第三十話

 それでもやはり俺には、不安が残った。ちゃんと食べられるキノコを、れるだろうか。毒キノコを採って、しまわないだろうか……。すると、ひらめいた。そうだ、道夫みちおさんに聞いてみよう! 

 

 この山に何年も住んでいる道夫さんなら、きっとキノコにもくわしいはずだ! 俺は食べられるキノコをおぼえたいので、採ったキノコを道夫さんに確認してもらおうと思った。早速さっそく、道夫さんの家に行ってそう伝えると、道夫さんは読んでいた新聞をたたみながら答えた。

「ああ、いいぜ。ちょうど今、ヒマだったから」


 そして俺と道夫さんは、俺の一軒家いっけんやの近くの山に入った。俺はスマホで撮影さつえいしながら、キノコをさがした。すると倒れている木に、小さくて赤茶色のキノコを見つけた。これはナメコだろうと思って本で確認すると、そう思えた。そして道夫さんにも、確認してもらった。

「ああ、これはナメコだ。もちろん食えるぜ」


 そして次に、木に生えているキノコを見つけた。かさはちょっと大き目で、茶色だった。シイタケだろうと思って本と道夫さんに確認すると、そうだった。


 それから地面から生えている、赤くて細長いめずらしいキノコを見つけた。本で調べてみると、ベニナギナタタケのようだ。毒キノコではないので採ろうとすると、道夫さんに止められた。

「それはめた方がいいな、あんちゃん」


 不思議に思った俺は、聞いてみた。

「え? どうしてですか?」


 すると道夫さんは、説明した。これはおそらく、ベニナギナタタケだろう。でもこれによく似たキノコに、カエンタケがある。こいつは赤くて太くて棒状ぼうじょうでベニナギナタタケに似ているが、毒キノコだ。毒キノコに似ているキノコは、採らない方がいいと。本で確認してみると、その通りだった。なので俺は、このキノコを採るのを止めた。


 そして次は、木の根に生えているキノコを見つけた。かさが茶色でじくは白くて、細長かった。本と道夫さんに確認してみると、シメジだったので採った。


 うん、今回は、これくらいでいだろう。キノコを教えてくれた道夫さんにおれいに、採ったキノコの半分を渡そうとしたがことわられた。

「自分で食うモノは自分で採るから、大丈夫だ。あ、食うならなべ美味うまいぞ」


 そして道夫さんは自分の家に向かって、歩き始めた。まあ、いいかと思い俺は、一軒家に戻った。そしてキノコ採りの動画を、配信はいしんした。それから今日の夕食、キノコ鍋を作るためにZ市のスーパーで食材を買ってきた。道夫さんにも言われたことだが、俺はまだキノコ鍋を食べたことが無かったので、作ってみることにした。俺はスマホで撮影しながら、作り始めた。


「えー、まずは鍋に、水とダシが入ったしょうゆを入れます。そして、煮立にたたせます。その間に採ってきたキノコを、よく洗います。そしてキノコ、豚肉、豆腐とうふを食べやすい大きさに切ります。鍋の方が煮立ったようなのでキノコ、豚肉、豆腐、もやしを入れます。これらに火が通ったら完成です。いただきます。


 うん、キノコそのものも美味おいしいですが、キノコのうま味がしみんだスープも美味しいです。これは、おじやにした方がいいですね。はい、ほとんどの具材を食べたので、おじやを作ります。ご飯を入れて、生卵も入れます。いただきます。うーん、やっぱりキノコのうま味がご飯にしみ込んで、美味しいです! はい、完食しました。ごちそうさまでした」


 そしてキノコ鍋を作って食べる動画も、配信した。鍋などの食器を洗い後片付あとかたづけをして、ドラム缶風呂かんぶろに入った。そしてベットに入って、動画の視聴回数を確認した。キノコを採る動画とキノコ鍋を作って食べる動画の視聴回数を合わせると、五十万回をえていた。

 

 やはりキノコを採るという珍しい動画は、バズるようだ。そしてそれを材料にした、キノコ鍋の動画につながったんだと思う。動画を観た人のコメントも、にぎわっていた。『あー、俺もキノコを採ってきて、キノコ鍋を作りてー』、『これは、めしテロだー!』、『でも毒キノコには、注意だな』など。


 俺はひさしぶりに自分の力で撮影した動画がバズったので、自信を持った。やはり、どういう動画を撮影するのかが重要だと思う。珍しくて面白い動画なら、やはりバズる。これからも、そういう動画を配信して広告収入こうこくしゅうにゅうかせごうと決心して、その日は寝た。


 そして、土曜日になった。朝ご飯を食べた俺は軽トラに乗って、ワーケーションハウスに向かった。そこに着くと佳奈かなさんが、玄関前に立っていた。赤と黒のチェックのスカートに、黒の長袖ながそでニットを着ていた。か、可愛かわいい……。


 いや、佳奈さんはどちらかというと美人だと思うが、服装が可愛い。それに、にっこりと微笑ほほえんでいる。それが可愛い……。と俺が佳奈さんを見つめてボーッとしていると、佳奈さんから話しかけてきた。

「今日はよろしくお願いします、健一郎けんいちろうさん!」


 こくこくと、俺はうなづいた。のどがからからで緊張して、しゃべれなかったからだ。それでも佳奈さんが軽トラの助手席に乗ると、俺も何とか落ち着いてきた。

「そ、それでは諏訪湖すわこに向けて、出発します!」

「はい!」


 それから軽トラの中に、沈黙ちんもくが流れた。何も話さないのは、よくないな。俺は必死に、話題を探した。そしてつい、言ってしまった。

「あー、そういえば、慶介けいすけ伊織いおりさんはなかが良いですね。もしかして、付き合ってたりして?」


 すると佳奈さんは、真顔まがおで答えた。

「はい。二人は付き合っていますよ」

「ええーー!!」


 俺は思わず、急ブレーキをんだ。佳奈さんが、心配そうに聞いてきた。

「だ、大丈夫ですか?! 健一郎さん!」

「は、はい。大丈夫です……」


 俺は再び、軽トラを走らせた。そして、聞いてみた。

「あ、あの。付き合っているって、いつから付き合っているんでしょうか?……」


 すると佳奈さんは、ちょっと考え込んだ表情になった。

「えーと、ここにきたその日に良い感じになって、次の日から付き合いだしたみたいです」


 はやっ、慶介、付き合いうの早っ! そして俺は、思い出した。慶介は明るくて親しみやすい性格だったから、会社でも女子社員と仲良くしてたなあ……。


 そして俺は、気付いた。軽トラの中に流れる、微妙びみょうな空気を。しまったーー!! これは何か、微妙な空気になってしまったーー!! 俺は取りあえず、無難ぶなんなことを言った。

「そ、そうだったんですか……。慶介と伊織さんはお似合いだと思うので、上手うまく行くといいですね」

「はい」

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