第二十三話

 うーむ。堆肥たいひだけでなく、腐葉土ふようどまで作れるとは。微生物びせいぶつ、カビ、細菌さいきんはすごいなと新たな発見をした。そして俺は再び、ふと考えた。こうなったら、無農薬むのうやく農作物のうさくぶつを作ってみたいと。


 俺はまず、農薬について調べた。農薬とは農作物を害虫がいちゅう、病気、雑草ざっそうなどの有害生物ゆうがいせぶつから守るための薬剤やくざいだ。戦後、多くの化学農業が拡大し不安定だった農作物の収穫量しゅうかくりょうの安定、除草剤じょそうざいの開発による農業労働時間の短縮たんしゅくなど、農業の省力化しょうりょくかに大きく貢献こうけんしてきた。


 しかし農薬が残った状態の農作物を食べ続けると、体に様々な症状が現れることがある。めまいやき気、皮膚ひふのかぶれ、発熱、のどかわきといった身体的症状が現れた場合、農薬中毒症状のうやくちゅうどくしょうじょうの可能性がある。


 うーむ、なるほど。すると俺は、農薬を使わずに農作物を作りたくなって調べてみた。すると有機栽培ゆうきさいばい、いわゆるオーガニックを見つけた。


 有機栽培とは化学的に合成された肥料ひりょう及び農薬を使わないこと、並びに遺伝子組いでんしくえ技術を利用しないことを基準きじゅんとして、農業生産による環境への負担ふたんを出来る限り低減ていげんした農業生産の方法を用いて行われる農業だそうだ。


 俺は有機栽培について、更に調べてみた。有機栽培は、堆肥などで土づくりをすることから始まる。化学肥料や農薬を使用せずに、二年以上経過した健康な土で栽培を行う。有機栽培を行い、『有機農産物ゆうきのうさんぶつ』として認められるには国で定めた基準である、有機JAS規格きかくを満たす必要がある。


 土づくりだけでなく生産過程せいさんかていに多くのルールがあり、それを守り認められて初めて『有機農産物』と呼べることになる。最近は『有機』という表示を多く目にするが明確な基準があり、それにもとづいて生産していることをしめあかしだそうだ。


 これを知った俺は、今度から有機栽培に挑戦ちょうせんしてみたくなった。化学肥料を使わないのはいいとして、害虫や病原菌を防ぐ農薬や、雑草を除去する除草剤も使えないのか……。なので、農薬と除草剤を使わない方法を調べてみた。


 するとマルチというビニールシートを畑の、うねにかぶせる方法があることが分かった。ただマルチと土の間にすき間があると虫や雑草が入り込むので、しっかりと被せることが重要だそうだ。


 そして更にマルチには病原菌びょうげんきんが農作物に付着ふちゃくすることを防止して、また太陽光を遮断しゃだんする効果もあるので雑草が生えることも防げるそうだ。またマルチを被せるタイミングは、たねまきやえ付けをした直後だそうだ。


 そうして調べていると、興味深きょうみぶかい農業を見つけた。自然農法しぜんのうほうだ。たがやさず、除草せず、肥料を与えず、農薬を使用せずに農作物を栽培する方法だ。自然の中には虫も生きているし、雑草も生えている。そのような中で植物は立派に育ち、えた土が出来ている。農薬や肥料を使わなくても、自然の力で植物は育つ。そんな本来、自然が持っている力を最大限に活かして農作物を栽培するのが自然農法だ。


 自然農法は農薬も肥料も使わずにリンゴ栽培に成功して、話題になったそうだ。自然農法か……。きっと、難しいんだろう。でもいつかは挑戦してみたいと、俺は決意した。


 そこまで調べていると、すでに日は落ちかけていた。なので小屋を増築ぞうちくする作業は明日からにしようと思っていると、慶介けいすけからLINEがきた。

健一郎けんいちろうさん、突然ですみません。でもこれから僕のワーケーションハウスで、これから住む二人の歓迎会かんげいかいをするので、きてみませんか? 料理もたくさん準備しましたよ』と。


 俺は今朝けさ、出会った二人の女性の歓迎会なのかと想像そうぞうした。今日は一日中、軽トラを運転して疲れていたので、夕食を作るのは少し面倒めんどうだと思っていた。


 俺は女性は少し苦手だが、料理が食べられるのなら歓迎会に行ってみようかなと考えた。それに少し、二人の女性に興味があった。なぜ、ワーケーションハウスに住もうと考えたのかを。だから俺は歓迎会に参加するため、軽トラでワーケーションハウスに向かった。


 中に入って居間いまに行くと、囲炉裏いろりなべがかけてあった。俺が「何を作っているんだ?」と聞いてみると、慶介は喜んだ表情で答えた。蕎麦そばをゆでるために、お湯をかしている。でも蕎麦の前に、鹿肉しかにくのカレーを食べてもらいます。レトルトですけど、農産物直売所のうさんぶつちょくばいしょから買ってきました。デザートもあるので、期待きたいしてください、と。


 なるほど。そして俺は、鹿肉のカレーに興味きょうみを持った。俺がここZ市で食べた肉は、鶏肉とりにくがほとんどだったからだ。長野県では鹿肉も有名だが、まだ食べたことはなかった。そして慶介は皿にご飯をのせて、レトルトの鹿肉のカレーをかけた。


 すると慶介は早速さっそく、二人の女性を部屋までむかえに行った。少しするとラフな格好かっこうをした、佳奈かなさんと伊織いおりさんが居間にやってきた。カレーを見た二人は、テンションが上がった。

「へー、これが鹿肉のカレーですか! 食べたことは無いんですが、美味おいしそうですね!」

「そうね。ありがとうございます、慶介さん!」


 俺たち四人が囲炉裏をかこむと慶介は、鹿肉のカレーを手渡した。それと、かんビールも手渡した。


 そして慶介は缶ビールを片手に、歓迎会の挨拶あいさつを始めた。

「えー、皆さん。僕たちはえんあって、今ここに集まりました。これから楽しくらしていきましょう!

 ではあらためて、自己紹介をさせていただきます。僕がこのワーケーションハウス『長野屋ながのや』のオーナー、桜井さくらい慶介でーす! あ、オーナーといっても僕もここで暮らすので、皆さんと楽しく生活したいと思いまーす! それでは次、健一郎さん、お願いします!」


 俺はこういう場での自己紹介などは苦手だが、慶介はもちろん佳奈さんも伊織さんも知っているので、リラックスできた。

「えー、俺は今福いまふく健一郎といいます。慶介は以前働いていた、会社の後輩こうはいです。って今朝、説明しましたよね……」


 すると慶介は、おどろいた表情になった。

「え? どういうことですか?」

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