第二十二話

 すると少し元気を取り戻した伊織いおりさんが、俺の小屋を指差ゆびさして聞いてきた。

「あのー、あの小屋は何ですか?」


 俺は、あの小屋はここで住むために、俺が自分で建てた小屋だと説明した。すると二人とも、おどろいた表情になった。でも佳奈かなさんは、感動したようだった。

「ここに住むために、自分で小屋を建てた?! すごいです、すごすぎです!」


 そう言われて、俺は少しれた。もちろん悪い気はしなかったので、説明した。あと二つ小屋を建てて合計四つの小屋にして、一軒家いっけんやにするつもりだと。すると佳奈さんは、ますます感動したようだ。

「一軒家?! すごいです! 本当にすごいです!」


 そして俺は、思い出した。これから源治げんじさんの材木屋ざいもくやに行き、小屋を建てる材料になる端材はざいをもらいに行くことを。だが、ふと思ったので聞いてみた。

「あの、伊織さん。ワーケーションハウスまで、もどれますか?」


 すると伊織さんは、あしはまだ痛いしつかれて歩けないと答えた。俺は軽トラの荷台にだいでもいいのなら、乗せて連れて行きますがどうしますかと聞いてみた。すると二人は、ぜひお願いしますと答えた。なので俺は軽トラで二人をワーケーションハウスまで送り、源治さんの材木屋に向かった。


 工場にはやはり端材がたまっていて、源治さんに聞くと持って行ってもいいと言われたので軽トラの荷台にせた。俺はこの端材の量なら、あと二つの小屋も建てられると確信した。それから長野市のホームセンターに行き、小屋を建てる時に必要な束石つかいしとポリカーボネート波板なみいたを買った。そして更にZ市の住宅用品を取り扱う会社で、ドアとまどを買った。


 そうして自分の小屋に戻ってきた俺は、トイレに行くと考えた。俺はふん尿にょうは畑にまく肥料ひりょうにしたいと考えているが、そうするにはどうしたらいいんだろう? もちろん分からなかったので、スマホで調べてみた。


 人体じんたいから排出はいしゅつされて間もない新鮮しんせん糞尿ふんにょう濃度のうどすぎて、そのまま畑にまくと作物さくもつをダメにしてしまう。そのため一度、肥溜こえだめに貯蔵ちょぞうして発酵はっこうさせる必要がある。


 きちんと発酵した糞尿は、その発酵過程の温度やさんにより病原菌びょうげんきん寄生虫きせいちゅうの卵は死滅しめつする。自然の微生物びせいぶつによって堆肥たいひにしてから、畑にまくといい。


 堆肥とは、いねわら、落ち葉、糞尿、食べ残しなどの有機物ゆうきぶつを微生物の力を使って分解させ、成分的に安定するまで発酵させたもの。水田や畑にまかれた堆肥は、土の中に存在する土壌どじょう微生物や作物の根から放出されるクエン酸などの有機物によって分解・溶解ようかいされ、作物の根から養分ようぶんとして吸収される。


 また堆肥は、全てが分解される訳では無い。微生物や有機物が分解しきれなかった部分が、腐植ふしょく、つまり有機物として土の中に残る。しかし腐植は水分や肥料成分を保持するなど、土を物理的に良くする働きがあると考えられている。更に、作物の成長に良い効果をもたらすと考えられている。


 そして、『糞尿の使用方法』という法律もあった。第十三条によると、肥料として糞尿を使用出来る場合として、一、発酵処理して使用するとき 二、乾燥かんそうまたは焼却しょうきゃくして使用するとき 三、化学処理して使用するとき 四、尿のみを分離して使用するとき 五、し尿処理施設にょうしょりしせつ又はこれにるいする動物の糞尿処理施設により処理して使うとき 六、十分に覆土ふくどして使用するとき、だ。


 なるほど。一、発酵処理して使用するとき、からすると糞尿を肥溜めで発酵処理すれば、堆肥として使っても問題なさそうだ。そして糞尿を堆肥にするためには、肥溜めが必要なのか。なので俺は早速さっそく、肥溜めを作ることにした。


 Z市のホームセンターでレンガとセメントを買ってきた俺は、畑のとなりにシャベルで直径一、五メートル、深さも一、五メートルの穴をった。そして穴の底から側面まで、レンガをめた、更にレンガの間にセメントで入れて固定して、それから穴の内側のレンガにうすくセメントをった。よし、これで丈夫じょうぶな肥溜めが出来たはずだ。


 俺はセメントがかわいたらトイレの下に置いてあるプラスチック製のおけを持ってきて、糞尿を肥溜めに入れることにした。更に端材で円盤状えんばんじょうのフタを作って、肥溜めのフタにする。そうして普段はトイレの下に置いてあるプラスチック製の桶に糞尿がたまったら、肥溜めのフタを開け糞尿を入れることにした。


 実際、し尿および下水汚泥げすいおでいの最終処理が、全国的に問題になっているようだ。し尿とは人体から排出される、糞と尿の混合物。下水汚泥とは下水を処理した結果排出される、泥状でいじょうの物だ。それらは二〇〇七年に海洋投棄かいようとうきが全面禁止になり、最終処分は焼却、またはめ立て処分となり、処分コストは増大している。


 ある市では下水汚泥を肥料としてリサイクルするプラントを、二十億円の建設費で建てた。しかしその肥料はにおいが強いなどの理由で、全く使い物にならず市が大量の在庫ざいこかかえることになった。


 だがある市では、バイオきんによってバイオ肥料にすることに成功した。そのバイオ肥料は臭いが無く肥料としても大変、優れたものだった。そのため四百袋が市民に無料配布むりょうはいふされたが、二時間で配布が終わったそうだ。


 そこまで考えた時、俺はふと思い出した。ニワトリ小屋にたまった、鶏糞けいふんのことを。あれも堆肥に、出来ないか? なのでまた、スマホで調べてみた。すると興味深きょうみぶかいことが分かった。腐葉土ふようどという土壌をより良い状態に改善してくれる、改良用土かいりょうようどの作り方だ。


 まず穴を掘って、落ち葉などを入れる。そして消石灰しょうせっかいをふりかけて、シャベルでよくかき混ぜる。消石灰は全体を弱アルカリ性にして、カビや細菌を活動しやすくする。そして二週間後に鶏糞を穴にふりかけて、シャベルでよくかき混ぜる。


 更に穴を、ビニールシートでおおう。一週間ほどで堆肥の中が、カビや細菌の活動で熱くなってくる。そして一、二週間ごとに鶏糞を穴に少しずつふりかけて、シャベルで混ぜるというものだ。夏だと一カ月、冬だと三カ月ほどで堆肥が出来るそうだ。


 俺は、思い出した。畑を作る時に雑草ざっそういて、畑の脇に置いていたことを。そして林の中に、落ち葉があったことを。なので早速、腐葉土も作ってみることにした。俺は肥溜めの隣にやはり、シャベルで直径一、五メートル、深さも一、五メートルの穴を掘った。そして穴に雑草と落ち葉を入れた。更に消石灰を買ってきて、穴にふりかけてシャベルでよくかき混ぜた。


 そうして二週間後に鶏糞をふりかけて、シャベルでよくかき混ぜて、更に穴にビニールシートで覆うつもりだ。そして更に一週間ごとに鶏糞を少しずつふりかけて、シャベルで混ぜるつもりだ。


   ●


【お知らせ】 限定近況げんていきんきょうノートに、この作品のサイドストーリーを書きました。タイトルは、『第ゼロ話 自動車の完全自動運転プロジェクト』です。


https://kakuyomu.jp/users/cbrate/news/16817330667034314618


 主人公の健一郎けんいちろうがキャンプに行く前、まだ会社で働いていた時のエピソードです。約二一〇〇文字です。興味がある方は、読んでみてください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る