第十七話

 自分の小屋に戻ってきた俺は、考え始めた。利久りきゅうさんのような暮らしをするためには、どうしたらいいか。参考になることは、たくさんあった。まずはソーラーパネルでの、太陽光発電だ。暮らしで使う電気を、作れるからだ。利久さんの家のソーラーパネルは、大きかった。ニワトリをっている小屋の屋根にソーラーパネルを付けているそうだが、横は十メートル、縦も十メートルくらいあった。だが今の俺の小屋には、そんな大きなソーラーパネルを設置するスペースは無い。それに今は、ほとんど電気を使っていない。使うとすればスマホのバッテリーくらいで、それは小型の太陽電池で十分だ。だから小屋を増築した時に、中型のソーラーパネルを設置してみようと考えた。


 次に、ニワトリだ。俺は今でも、衝撃しょうげきを受けている。まさか、ニワトリを飼う手があったとは! ニワトリが産んだ卵を食べることもできるし、卵を産まなくなったニワトリを食べるとは。上手うまく行けば、肉を買う必要が無くなるかも知れない。取りあえず小屋を増築した時に小さなニワトリ小屋も作って、数羽、飼ってみようと思った。


 なので今できることといえば、畑を作ることだろう。たねとクワは、すでに買ってある。なので早速さっそく、畑を作ることにした。もちろんその様子もスマホで撮影さつえいしてユーチューブで配信はいしんしようと思ったので、スマホを小屋に固定した。畑用に買った土地は三坪さんつぼ、横が一、八メートル、縦が五、四メートルだが雑草ざっそうが生えていた。なので雑草を取るところから始めようと思った時、ふと考えた。そういえば、肥料ひりょうはどうしようかと。肥料については有機ゆうき肥料と化学かがく肥料がある、ということしか知らない俺は、ググってみた。


 すると、色々なことが分かった。まず肥料、そのものについて。農作物のうさくぶつは、土から根を通して窒素ちっそ、リン、カリウムなどの無機養分むきようぶんを吸収して育つ。でも土の中の養分には限りがあるので、放っておくと養分が無くなってしまう。そこで肥料を使って、土に養分を補う。そのために肥料が必要だと。なるほど。次に俺は、有機肥料について調べてみた。


 有機肥料とは、農作物に必要な栄養を、動物や植物といった有機物からつくった肥料だ。土の中の微生物びせいぶつの働きで分解されることで農作物が吸収できる養分に変わるため、一般的に即効性そっこうせいは無いが効果は長続きする。また、土への栄養補充と土壌改良を行う。有機肥料は土の中の微生物のエサになるので、微生物の種類が増えて農作物が育ちやすい土になることが期待できる。微生物で分解されなかった有機物の一部は土に残り、固粒形成の促進につながる。その結果、土の通気性つうきせい保水性ほすいせいが高まる。なお化学肥料には、この効果は無い。


 なるほどと思った俺は、化学肥料についても調べてみた。化学肥料とは、化学的に合成してつくった肥料のこと。肥料の三要素である窒素、リン、カリウムのほとんどをまかなう。名前に化学と付くことから原料げんりょう人工じんこうの物質だと誤解されがちだが、原料は空気中の窒素、リン鉱石こうせき、カリウム鉱石、一部の有機肥料など自然界にある物質である。肥料の効果としては、水に溶け込むことですぐに農作物に吸収されるため即効性があるが、効果が続く期間は短い。


 うーむ。有機肥料は即効性は無いが、長続きする。逆に化学肥料は即効性があるが、長続きしない。ということは最初に有機肥料と化学肥料を使って、時間が経ったら化学肥料をせばいいのか。実際、そういう使い方をしている人も多いようだ。なので俺は軽トラでZ市のホームセンターに行って、有機肥料と化学肥料を一袋ひとふくろずつ買ってきた。


 そして畑についても、一通り調べた。まずやるべきことは、草取くさとりだった。背の高い雑草が生えていて、苦労した。雑草も乾かせば肥料として使えるようなので、並べて置いた。草取りが終わると次は、クワを使って畑をたがやした。固く締まった土をほぐして土の中に空気を入れると、水はけがよくなり農作物は土の中に根を伸ばしやすくなるからだ。そして、有機肥料と化学肥料を畑一面に混ぜた。更に高さが十センチで細長く土を盛り上げ、うねを作った。農作物が根を張るスペースを確保して、保水、排水はいすい地温ちおんの調節をするためだ。そこまでやると日もれてきたので、今日の作業は終わりにした。


 動画を配信して夕食を食べ、小屋の中のベットの中で視聴回数しちょうかいすうをチェックした。すると、十万回をえていた。やはり畑をつくる動画は、めずらしいのだろう。コメントも、たくさん付いていた。『自給自足じきゅうじそく、がんばれ』、『畑かあ、俺もやってみたいなあ』、『面白い動画です』など。コメントにはげまされた俺は明日もがんばろうと思いながら、その日は寝た。


 次の日はまず、種まきをした。まずはトマト、じゃがいも、かぼちゃ、白菜はくさい、きゅうりの五種類を栽培さいばいしようと思っていたので、うねを五つ作っていた。うねに種をまき終えると川から、じょうろに水をくんで畑にまいた。畑が結構広いので、何度も畑と川を往復おうふくした。この水まき作業は改善かいぜんの余地があるなと思いながら、昼食を食べた。この動画の視聴回数も、十万回を超えていた。


 一週間ほど水まきをして野菜のが出始めたころ、会社の後輩だった慶介けいすけからLINEがきた。『僕もそっちで、暮らすことにしました!』と。俺は当然、すぐに返信した。『ちょっと待て。一体、どういうことだ?』と。するとすぐに、返信がきた。『説明は直接会ってするので、軽井沢かるいざわ駅までむかえにきてくれませんか?』と。


 俺は当然、おどろいた。慶介が今、長野県にいる?! どういうことだ?! でも考えても分かるはずが無いので、とにかく駅に軽トラで向かった。すると慶介はすでに駅の建物から出て、待っていた。そして無邪気な笑顔で、手を振っていた。

「おひさしぶりです、健一郎けんいちろうさん! 約束通り、僕もきちゃいました!」


 別に、約束はしていない。慶介が勝手に、またここにくると言っていただけだ。だが今、そんなことを言っても仕方しかたが無いので、取りあえず慶介を軽トラに乗せた。すると早速、話し出した。

「ちょっと、コンビニにってくれませんか? 缶ビールとツマミを買いたいので。今日は、飲みましょうよ!」

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