第15話 なんで俺の周りは、金銭感覚おかしい女ばかりなんだ?

「ポルシェってアレでしょ? カエルみたいな顔したやつ。可愛いわよね」


「カエル言うな」




 ゆめの言うことは、間違っちゃいない。

 ポルシェ911という車は、代々カエルっぽい顔だ。

 しかし憧れの車を両生類扱いされるのは、ちょっと複雑な気分だったりする。




「普通のGT3モデルではなく、GT3RSをごしょもうなのですね」


「ええ、できれば」


 メガディーラーの店長さんは、深々と頭を下げた。




「申し訳ございません。GT3RSは生産台数が少なく、日本への割り当てもわずかなもの。今からでは、とても入荷は……」


「やっぱり……ですか……」


 予感はしていた。

 こればっかりは、お金があってもどうしようもない。




「えー? どうしてもダメなんですか? お金ならありますよ? 30億ぐらいなら、出せますから」


 諦めていない奴がいた。

 夢花め。また俺に、無駄遣いさせようとする。


「夢花。無理を言って、店長さんを困らせるなよ」


「だって……。ご主人様、その『じーてぃーすりーあーるえす』とかいうポルシェが好きなんでしょ? 物欲なさそうなご主人様が、ハッキリ欲しいって言った車なんだもん。乗せてあげたいじゃない」


 「乗せてあげたい」なんて言うが、お金払うのは俺なんだけどな……。


 だが、心遣いは嬉しい。


「ありがとうな、夢花。だけど、こればっかりはしょうがないさ。ポルシェ本社に、強力なコネでもない限りは……」




 俺の言葉に、夢花の表情が変わった。

 何かを思いついたように、大きく目を見開く。




「コネ……。そうよ、交渉してもらえばいいんだわ。ご主人様、あのサービスを使おう! パラジウムカードのコンシェルジュサービス!」


 ……そういえばあったな。

 色々な手配を代行してくれるという、コンシェルジュサービス。


 海外の商品を、購入してくれたりもすると聞く。

 ホテルが満室の時でも、宿泊予約を取れたりするらしい。

 クレジットカード会社は、色んなところと提携しているんだ。


 しかし生産台数の少ない外車の入手まで、手配してもらえるものなのか。




「なんと……、パラジウムカードをお持ちでしたか……。たしかにパラジウムカードのコンシェルジュサービスなら、可能性はあります」


 店長さんの言葉を、信じてみることにした。


 俺はスマートフォンから、コンシェルジュサービスの番号に電話してみる。




「お電話ありがとうございます。初めまして。私はかなおい様を担当する、むらさきしょうと申します」


 ……あれ?

 初めましてなのか?


 この女性の声、何だか聞き覚えがあるぞ?




「あの……。女神アメジスト様では?」


 夢の中で俺に加護を授けた、紫色の髪と瞳を持つ女神様。

 彼女の声とコンシェルジュさんの声が、そっくりなんだが。


「御冗談を。異世界への使徒派遣でミスったことが主神様にばれ、お仕置きとして地上に落とされた女神などではございません」


「やっぱり女神様じゃないですか」


 ああ、結局主神様にばれちゃったのか。

 ごしゅうしょうさまです。




「ううっ……、屈辱です。女神たる私が、人間として働けなどと……」


「あ~。気の毒なので、あんまりサービスを利用しないようにしますね」


「いえ、それは困ります。コンシェルジュとして金生様のために貢献したと認められないと、神界に戻してもらえないのです。……というわけで、サービスはガンガン利用してください。無茶ぶりカモーン」


「そうなんですか? ならばさっそく……」




 俺は女神様に、お願いしてみた。




「なるほど。ポルシェ911GT3RSを、確保すればよろしいんですね?」


「そんなこと、できますか?」


「金生様、国税局や税務署まで支配下における私ですよ? 女神パワァを、甘く見ないでください。自動車メーカーぐらい、ちょちょいのちょいです」


 全然甘く見てなんかいない。

 俺は先日、女神の加護の恐ろしさを垣間見た。


 のりタン先生に、「ログインボーナスって知ってますか? 税金かからないって、本当ですか?」と質問してみたんだ。


 すると先生の瞳が紫色に染まって、正気を失った。

 そしてロボットみたいな口調で喋り始めたんだ。


「女神ノ加護ハ、非課税デス。コレハ税金二関ワル者、全員ガ知ッテイル常識デアリ……」


 夢花と2人で、その異様な光景に震え上がった。

 さらに恐ろしいのはのりタン先生が正気に戻ったあと、ログインボーナスについて語った記憶が全くなかった点だ。


 税務署や国税局も、こんな風に女神様の支配下にあるんだろうな。

 神様怖い。




「フルオプションに、ヴァイザッハパッケージも付けて手配しますね。400万ちょっとのパッケージだから、別にいいですよね? あと、ボディカラーはミッドナイトパープルにします。金生様は私の使徒なのですから、私の色以外認めません。純正にない色だから+500万ぐらいしますが、問題ないでしょう。お支払い額は、約4000万円になります」


 この女神様も、金銭感覚おかしいな。

 勝手に900万も高い仕様にするなよ。


 怖いから、逆らわないけど。




 女神様は最後に、ディーラーの店長と通話した。

 ああ、店長さんの瞳も紫色に光ったよ。

 こりゃ、洗脳されたな。




「お客様。これで無事に、ポルシェ911GT3RSの予約が確定しました。2ケ月ほどで、納車できます」


「思ったより、早いですね」


 俺は感心したが、問題に気付いた。

 2ケ月車なしは、不便だ。


 それにGT3RSは、実用性のないスーパーカー。

 もっと乗り心地がよく、普段乗りに使える車も必要だ。




「あ~、店長さん。すぐに納車できる車ってありますか? それもついでに買いたいなって」


「そうですね……。展示車両に使っていた車なら、最短3日でお渡しできますが」


「詳しく見せてください」


「展示車両はオプションやグレード、車体色を自由に選べません。ちょうど今お出しできるのが、かなり高額のモデルばかりになってしまいます」




 店長さんがタブレットで、すぐ納車できる車種の一覧を見せてくれた。


 ポルシェ・パナメーラ ターボS Eハイブリッド

 3094万円


 ポルシェ・カイエン ターボGT

 2851万円




 うむ、高い。




「1億円超えないなら、大したことないわね。ポルシェばっかりだけど、カエル好きなご主人様にはいいんじゃない? 2台ともください」


 熱い風評被害だ。

 まあ、アマガエルとかはそんなに嫌いじゃない。


 それと、勝手に購入を決めるな。






「あたし、オープンカーの助手席にも乗ってみたいな。この718スパイダーっていうのもください。1356万なんて、安いわね」


 安くない、安くない。


 知らないからな?

 オープンカーなんかに乗ったら、風でお前のストロベリーブロンド巻き髪がメデューサみたいになるぞ?





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