第三十四話

 俺は、何とか話がいい方向に進んできたなと、『ほっ』とした。すると、スマホがった。見てみると、慶介けいすけからLINEがきていた。俺は、「ちょっと失礼」とLINEを見た。

『こんばんは、健一郎けんいちろうさん! おどろかないでください。今、何と、僕のワーケーションハウスに亘司こうじさんがきています! なので健一郎さんもきませんか?』と。


 俺はそれを見て、ひらめいた。そうか! 涼子りょうこさんが実家を出るなら、慶介のワーケーションハウスがいいんじゃないか?! あそこには佳奈かなさんと伊織いおりさんもいて、いい話し相手あいてになるだろう。それに今、亘司さんもきている?!

 

 俺は涼子さんのことを、亘司さんに相談してみようと思った。亘司さんはすごく頭が良い人で、会社で働いていた時に何度も仕事のアドバイスをもらって助けられたからだ。だから今度も、何かいいアドバイスがもらえるかも知れないと思った。


 俺は、道夫みちおさんと涼子さんに提案してみた。これから涼子さんを、ワーケーションハウスに連れて行きたいと。そこでアドバイスをもらえるかも知れないし、ワーケーションハウスが気に入ったら、そこに住めばいいと。すると道夫さんは、うなづいた。

「ふーむ、それもいいかも知れんなあ……。涼子、お前はどうだ?」


 それを聞いた涼子さんも、頷いた。

「アタシもいいわよ。そのワーケーションハウスに、ちょっと興味があるから」


 なので早速さっそく、俺は涼子さんと俺の一軒家いっけんやに移動した。更にそこで軽トラに乗って、ワーケーションハウスに移動した。居間いまに入ってみると、ピザがったテーブルを佳奈さんと伊織さん、慶介と亘司さんがかこっていた。慶介の話だとさっき亘司さんが突然きたので、取りあえず宅配ピザでもてなしている、とのことだった。俺は亘司さんに近寄り、右手を出して握手あくしゅした。

「おひさしぶりです、亘司さん!」

「うん、久しぶり。元気そうで何よりだよ。で、そちらの女性は?」


 すると涼子さんは、元気な声で挨拶あいさつした。

「はーい! アタシは丹波たんば涼子っていいまーす! 皆、ヨロシクー!」


 そして俺は、説明した。涼子さんは道夫さんのおまごさんで今、住むところをさがしていると。涼子さんはテーブルに着くと「いっただきまーす!」とピザを食べながら、佳奈さんと伊織さんとしゃべり出した。早くも意気投合いきとうごうしたのか、三人とも楽しそうにしていた。

「へー、二人は同じ会社に勤めていて、ここで働いているんだー?」

「はい。自然の中だとリフレッシュも出来て、働きやすいです」

「ワーケーション、最高でーす!」


 すると涼子さんは、即決そっけつした。

「はーい、アタシ、ここに引っしてきて住みまーす!」


 突然のことでもちろん慶介は驚いた表情になったが、受け入れた。

「はい、ご入居にゅうきょ、ありがとうございます! それでいつから住みますか?」

「えーと、出来るだけ早く。早速さっそく、明日から引っ越しの準備をするわ!」

「なるほど。ありがとうございます!」


 あまりに突然に涼子さんの住む場所が決まったので俺も驚いたが、涼子さんが決めたことなので、まあいいかと思った。すると次は仕事か……。


 俺は、亘司さんに相談してみた。涼子さんは日本の会社を良くしたいと思ってコンサルティング会社で五年間働いたが最近、めてしまった。そこで次の仕事を探しているが、なかなか見つからないと。亘司さんは、腕組うでぐみをして考え込んだ。

「なるほど。涼子さんは、意識が高い女性のようだね……」


 少しすると銀縁ぎんぶちメガネのブリッジを右中指で押し上げ、つぶやいた。

「うん。これなら、どうだろう……」


 そして涼子さんの隣に、座った。

「あの、涼子さん、ちょっとよろしいですか?」

「え? 何? っていうかあんた、誰だっけ?」


 亘司さんは再び、銀縁メガネのブリッジを右中指で押し上げて答えた。

「私は、一条いちじょう亘司といいます。健一郎と慶介の、会社での元先輩もとせんぱいです」

「あー、なるほど。アタシは涼子、ヨロシク。で、何?」

「はい。あなたの次の仕事のことですが、『地域ちいきおこし協力隊』をしてみるのはどうでしょうか?」


 涼子さんは、何それ? という表情になった。

「『地域おこし協力隊』?」


 亘司さんは、説明した。『地域おこし協力隊』は、多くの市町村にあります。それは都市地域から過疎かそ地域などの条件不利地域に住民票を移動し、地域ブランドや地場産品じばさんぴんの開発・販売・PRなどの地域おこし支援や農林水産業への従事じゅうじ住民支援じゅうみんしえんなどの地域協力を行いながら、その地域への定住・定着をはかる取り組みです。仕事は地域のミッションにしたがい、地域に貢献こうけんするための業務を行う、と。


 すると涼子さんは、腕組みをして考え始めた。

「うーん、なるほど。『地域おこし協力隊』か……。アタシは今まで東京に住んでいたから、このZ市の『地域おこし協力隊』になれるか……。うん、面白おもしろそう! アタシ、『地域おこし協力隊』をやってみるわ!」


 そして涼子さんは、亘司さんの肩を『バンバン』とたたいた。

「あんた、亘司さんだっけ。あんた、なかなかやるわね! わはははは!」


 俺は、亘司さんに何てことを?! とあせったが、亘司さんはいやは顔はしていなかった。それどころかやさなまなざしで、涼子さんを見つめていた。すると慶介は、亘司さんにマイクを差し出した。

「さあ、問題が解決したところで、亘司さんにも親睦しんぼくを深めるために一曲歌ってもらいましょう!」

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