第三十七話

 俺は一口ひとくちお茶をすすると、佳奈かなさんに聞いてみた。

「そういえば今日は慶介けいすけは、どうしてますか?」

「はい。伊織いおりと朝から、イチャイチャしてましたよ~」


 俺は、ハハハと苦笑にがわらいして更に聞いた。

「それじゃあ、亘司こうじさんは?」

「はい。涼子りょうこさんと一緒に、出かけました。何でも、リンゴ農家のうかさんに話を聞くとかで」


 俺は、感心した。なるほど。もう涼子さんは、『地域ちいきおこし協力隊』の仕事をする前提ぜんてい下調したしらべをしているんだなと。でも亘司さんと一緒なら、大丈夫だろう。亘司さんは面倒見めんどうみがよくて、頭もいい人だから。俺がそう言うと佳奈さんはお茶を一口すすった後、告げた。

「何を言ってるんですか。亘司さんは涼子さんに、気がありますよ」


 俺は飲んでいたお茶をき出しそうなくらい、おどろいた。

「ええ?! 亘司さんが?! いつから?!」


 すると佳奈さんは、冷静に答えた。

「多分、ワーケーションハウスで出会った頃からでしょう。だから亘司さんは涼子さんが住もうとしていたワーケーションハウスに、引っ越してきたんでしょう」


 俺は、沈黙ちんもくした。そんなこと全然、気が付かなかったからだ。すると佳奈さんは、続けた。

「このことはとうの涼子さん以外、全員気づいていると思ったんですけどねえ。健一郎けんいちろうさんも、気づいていなかったですか……」


 俺は取りあえず、あやまってしまった。

「はい、すみません……」

「まあ、お似合にあいの二人ですから、その内に上手うまく行くでしょう」

「はあ、そうなんですか……」


 俺はそんなことに気付かずにいたので少しショックを受けていると、佳奈さんは提案してきた。

「ねえ、健一郎さん。キノコをりに行きませんか?」


「え?」と俺は何のことか分からなかったが、思い出した。以前、俺が山でキノコを採ってキノコなべを作ったと言ったら、佳奈さんが興味きょうみを持ったことを。もちろん俺にはことわる理由が無かったので早速さっそく、行くことにした。


 一度、行っていたので、どこにどんなキノコが生えているかおぼえていた。なので順調じゅんちょうにナメコ、シイタケ、シメジを採った。佳奈さんは少し、驚いていた。

「へー、こんなにキノコが生えていたんですねえ。仕事の気分転換によく山道やまみちを散歩するんですが、キノコには気づきませんでした」


 キノコを採り終わると夕方になったので、少し早い夕食を取ることにした。メニューはもちろん、キノコ鍋だ。おじやも食べると佳奈さんは、感心していた。

「本当に、この山は豊かですね。こんなに美味おいしいキノコまで生えているなんて」


 後片付あとかたづけが終わると日がれたので、俺は佳奈さんをワーケーションハウスまで送った。帰ろうとすると、クギをされた。

「次に何か面白おもしろそうなことを考えたら、私も呼んでくださいよ。一人でやっちゃうのは、ズルいですよ」


 俺は少しあせって、「はい、そうします。絶対、そうします」と答えて軽トラを一軒家いっけんやに向かわせた。その途中とちゅう、考えた。今日の佳奈さんは、何だか積極的というか遠慮えんりょが無いように思えた。でも、いやな気はしなかった。何だか俺と佳奈さんの距離が、更にちぢまったように思えたからだ。


 ベットに入ってから、佳奈さんと一緒に漬物つけもの味見あじみをして昼食を食べた時の、配信動画の視聴回数を確認した。するとそれは、五十万回をえていた。


 コメントも付いていた。『付き合ってる、こいつら絶対に付き合ってるよー!』、『うーむ。確かに以前よりも、したしそうな雰囲気ふんいきだな……』、『あー、俺もあんな美人の彼女が欲しいー! 取りあえず、リア充爆発しろ!』など。


 漬物に関するコメントが少ないなと思いつつみんなするどいなと思った。これは佳奈さんの許可きょかをもらって、正式に俺たちが付き合っていると動画で配信した方がいいかな? と考えながら、その日は寝た。


 そして木曜日の夕方。うーん、土曜日あたりに、佳奈さんとお出かけしたいなー。あ、もう付き合っているから、デートか。どっちにしても、どこかに出かけたいな。あ、そういえば結局、俺が見せたいと思っていた夜景やけいをまだ見に行っていないから、その夜景を見に行こうかと考えていると佳奈さんからLINEがきた。

『涼子さんが「地域おこし協力隊」に、採用さいようされるそうです! なので明日の夜、おいわいをするそうです!』と。


 俺は、それはおめでたい、ぜひ、お祝いしたいと思った。夜景デートは、また後でいいと考えた。なので、返信へんしんした。

『分かりました。明日の夜、俺も行きます』と。すると佳奈さんから、お願いの返信がきた。


 金曜日の夜、俺はワーケーションハウスの居間いまにいた。すでに涼子さんを含む、全員がそろっていた。慶介は、「それでは涼子さん、意気込いきごみを一つ」と言ってマイクを涼子さんに手渡てわたした。涼子さんは、笑顔で宣言せんげんした。


「このたびは、私のためにお祝いをしてくれてありがとう! 初めは研修けんしゅうを受けるんだけど、それが終わったらリンゴ作りをがんばります! 私の目標もくひょうはZ市のリンゴの生産量を増やすことはもちろん、特徴とくちょうのあるブランドリンゴを作ることです!」


 すると皆から、拍手はくしゅが起こった。そして慶介は囲炉裏いろりるしてある、鍋のフタを取った。

「それではお祝いの、キノコ鍋でーす! キノコは健一郎さんに、採ってきてもらいましたー!」


 俺は少し照れながらも、ぺこりと頭を下げた。これは、佳奈さんのアイディアだ。キノコ鍋が美味しかったから、お祝いで出そうと。更に白菜はくさいと、きゅうりの漬物を出そうと。なので俺は、タッパーに入った漬物を慶介に手渡した。慶介はそれを持って、キッチンに向かった。

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