第四十二話

 バレンタインデーの夜、佳奈かなさんが俺の一軒家いっけんやにやってきた。話によると涼子りょうこさんは、手作りのチョコレートを亘司こうじさんに渡したそうだ。そして二人は、付き合うことになったそうだ。話が終わると佳奈さんに、赤い包装紙ほうそうしつつまれた小箱こばこを手渡された。

「一応、これも手作りです。美味おいしいといいんですけど……」


 俺は箱の中から、ハート形のチョコレートを取り出した。少し割って食べてみると、甘さがひかえめで俺の好みだった。実はバレンタインデーの前に佳奈さんに、チョコレートはどんな味が好みか聞かれていた。甘すぎるのは少し苦手ですと答えたので、ちゃんと甘さ控えめにしてくれたのだろう。


 俺たちはチョコレートを食べながら、今後のことを話し合った。まず結婚したら佳奈さんは、この一軒家に住むこと。でも、仕事はめない。ここで、リモートワークを続けることにした。


 でもその前に、大きな問題があった。おたがいの両親への、紹介しょうかいだ。佳奈さんが神奈川の実家に連絡れんらくすると、今週の土曜日にご両親にきてもらうことになった。それならばと俺も東京の両親に連絡すると、土曜日にくることになった。


 佳奈さんの話だと、佳奈さんのお父さんはきびしい人で、お母さんはおだやかな人だそうだ。俺も佳奈さんに、俺の両親はどっちも陽気ようきな人だと教えた。佳奈さんのお父さんが厳しい人だと聞いて、俺は緊張きんちょうした。すると佳奈さんは、笑った。

「大丈夫。ウチのお父さん、一人娘ひとりむすめの私に弱いから」


 でも俺は、気になった。佳奈さんはご両親に俺のことを、何と説明したのか。すると、『材木屋ざいもくやで使われなかった端材はざいを使って、一軒家を建てた人』と説明したそうだ。うーむ。間違ってはいないが、それで俺の印象いんしょうは良くなるのか、不安だった。すると佳奈さんからも、聞かれた。佳奈さんのことを、どう説明したのか。俺は、『佳奈さんは美人だ』と説明したと答えた。すると佳奈さんは、コケた。

「えー、もうちょっと性格とか、ちゃんと説明してくださいよー!」


 なので俺は、『佳奈さんはひかえめで優しい』と追加情報をLINEで送った。


 だがやはり、そんな大事な土曜日を控えて俺は緊張していた。緊張しすぎてテンパって、『どれくらい大きな雪だるまを作れるか、チャレンジしてみた』というわけの分からない企画きかくを考えた。


 まずは直径一メートルの雪玉の上に直径五十センチの雪玉をせて、雪だるまを作った。下の雪玉にえだを二本差して手にして、上の雪玉には端材で目と口を付けた。うん、なかなかのものだ。ちゃんと、雪だるまになってる。次は直径二メートルの雪玉の上に直径一メートルの雪玉を載せて作ってみるか……。そう考えたが、すぐに無理だと気づいた。


 いやいや、直径二メートルの雪玉って無理だろ、どう考えても! 更にその上に直径一メートルの雪玉の雪玉を載せるのも無理だろ! という訳で直径五十センチの雪玉の上に直径二十五センチの一回り小さな雪だるまを作った。そして、『親子雪おやこゆきだるまでーす!』という動画を撮影さつえいして配信はいしんしてみたが、やはり視聴回数は、あまり伸びなかった。


 そして、土曜日になった。まず佳奈さんのご両親が、タクシーで一軒家まできた。佳奈さんのお父さんは、佳奈さんから聞いていた通り、厳しそうな人だった。俺は「初めまして、新納にいなさん。俺は今福いまふく健一郎けんいちろうといいます。よろしくお願いします」と挨拶あいさつしたが、「ふん。私はまだ、君たちを認めた訳ではない」と返された。


 そして少しすると今度は、俺の両親がやってきた。いつも陽気な父親は、その時も陽気だった。

「よう、健一郎、久しぶり。会社を辞めて長野県で暮らすと聞いた時はびっくりしたが、元気そうだな」


 お互いの両親を紹介し終わると俺は、一軒家の中を案内した。俺の父親にキッチンのかまどを見せると、「おー、これがかまどか、初めて見た。これをお前が作って、これでご飯をいているのか。たいしたもんだ」と、はしゃいだ。すると佳奈さんのお母さんと俺の母親も、めずらしそうに見入みいっていた。

「ほんと、初めて見たわ。健一郎、あんたなかなかやるわね」

「これで一度、ご飯を炊いてみたいわ」


 それから俺の父親は、ドラム缶風呂かんぶろいついた。

「おー、こりゃすげえ。あとで入らせてくれ、健一郎」


 佳奈さんのお父さんは、「ふん。一応、人は生活できるようだな。快適かいてきさは分からんが」と感想をらした。すると佳奈さんは、「快適よ。ちゃんとお風呂にも入れるし。私はここの生活が、気に入っているの」と言ってくれた。それを聞いた佳奈さんのお父さんは、「ふん。佳奈がいいなら、それでいい」と言うしかなかったようだ。佳奈さんから聞いていた通り、佳奈さんのお父さんは佳奈さんに弱いようだ。


 それから俺はニワトリ小屋のニワトリと卵を使って、親子丼おやこどんを作った。

美味うまい!」

美味おいしい!」

「お店で食べる、親子丼みたい」と、高評価こうひょうかだった。佳奈さんのお父さんをのぞいて。

「ふん。私は、気に入らんな。なぜなら、が入っていないからだ」


 すると佳奈さんのお母さんが、たしなめた。

「ちょっと、お父さん!」


 でも佳奈さんのお父さんは、言ってくれた。

「この親子丼は、気に入らん。だが健一郎君、君のことは気に入った。一人でこんな一軒家を建てて暮らすなんて、なかなか出来るもんじゃない。佳奈は小さい頃はおてんばだったが、大切に育ててきた。だから君も佳奈のことを、大切にしてくれ」と頭を下げた。俺も、「はい。約束します」と頭を下げた。

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