせようとポルシェ3台で行ったもんな。

 ジロジロ見ている生徒達はいたな。

 高額バイトの匂いを、嗅ぎつけられたか。


「アレクセイと2人だけじゃ、人手が足りないだろう? バイトぐらい、何人か雇ってもいいんだが……」


「ダメよ! あいつら高額のバイト代だけじゃなく、玉の輿こしに乗ろうとご主人様自身を狙ってるんだから!」


「そんなわけないだろ? いくらお金を持っていそうだからって、俺はオッサンだぞ?」


「ご主人様は、危機感がない! ……まったく、無自覚過ぎると嫌味よ」




 ……メイドから、怒られてしまった。


 夢花はくつろぐ俺達を気にせず、部屋に掃除機をかけ始める。




「夢花ちゃん、元気になりましたね~。髪色も、だいぶ戻ってきましたし」


「ええ。それが救いです」


「それにひきかえ金生さんは、ちょっと元気ないですね~」


「今回の件で、怖くなりましてね。お金の力ってやつが……」


 県議会の議長である四堂の父親は、かなりの権力者だったはずだ。

 なのに俺がバラまいた金は奴を丸裸にし、味方を裏切らせ破滅に追い込んだ。


 こんな加護で異世界の魔王を倒せるもんかと思っていたが、今ならわかる。

 かね……。恐ろしい力だ。

 やり方次第では、あの魔王ドラゴンも滅ぼせてしまったことだろう。




「そんなに暗い顔をしないでください~。お金が恐ろしいか素晴らしいかは~、結局は使う人間次第です~。金生さんは~、あの笑顔を守ったんです~。お金の力で~」


 のりタン先生の視線を追う。

 その先には、鼻歌を歌いながら掃除機をかける夢花がいた。




 うん。そうだな。

 お金の力で、誰かを破滅させたなんて考えないようにしよう。


 俺は夢花の笑顔を買ったんだ。

 今回バラ撒いた、400億ちょっとで。






 いい買い物をした。





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