第十四話

 この日の朝は、七時くらいに起きた。朝食をすませると早速さっそく、小屋づくりを再開した。まずは床に、ノコギリで切った柱を立てて置いて行く。小屋の正面から見て五メートルの奥行おくゆきには、一メートル間隔かんかくで六本、立てる。右側には高さ二、五メートルの柱を、左側には高さ三メートルの柱を立てた。これは五十センチななめになる、屋根やねを付けるためだ。そして小屋の横幅よこはばは一、五メートルの長さがある。そこに五十センチ間隔で二本、立てる。正面と奥に。こうして合計、十八本の柱を、『口』の字に立てた。そしてL字型の金具かなぐで柱と床をくぎで打ち、固定させた。


 次に柱の間に、板を釘で打ち付けて壁をつくる。下から打ち付けていくが、その上には下の板に数センチかさねて打っていく。こうすると壁を正面から見るとすき間ができにくく、雨が流れ落ちやすい、いたんだら交換こうかんしやすいなどのメリットがある。ユーチューブの小屋を建てた動画だと、一面に板を打って壁にしてからドアと窓を取り付ける部分を切り取ると、作業しやすいとあった。でも俺は板を節約せつやくするために設計図をよく見て、ドアと窓を取り付ける部分には板を張らなかった。こうして午前中には、四面に板を張り終わり壁にした。もちろんこの作業もスマホで撮影さつえいしていたので、ユーチューブで配信はいしんした。


 そして午後はまず、屋根を取り付けることにした。高い三メートルの壁と、低い二、五メートルの壁に長い板を打ち付けた。一メートル間隔で六枚、打ちつけた。その結果、板は五十センチ斜めになった。そしてそれらの板の上に、耐熱たいねつ耐衝撃性たいしょうねつせいすぐれているポリカーボネート波板なみいたを打ち付けた。ちなみに波板は南側に打ち付け、屋根にもった雪がけて落ちやすくした。それからドアと二枚の窓を取り付けて、ひとまず小屋は完成した。


 だが小屋の色は、満足しなかった。肌色はだいろの板で壁ができているので、肌色の小屋という印象だ。俺のイメージとしては小屋は茶色ちゃいろなので、Z市のホームセンターに行って茶色の塗料とりょうを買ってきた。外壁がいへきである板に塗料を塗ると、耐候性たいこうせいが上昇するのも理由だ。耐候性の上昇とは、太陽光や温度・湿度の変化、風雨ふううなどの気候きこうによる劣化や変質が起きにくくなることだ。


 塗料を塗り終わりると、次は内装ないそうだ。厚さ二十五ミリで青色の、スタイロフォームという断熱材だんねつざいった。小屋の内側から四面の壁に、接着剤で貼った。だがこれだと小屋の中が青くなってしまうので、ベージュ色の壁紙かべがみも貼った。これらは、Z市のホームセンターから買ってきた。そして小屋の中のいているスペースに、本棚ほんだなを入れた。


 冷蔵庫や洗濯機もあったが入りきらないので、小屋を増築ぞうちくした時に入れようと思った。またトイレや風呂ふろも作りたい、これから寒くなるだろうからまきストーブも入れたいと思った。


 でもとにかく、小屋は完成した。しかも俺の、イメージどおりに。だから小屋をながめていると、感動した。感動でしばらく、動けなかった。だがしばらくして、俺はさけんだ。

「うおおおお! 小屋だ! 俺が建てた、俺だけの小屋だ! バンザーイ!」


 もちろん小屋の中と外観がいかんをスマホで撮影して、ユーチューブで配信した。すると、『おめでとう!』、『カッコイイ!』、『他人事たにんごとだけど、何か感動した』などのコメントをもらった。そしてこの小屋の完成動画は注目されて、視聴回数しちょうかいすうは百万回をえた。


 次の日の朝、やらなければならないことを思い出した。この場所に、住所を取ることだ。そこでZ市の市役所に行き、担当者に相談した。すると明日、確認をしてもらうことになった。次の日にその担当者がやってきて小屋を確認して、無事ぶじここに住所を取ることができた。そして、言われた。住民票じゅうみんひょうを、ここに移してくださいと。もちろん俺はすぐに東京の区役所とZ市の市役所に行って、住民票を移した。


 一段落ひとだんらくした俺は、タバコを吸いながら小屋を眺めて考えた。これから、何をしようかと。すると、思い出した。道夫みちおさんと源治げんじさんに、見せよう! 俺は早速、道夫さんの家に行って、小屋を建てたから見て欲しいと告げた。すると道夫さんは、顔をかがやかせた。

「おお! やったな、あんちゃん! もちろん、すぐに見に行くぞ!」


 そして道夫さんは、源治さんに電話をしてくれた。俺と道夫さんは歩いて、俺の小屋に向かった。その途中、道夫さんは聞いてきた。

「小屋の建て方を、誰から教わったんだ?」


 俺はスマホを取り出して、説明した。インターネットで小屋の建て方の動画を、配信している人がいる。その動画を見て、小屋の建て方を学んだと。道夫さんは、感心した。

「ふーん。スマホってのは、色々できるんだなあ……。わしも、買ってみるかなあ……」


 そして俺が建てた小屋に着くと、道夫さんは大声を出した。

「おお! すげえ! 立派りっぱな小屋じゃねえか?! すげえ、すげえ!」


 すると軽自動車でやってきた、源治さんが付け足した。

「はい、本当にすごいですよ。何しろこの小屋は、処分しょぶんするはずだった端材はざいで建てましたから」


 道夫さんはそれを聞いて、更に驚いた。

「端材?! 端材で建てたのか、この小屋を?!」


 そして道夫さんは俺の背中を、バシバシとたたいた。

「いやあ、あんちゃん、すげえ! すげえよ、あんちゃん! がはははは!」


 すると源治さんは、提案ていあんした。

健一郎けんいちろうさん、端材はまだ、使いますか? 使うんだったら工場でたまった端材をまた、差し上げたいんですが?」


 俺はこの小屋を増築して、大きな一軒家いっけんやにしたいと思っていたので答えた。

「はい、お願いします」


 すると源治さんは、微笑ほほえんだ。

「うん。私は端材をタダで処分できるし、健一郎さんはそれで小屋を増築できる。うん、これぞウインウインですね。はははは」


 と話がまとまると、源治さんは軽自動車に乗って山を下りて行った。すると残った道夫さんは、小屋を観察し出した。

「うーん、束石つかいしを使って、小屋の床を高くしているのか。でも、浸水対策しんすいたいさくもした方がいいぞ」


 俺は、「浸水対策?」と聞いてみた。すると道夫さんは、説明した。この小屋の近くには、川がある。これから秋になると台風がやってきて川が増水ぞうすいして、床上ゆかうえ浸水になることがある。道夫さんの場合、大雨が降りそうになったら、まず玄関の扉のすき間を外から高さ五十センチまでパテでめる。耐水性たいすいせいがあって、かたまらないパテを使う。パテは柔らかく自由に形を変えられる素材だ。そうすれば大雨の危険性が無くなったら、パテをはがせるから。もちろん家の高さ五十センチ以下の穴は、板とパテで全てふさぐと。


 更に道夫さんは、小屋の後ろに回って聞いてきた。

「ここには、畑を作るのか?」

「はい、そうです」

「ふむ。だったら、くま対策もした方がいいな」


 俺は、驚いて聞いてみた。

「え? ここには、熊が出るんですか?」

「ああ、出る。ツキノワグマがな。じゃないと畑の作物が、食われる。最悪、襲われる」


 すると道夫さんは、説明した。道夫さんは畑を、電気柵でんきさくかこっていると。電気柵とはワイヤーに強い電気を流してれた動物にショックを与えることで、『痛み』を学習させる。そして『こわい』と思いさせ動物を柵に近づけないようにするものだ。更にラジオを使って『音』で熊を威嚇いかくしていると。


 そして道夫さんは、笑顔でげた。

「よし、あんちゃん、家にこい。小屋が完成した、お祝いをするぞ」

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