第二十六話

 俺も佳奈かなさんもまだアルコールを飲んでいなかったので、俺は佳奈さんを軽トラに乗せて一軒家いっけんやまで移動した。一軒家を見せると、佳奈さんは更に目を輝かせた。

「すごい! 立派りっぱな一軒家ですね! あの、中も見てみたいんですけど……」


 なので俺は佳奈さんを、一軒家の中に案内した。すると佳奈さんは、「すごい!」と喜んでくれたが一番、興味を持ったのは、かまどだった。

「うわー、すごい! 私、かまどって初めて見ました! 健一郎けんいちろうさんっていつもここで、料理をされるんですか?」


「まあ、そうですね」と答えた俺は、思いついた。

「あの佳奈さんって、釣りは得意ですか?」


 すると佳奈さんは、ぶんぶんと首を左右にった。

「子供の頃にちょっとやっただけで、今はもう全然していません」


 俺はそれなら、ちょっと釣りをしてみませんかと誘ってみた。すると佳奈さんは、笑顔で答えた。

「はい、釣りもしてみたいです!」


 なので俺たちはいつもの川に行って、釣りをした。佳奈さんは器用きようなようで、俺が釣り方を教えるとすぐにアマゴを二匹、釣った。俺はそれをかまどで焼いて、食べてみませんかと言ってみた。すると佳奈さんは、即答そくとうした。

「はい、食べてみたいです!」


 俺はかまどに金網かなあみをかけて端材はざいを燃やして火をおこし、塩を振ったアマゴを焼いた。アマゴを食べた佳奈さんは、喜んでくれた。

美味おいしい! 私、こんなに美味しい焼き魚を食べたのは初めてです!」


 俺もアマゴを食べ終わると、もう夕方になった。佳奈さんはちょっとトイレと言ってキッチンを離れたが、すぐに戻ってきた。そして顔を真っ赤にしてつぶやいた。

「あの、トイレがちょっと……」


 俺は、佳奈さんが何を言いたいのかさっした。この一軒家のトイレは洗濯機の横に、和式の便器べんきがあるだけだ。女性には、使いづらいだろうな……。


 なので俺は、ググってみた。するとライブ会場や花火大会の会場で見かける、仮設かせつトイレを見つけた。幅と奥行きが一メートル、高さは二メートルだ。俺がスマホの画面を見せると佳奈さんは『こくり』とうなづいたので、俺はアマゾンでその仮設トイレを買った。


 それから二人で、ワーケーションハウスに戻った。慶介けいすけにどこに行っていたのかと聞かれたので、俺が建てた一軒家を見せてアマゴを釣って食べたと説明した。すると慶介は、ニヤニヤした。

「もちろん、このワーケーションハウスは男女交際を禁止していませんが、節度せつどのあるお付き合いをお願いします」


 俺は、慶介と伊織いおりさんはの方が節度を持って付き合った方がいいんじゃないかと、言ってみた。すると伊織さんは慶介の左腕に抱きついて、「もちろんでーす!」と笑顔で告げた。俺は、まあ二人がいいならそれでいいかと納得した。すると伊織さんは提案した。

「明日も二人でどこかに、遊びに行ったらどうですか? 明日は日曜日なので、もちろん仕事は休みなので!」


 俺は、ちょっと考えてから答えた。

「いや、それはちょっと難しいですねえ……」


 実は明日は、畑の野菜を収穫しゅうかくしようと思っていた。それを言うと、佳奈さんは興味を持ったようだ。

「野菜の収穫ですか……。そういえば、畑もありましたね。健一郎さん、私、野菜を収穫してみたいです!」


 俺は断る理由が無かったので、「はい。それでは、お願いします。明日の朝に軽トラでむかえにきます」と答えた。それからバーベキューの後片付あとかたづけをして、俺は一軒家に戻って寝た。


 次の日。ワーケーションハウスから佳奈さんを軽トラに乗せて連れてくると早速さっそく、野菜の収穫を始めた。二人でトマト、じゃがいも、白菜はくさい、きゅうりを収穫した。かぼちゃはまた後で、収穫することにした。そしてトマトとジャガイモを使ってサラダを作って、二人で食べた。


 でも白菜ときゅうりはどうしようかと、考えた。すると、ひらめいた。道夫みちおさんの奥さんのはなさんに、漬物つけものの作り方を教えてもらおうと! そうすればご飯のおかずにして、食べることが出来る。


 なので早速、佳奈さんと一緒に道夫さんの家に行った。玄関げんかんで俺たちを見た花さんは、大声を出した。

「大変よ、おじいさん! 健一郎さんが、およめさんを連れてきたわ!」


 すると道夫さんが、ものすごい速さで玄関にやってきた。

「おー、こりゃ美人さんだ! やったな、あんちゃん!」


 それを聞いた佳奈さんは、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。なので俺は、説明した。佳奈さんは、俺の昔の後輩が経営しているワーケーションハウスに住んでいる人だと。だが道夫さんは、ニヤニヤしながら聞いてきた。

「それはいい。そんなことは、どうでもいい。わしが聞きたいのは、あんちゃんがその美人さんを、どう思っているかだ!」


 俺は、思っていることをそのまま告げた。

「えーと……。佳奈さんは真面目まじめで、とても魅力的みりょくてきな女性だと思います」


 すると佳奈さんはますます顔を赤くして、ますますうつむいてしまった。その様子を見て道夫さんは、言い切った。

「こりゃあ、みゃくありだな! がんばってみろ、あんちゃん! がはははは!」


 俺は女性とあまり付き合ったことが無かったので、脈ありかどうか分からなかった。さっきも言ったように、確かに佳奈さんは魅力的な女性だ。でも俺なんかと、付き合ってくれるだろうか?……。すると花さんが、助け舟を出してくれた。

「まあまあ、その話はこれまでにしましょう。それは若い二人が、自分たちで決めることですから。それはそうと健一郎さん。今日はどんな用事できたんですか?」


 そう言われて俺は、花さんに伝えた。俺の畑で白菜、きゅうりがれたからこれらを漬物にしたい。なので、漬物の作り方を教えて欲しいと。


 すると花さんは、笑顔で教えてくれた。長野県は野沢菜漬のざわなづけが有名だから、花さんもそれと同じけ方をしているそうだ。まず、四斗樽よんとだるを用意する。それにビニール袋を知れて、更に焼酎しょうちゅうを入れる。そして漬ける野菜を並べて入れて、漬物塩を入れる。更に隠し味に切り昆布こんぶを入れるのが、ポイントだそうだ。全部入れたらビニール袋を閉じて、内フタを入れて更に重石おもいしせて漬ける。大体だいたい、一カ月ほどで食べられるそうだ。白菜、きゅうりを入れても美味しい漬物が出来るのではないか、とのことだった。


 俺はお礼を言って、漬物が出来たら持ってくるので味見あじみをお願いしますと告げた。すると花さんは笑顔で、「はい。その時を楽しみにしています」と答えてくれた。そして俺は、思い出した。俺がついに、一軒家を建てたことを。そして報告ほうこくしたが道夫さんの反応は、薄かった。

「ああ、そうか。あとで見に行くよ」


 どうやら道夫さんの興味は俺の一軒家より、佳奈さんに向いているようだ……。

 そして俺と佳奈さんは俺の一軒家に戻って、軽トラに乗った。四斗樽、焼酎、漬物塩、昆布を買うためだ。それらを買って戻ると早速、俺の一軒家のキッチンで漬物を漬けた。俺が一カ月後の十一月が楽しみですねと言ってみると、佳奈さんは笑顔で頷いた。

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