第二十一話

 せっかく完成したので早速さっそく、入ってみることにした。水をドラム缶風呂かんぶろ半分程はんぶんほど入れて、コンクリートブロックの土台どだい端材はざいを燃やした。良い湯加減ゆかげんになったところで、円盤状えんばんじょうの木製のすのこをみながら入った。「ああああ~」と思わず、声が出た。今までは銭湯せんとうに行っていたが、やはり自然の中の露天風呂ろてんぶろは良い。俺は青空に浮かぶ雲をながめながら、しばらくボーッとした。


 お風呂に入ると『極楽極楽ごくらくごくらく』とつぶやく人がいるが、その気持ちが分かったような気がした。それからドラム缶風呂の中で髪を洗い体も洗い、スッキリした。俺はあまりアルコールは飲まないが、この時ばかりは軽トラでZ市のコンビニに行って缶ビールを買ってきて飲んだ。美味うまかった。


 次に日は、ニワトリ小屋ごやを作った。コンクリートブロックを長方形になるようにいて、土台にした。幅は一、五メートル、奥行きは九メートルだ。そしてその上に柱を立てた。更にZ市のホームセンターから買ってきた金網かなあみを、柱に巻き付けて壁にした。そして出入りできるように、ドアを付けた。更に端材はざいを持ってニワトリ小屋の中に入って、ニワトリが休める小さな小屋を作った。


 そしてニワトリを六羽、孵化場ふかじょうから買ってきて家畜保健衛生所かちくほけんえいせいしょ飼養届しようとどけを出した。そうして俺は、ちょっとした疑問を調べてみた。なぜニワトリはメスだけで、卵を産めるのか? 調べてみたら普段、俺たちが食べているのはメスだけで産む無精卵むせいらんだそうだ。


 つまり卵を出産ではなく、排卵はいらんしているだけだそうだ。ヒヨコが産まれる有精卵ゆうせいらんはやはり、メスとオスの交尾こうびが必要なようだ。なるほど。


 またニワトリは大体だいたい、一日に一個の卵を産む。だから俺は毎日、六個の卵を手に入れることが出来た。でも毎朝、卵かけご飯を食べたとしても、五個あまる。なのであまった卵は、Z市の道の駅で売った。


 そうして暮らしていると、慶介けいすけがやってきた。慶介は見事にクラウドファンディングで百万円を集めて、会社を辞めてきた。そして早速、古民家こみんかをワーケーションハウスにするためにリフォームを始めた。


 Z市のリフォーム会社に頼んでトイレ、風呂、キッチンをリフォームしてもらっていた。皆が集まれる居間いまにある囲炉裏いろりは、雰囲気ふんいきも良くこのワーケーションハウスの売りなので、そのままにしておいた。


 一カ月ほどがち十月になるとリフォームが終わり、見事にワーケーションハウスが完成した。俺と慶介はその居間で、ささやかなお祝いをした。慶介は、早速明日から二人の入居者にゅうきょしゃがくるので、張り切っていた。

「まず住むのは二人ですが、ここにはあと二人、住めます。その二人を早く見つけて満室にして、どんどんかせぎますよ!」


 慶介の話だと明日からくる二人は、クラウドファンディングにお金を出してくれた人だそうだ。慶介は、『山の中の自然にかこまれて仕事をしてみませんか?』という宣伝せんでんも、しっかりしていた。そして古民家から見える大自然の写真も、公開していた。


 その写真を見て気に入って、ぜひそのワーケーションハウスで生活しながらリモートワークをしたい、という二人がいた。明日からくる人は、その二人だという。俺は取りあえず慶介を、はげました。

「ハウスのオーナーになって更に経営するなんて大変だろうけど、まずはがんばってみろ」


 すると慶介は、言い切った。

「この大自然の中で暮らせることがうれしくてワクワクして、心配なんかしてないっすよ~」


 慶介は仕事はできるがちょっと調子に乗りやすいところがあったので、俺が心配してしまった。


 次の日、俺の銀行通帳にはまた、ユーチューブの広告収入が入っていた。五万円ほどだったが、これだけあればキッチンと居間いまの二つの小屋を作れるだろうと考えた。また源治げんじさんの材木屋ざいもくやにも端材がたまった頃だろうと思い、軽トラに乗ろうとした。すると、女性の声が聞こえた。


「もう、伊織いおり~。しっかりしてよ~」

「そんなこと言ったって、痛くて歩けないんだもん! おんぶしてよ、佳奈かな!」

「え~。そんなの、無理だよ~」


 何だか困っている様子だったので、俺は声をかけてみた。

「あの、どうされましたか?」


 すると、佳奈と呼ばれた身長が高めの女性が答えた。私たちは、近くにあると言われた川を見にきた。でも気の早い伊織は川に入るために、ミニスカートをはいてきた。


 ところがその途中、草むらを歩いていると背の高い草であしを切ってしまったそうだ。俺はここにくる時に買ったキャンプセットに、救急箱きゅうきゅうばこがあったのを思い出して小屋から持ってきた。そして手当てあてを始めた。

「ちょっとしみるかも知れませんが、がまんしてください」


 俺は伊織と呼ばれた女性の脚に消毒液しょうどくえきをスプレーして、少ししてから絆創膏ばんそうこうをはった。

「こうして二、三日すれば、なおると思いますよ」


 すると佳奈と呼ばれた女性が、頭を下げた。

「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてしまって、すみません」


 俺は、「いえ、かまいませんよ」と答えたあとに、思いついた。

「あの、お二人はひょっとして、今日からワーケーションハウスでらす方ですか?」


 すると佳奈は、おどいた表情になった。

「え? どうして、ごぞんじなんですか?」


 俺は、ワーケーションハウスのオーナーで経営もする慶介は、以前働いていた会社の後輩で昨日、ワーケーションハウスに二人、住むことになっていると聞いた、と説明した。すると佳奈は納得した表情で、自己紹介をした。

「そうだったんですか。私は、新納にいな佳奈。そしてこっちは、清家せいけ伊織といいます。はい、あなたがおっしゃる通り、私たちは今日からワーケーションハウスに住みます。これから、よろしくお願いします」


 なので俺も、自己紹介をした。

「あ、俺は今福いまふく健一郎けんいちろうといいます。こちらこそこれから、よろしくお願いします」

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