第五章 そうだ! プロポーズをしよう!

第三十六話

 亘司こうじさんの発言に、慶介けいすけは喜んだ。

「本当ですか、亘司さん! 僕はもちろん、大歓迎だいかんげいですよ! 涼子りょうこさんが入居にゅうきょしてきても、もう一つ部屋はいてますし!」


 それから一週間後の金曜日。俺たちは再びワーケーションハウスに集まって、涼子さんと亘司さんの歓迎会をしていた。たこ焼きパーティーで。


 涼子さんの荷物にもつは、俺が軽トラで長野市とZ市を往復おうふくしてワーケーションハウスに運び込んだ。亘司さんは会社からワーケーションの許可を取り今日、再びやってきた。パソコンがあれば会議も仕事も出来るので、取りあえず亘司さんはデスクトップパソコンと着替きがえなどを持ってきた。家具かぐなどは二週間後に届くそうだ。


 たこ焼きを食べながら亘司さんは、涼子さんに聞いていた。

「それで仕事の方は、どうなりましたか?」


 涼子さんも、たこ焼きを食べながら答えた。今日、住民票じゅうもんひょうを移しに市役所に行ったついでに、話を聞いてみた。するとちょうどZ市では現在、『地域ちいきおこし協力隊』を募集ぼしゅうしている。


 Z市の名産めいさんはリンゴだが近年、生産者の高齢化などが原因で農家が減って生産量せいさんりょうが減少している。だから、りんごの生産量を上げるための仕事をして欲しい。面接をしたいので、来週の月曜日にまたきてくれと言われた、と。亘司さんは、微笑ほほえんだ。

「なるほど。やりがいがありそうな、仕事ですね」


 涼子さんは、冷静に答えた。

「まあね。農業って、ちょっと面白おもしろそうだし。だから面接に受かったら、やってみようと思うの」

「そうですね。日本の食料自給率しょくりょうじきゅうっりつは低いですから、ある意味、社会貢献しゃかいこうけんですね」

「なるほど……。そうかもね。よし、更にやる気が出てきた!」


 そんな涼子さんを亘司さんは、やはり微笑んで見つめていた。何か二人の間に入り込めない雰囲気ふんいきさっした俺は、ふと慶介を見た。すると慶介は、り切っていた。

「さあさあ、たこ焼きだけじゃあれなんで、次は蕎麦そばを作りまーす! やっぱり長野県と言えば、蕎麦でーす!」


 と慶介は伊織いおりさんと一緒に、囲炉裏いろりるしてあるなべで蕎麦をで始めた。更に佳奈かなさんがキッチンに向かったので、俺も行ってみた。

「何か、手伝いましょうか?」

「ありがとうございます。それじゃあどんぶりを人数分、持って行ってください。私は、出汁だし入りしょうゆを持って行くので」


 俺が「分かりました」と答えると、佳奈さんは微笑んだ。どうしたんですかと聞くと、佳奈さんは答えた。

「だって私たち、付き合っても敬語けいごで話してるから」


 俺はほほを、ぽりぽりといて答えた。

「すみません。俺、あんまり女性と付き合ったことが無いので、どう話せばいいのかよく分からなくて……」

「でもまあ、私たちらしくて、いいと思います」と佳奈さんは、にっこりと微笑んで、出汁入りしょうゆを持って居間いまに向かった。


 蕎麦も食べ終わり歓迎会が終わると、皆で後片付あとかたづけをした。だがそれが終わると慶介は、「二次会だー!」と伊織さんと二人でかんビールを飲み始めた。亘司さんも涼子さんと、何やら真剣な表情で話し込んでいた。俺はそろそろ帰ろうかなと思ったが、思い出した。


「佳奈さん、ちょっといいですか?」

「はい、何でしょう?」

「明日の昼食は、俺の一軒家いっけんやで食べませんか? やっと白菜はくさいと、きゅうりの漬物つけものが出来たようなので」

「ほんとですか! 分かりました! 行きます!」

「それじゃあ、明日の午前十一時くらいにむかえにきます。おやすみなさい」


 と今度こそ帰ろうとしたがふと見ると、みんなそれぞれ会話に夢中むちゅうになっていた。だから俺は佳奈さんに軽くキスをして、ワーケーションハウスを出た。


 そして次の日の昼前に、俺と佳奈さんは四斗樽よんとだるの前にいた。撮影さつえいするためのスマホは、もちろんセットしてある。俺は少し緊張きんちょうしながらも、漬物を取り出した。見た目は、悪くなかった。だが問題は、味だ。なので包丁ほうちょう一口大ひとくちだいにして、味見あじみをしてみた。きゅうりを味見した佳奈さんは、微笑んだ。

「うん、美味しいです。昆布こんぶかくし味がいています」


 次に俺が、白菜の漬物を味見してみた。だがそれは、ちょっとしょっぱかった。うーむ。白菜と、きゅうりを同じたるに入れたのがマズかったかな? 別々の樽で漬けた方が良かったかな? 取りあえず俺は、感想を言った。

「うーん、これはちょっと、しょっぱいですねえ……」


 味見をしてみた佳奈さんも、同じ感想だった。

「なるほど、確かに……。でも、塩抜しおぬきをすればいいんじゃないでしょうか?」


 なるほど。しょっぱかったら、塩抜きをすればいいか……。すると、佳奈さんがググってくれた。それによるとうすめの塩水しおみずを作って、十分じゅっぷんほど入れればいいそうだ。なので早速さっそく、やってみた。結果は、大成功だいせいこうだった。

「うん。ちょうどいい塩加減しおかげんになりました」

「確かに。これはご飯が、すすみそうですねえ」


「はい、そうですよね」と俺は、羽釜はがま指差ゆびさした。俺は佳奈さんをワーケーションハウスに迎えに行く前に、ご飯をいていた。もちろん漬物と一緒に、食べるためだ。俺たちは早速、居間に移動して漬物とご飯を食べ始めた。予想していた通り、ご飯とメチャクチャ合った。


「これは美味おいしいです。ご飯がすすみます! 止まりません!」

「本当に、美味しいですね。でも……」と佳奈さんは、持ってきたタッパーを開けた。 

「漬物だけだと何なので、卵焼たまごやきを作ってきました」


 俺はそれを、食べてみた。あまくて美味い! 漬物を食べてちょっとしょっぱくなって、ご飯を食べる。そして、卵焼きを食べる。すると漬物が欲しくなって、食べる。そして、ご飯を食べる。この繰り返しで俺は、ご飯を三杯さんばい食べた。ちょっと食べ過ぎて動けなくなっていると、佳奈さんがお茶をれてくれた。


「漬物が美味しくできて、良かったですね」

「はい。それに卵焼きも美味しかったですよ」

「それは何よりです。ありがとうございます」

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