第十五話

 俺が頷くと、道夫みちおさんのテンションは更に上がった。

「こんなにうれしいことは、ひさしぶりだ! 今日は飲むぞ! がはははは!」


 道夫さんは家に着くまで、テンションが高かった。だから俺は、酒はあまり飲めないとは言えなかった。だが今日は、不思議と飲みたくなっていた。俺も小屋が完成したのは嬉しかったし、一度道夫さんと飲んでみたいと思っていたからだ。家に着くと道夫さんは玄関で、大声を出した。

「おーい、ばあさん! 酒の用意をしてくれ! 今日は、飲むぞー!」


 そして道夫さんの家の居間いまで、俺たちは飲み始めた。俺はスマホで撮影さつえいした小屋の写真を見せると、おばあさんも喜んでくれた。

「ほんと、すごいですねえ」


 俺と道夫さんはビール、日本酒、そして道夫さんのとっておきの高級なウイスキーも飲んだ。もうこれ以上は一滴いってきも飲めなくなるまで飲んだ俺たちは、そのまま居間で寝た。


 そして朝になると、おばあさんに起こされた。

「はいはい二人とも、もう起きてくださいよ。もう八時ですよ」


 俺はそのまま居間で、朝食をごちそうになった。大根の漬物つけもの美味おいしかったのでそう言うと、おばあさんは喜んだ。

「よかったら今度、作り方を教えますよ」


 すると道夫さんは、聞いてきた。

「あんちゃん、これからどうするんだ?」


 そう言われて、俺は考えた。これから、何をしたらいいんだろう? 取りあえず、小屋は建てた。でも俺のゴールは、そこじゃない。俺のゴールは大きな一軒家いっけんやを建てて、自給自足じきゅうじそくの生活をすることだ。そう考えると、思いついた。以前テレビで見た、長野県のZ市で自給自足の生活をしている人に会いに行こうと! 


 その人に会えばこれからどうしたらいいか、ヒントをもらえる気がした。だがその人が、どこに住んでいるのか分からなかった。なので取りあえず、道夫さんに聞いてみることにした。


 俺は朝食をごちそうになった後、おばあさんが出してくれたお茶を飲みながら道夫さんに聞いてみた。

「あの、このZ市で自給自足の生活をしている人を知りませんか? 以前テレビで、見たんですけど……」


 すると道夫さんは、即答そくとうした。

「ああ、小椋おぐら利久りきゅうさんか。山を一つえたところに、住んでる。このZ市じゃあ、ちょっとした有名人だ」


 そして、豪快ごうかいに笑った。

「でも一人で小屋を建てちまったあんちゃんも、立派な有名人だ! がはははは!」


 俺は礼を言うと、道夫さんの古民家こみんかを出た。そして小屋に戻ると早速さっそく、軽トラに乗って山を一つ越えて、利久さんの家を探し始めた。道夫さんから正確な住所を聞いた訳では無かったので、少し苦労した。だが車が通ったと思われる山道を見つけたので、その道を進んでみると大きな古民家を見つけた。木造もくぞうで色は黒く、かやぶき屋根やねだった。右側にある小屋の中には、ニワトリが十羽ほどわれていて屋根は斜めだった。そして、黒い軽自動車が停められていた。多分ここだなと思い、軽トラから降りた。


 玄関があったので中に入って、俺は声をかけてみた。

「すみませーん! 誰かいらっしゃいますかー?」


 するとお腹が大きな、純日本風の美人が現れた。

「はいはい、いらっしゃい……。えーと、どちら様ですか?」


 俺は、挨拶あいさつをして説明した。俺は、今福いまふく健一郎けんいちろうといいます。山を一つ越えたところで、自分で小屋を建てました。きっかけは利久さんが自給自足の生活をしているのを、テレビ番組で見たからです。ここは多分、利久さんの家だと思うので、ちょっとお話をうかがいたいと思ってきましたと。


 すると女性は柔らかに微笑ほほえんで、告げた。

「ああ、そうなんですか。へえ、自分で小屋を建てて……。はい、ここは確かに利久の家です。今、家の裏で畑仕事をしているので、呼んできます。ちょっと待っててください」


 と、家の奥に戻った。少しすると日に焼けて、たくましい表情の男性が現れた。俺は、思い出した。この人こそテレビで見た、利久さんだと。利久さんも柔らかに微笑んで、告げた。

「妻から、聞きました。何でも、自分で小屋を建てられたとか。私の方こそ興味があるので、お話を伺いたいです。まずは、上がってください」


 俺は一礼すると、玄関から中に入った。左に曲がると広いスペースがあり、何と囲炉裏いろりがあった。床を四角に切って開けて、はいめてある。まだ七月なので火はたかれていないが、天井からは鉄瓶てつびんるされていた。利久さんが囲炉裏の向こう側に座ったので、俺は手前に座った。囲炉裏はもちろんめずらしいのでながめていると、女性が麦茶むぎちゃを持ってきてくれた。冷たくて、美味しい麦茶だった。すると利久さんが、女性を紹介してくれた。

「あ、彼女は私の妻で、久美子くみこです。妊娠にんしん八か月です、よろしく」


 久美子さんが頭を下げたので、俺もつられて頭を下げた。すると利久さんが、聞いてきた。

「それじゃあ、どうして山に小屋を建てたのか聞かせてもらえますか?」


 俺は、正直に答えた。会話が苦手な俺は、会社で指示しじしたりされたりするのがいやになって会社をめた。ユーチューブの動画を見て興味を持った俺は、まずこのZ市でキャンプをした。そして数日するとこのZ市を気に入り、ずっと住みたいと思った。いつかは大きな一軒家を建てて暮らしたいが、まだ無理なので取りあえず小屋を建てたと。


 すると利久さんは、微笑んだ。

「なるほど。それにしても小屋を自分で建ててしまうのは、すごいです。一体、どうやって?」

「はい。ユーチューブの動画を見て、勉強しました」

「なるほど、すごいです。私には、そこまでの行動力は無かったです。この古民家は空き家だったので、安く買ったんです」


 俺は、うなづいた。

「なるほど、そうでしたか」

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