第二十四話

 俺は今朝けさ佳奈かなさんと伊織いおりさんに出会ったので、その時に自己紹介じこしょうかいしあったと説明した。でも慶介けいすけは、やっぱり初日は自己紹介が大事だからと、伊織さんに自己紹介をうながした。伊織さんは元気よく立ち上がって、挨拶あいさつをした。

「はーい! 私は、清家せいけ伊織っていいまーす! 東京の商社に勤めて、三年目でーす! 仕事は営業で今は、地球温暖化とエネルギー問題を解決するために、二酸化炭素から燃料を作るプラントを担当たんとうしていまーす! よろしくお願いしまーす!」


 伊織さんは小柄こがらで顔は丸顔でショートカットで、活発かっぱつそうな印象を受けた。そして次は、佳奈さんが挨拶をした。

「えー、私は新納にいな佳奈といいます。私も東京の商社に勤めていて、伊織と同期どうきです。仕事は経理けいりです。よろしくお願いします」


 佳奈さんは長身で顔は卵型で髪は背中まで伸ばしていて、ちょっとおっとりした印象を受けた。皆の挨拶が終わると慶介は、かんビールを持ち上げた。

「それでは僕たちの出会いに、カンパーイ!」


 俺は何度か行ったことがある、合コンみたいな雰囲気ふんいきだなと思ったが、鹿肉しかにくの方が気になった。鹿肉のカレーの鹿肉を食べてみると、柔らかくて肉のうま味を感じられて美味おいしかった。ふと見ると、佳奈さんと伊織さんも美味しそうに食べていた。俺は疑問に思ったので、となりに座っている佳奈さんに聞いてみた。

「あの、どうしてこの、ワーケーションハウスで暮らそうと思ったんですか?」


 すると佳奈さんは、笑顔で説明してくれた。コロナの影響で会社以外の場所で働く、テレワークが流行はやった。そして更に観光地やリゾート地でテレワークをする、ワーケーションが流行った。伊織さんはそれにあこがれたが、まだ仕事をおぼえる時期だったので出来なかった。


 しかし働いて三年も経つと仕事も覚えて、打ち合わせや会議もパソコンを使うWeb会議になった。だから会社に出社する必要が無くなり、ワーケーションをしようと考えた。


 でも一人だと不安なので同期で一番仲が良い佳奈さんに、一緒にワーケーションをしようと提案した。佳奈さんの仕事は経理なので、やはりWeb会議で打ち合わせをするようになると会社に出社する必要が無くなった。それに伊織さんに提案されてワーケーションに興味きょうみを持って、ついに二人でワーケーションをすることになったそうだ。


 納得なっとくした俺は、更に聞いてみた。

「なるほど。それでこのワーケーションハウスのことは、どうやって知ったんですか?」


 すると佳奈さんは、やはり笑顔で答えた。ワーケーションのことを調べていると、クラウドファンディングでお金を集めてワーケーションハウスを作ろうとしている人を見つけた。そしてお金を出したリターンがワーケーションハウスの家賃やちんを三ヵ月間、半額はんがくにするというモノだったので興味を持った。


 それはもちろん慶介がやっていたことだが、それがきっかけで慶介は佳奈さんと伊織さんと連絡れんらくを取り合うようになった。だからこのワーケーションハウスに住む最初の住人は、佳奈さんと伊織さんになったそうだ。俺がなるほどとうなづいていると、慶介が告げた。

「それでは鹿肉のカレーは食べ終わったようなので、次の料理を食べてもらいたいと思います」


 次の料理は、蕎麦そばだった。慶介は、「長野県といえば、やぱりこれでしょ」と張り切って蕎麦をゆでた。そして出汁だし入りしょうゆとお湯を入れて、かけ蕎麦を作った。皆がかけ蕎麦を食べ終わると慶介は、デザートに塩ようかんを出した。包丁ほうちょうで八つに斬り、二切ふたきれずつ皿にせて皆に渡した。俺は塩ようかんを食べたことは無かったが、塩がようかんの甘みを引き立てていて美味しかった。


 料理はこれで終わったが、慶介はまだ張り切っていた。

「それでは次に親睦しんぼくを深めるために、カラオケをしましょう!」


 そう言われて居間いますみを見てみると、何とカラオケのセットがあった。今まで、気付かなかった。いつの間に、用意したんだろう。それにしても、親睦を深めるためにカラオケか……。俺はあまりカラオケは得意ではなかったが、まあそういうのもアリかと納得した。


 最初に歌い出したのは、慶介だった。flumpoolの『君に届け』を歌い出すと、伊織さんは手を叩いて盛り上げた。次に伊織さんがMAXの『銀河のちかい』を歌うと、やはり慶介が手を叩いて盛り上げた。


 慶介は積極的な性格で、伊織さんもそのようだ。だから気が合ったのか、二人はしたしそうにしていた。すると慶介は、言い出した。

「それじゃあ、次。健一郎けんいちろうさんも歌ってくださいよ!」


 俺はそれなりに上手うまく歌える数少ない歌の中から、米津玄師よねづけんしの『M八七』を歌った。すると佳奈さんが手を叩いて盛り上げてくれたので、少しうれしかった。次は佳奈さんがaikoの『カブトムシ』を歌ったので、今度は俺が手を叩いて盛り上げた。すると佳奈さんは、嬉しそうに歌っていた。それからまた一人ずつ二、三曲歌って、カラオケは終わった。そして歓迎会かんげいかいも終わった。


 すると慶介はキッチンで、皿や蕎麦を入れたどんぶりを洗い出したので俺も手伝った。少しすると佳奈さんも、手伝いにきた。慶介は、佳奈さんはお客さんだから手伝わなくてもいいんですよと言ったが、佳奈さんは申し訳なさそうに答えた。

「いえ、こんなに素敵すてきな歓迎会をしてもらったので、手伝わせてください。伊織の分も……」


 俺が居間を振り返ってみると、伊織さんはだいになって寝ていた。再び佳奈さんは、申し訳なさそうに告げた。

「伊織はお酒が弱いくせに好きなので、うとすぐに寝てしまうんです……」


 まあ、それならしょうがないないと俺たち三人は、後片付あとかたづけをした。そして佳奈さんは伊織さんを起こして、部屋に連れて行った。


 俺は、さてビールを飲んでしまったから軽トラで運転して小屋まで帰れないな、どうするかなと考えていると、慶介が提案ていあんしてきた。だれも使っていない部屋がまだ二つもあるので、今夜はここにまりませんかと。予備よび布団ふとんも一組あるので、それを使ってくださいと。なので俺はありがたくその日は、ワーケーションハウスに泊まった。

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