第十三話

 やはり、屋根やねを付けるしかない。でも、どういう屋根を付ける? 普通の三角屋根さんかくやねか? でも、ちょっと待て、それで大丈夫か? 小屋が雪で、しつぶされたりしないか? その時、ふと思い出した。このZ市の民家の屋根の形を。もちろん三角屋根もあったが、ななめ屋根もあった。屋根が二枚の三角屋根もあったが、屋根が一枚で斜めになっている斜め屋根もあった。


 俺は、考えた。あれは、雪対策ゆきたいさくなんじゃないか? 一枚の屋根を南向きにすると、日が当たって雪がけやすくなるんじゃないか? 最悪、溶けなくても、雪が屋根から落ちやすくなるんじゃないか? そう考えていると、それが正解のような気がしてきた。まあ、いい。もし斜め屋根にしてみて上手く行かなかったら、三角屋根にすればいい。取りあえずこれから建てる小屋の屋根は、斜め屋根にしよう。


 あとはドアと、窓の大きさだ。ドアは当然、横が一、五メートルと高さが二、五メートルより小さくなければならない。うーん、まあ、横が一メートル、高さは二メートルにしよう。次は、窓だ。これは奥行おくゆきの五メートルと高さの二、五メートルよりも小さくなければならない。できれば大きな窓がいいなと思ったので、まあ、横は二メートル、高さは一メートルでいいか。この大きさの窓を、二つ付けよう。


 するとふと、気づいた。ドアと窓って、どこで売ってるんだ? 知らなかったので、スマホでググってみた。すると住宅用商品を取りあつかっている、会社で売っていることが分かった。更に調べてみると、運よくZ市にも住宅用商品を取り扱っている会社があることが分かった。よし、ドアと窓は、ここで買おう。


 一段落ひとだんらくすると、思い出した。小屋を建てるには、基礎きそが大事らしい。まあ小屋に限らず建物を建てるには、基礎は大事だろう。動画を見てみると束石つかいしという、四角い石が必要らしい。更に気づいた。脚立きゃたつも必要だ。小屋の高さは二、五メートルだから、二メートルまでのぼれる脚立があればいいか。それと長さをはかるために、巻尺まきじゃくも必要なことに気づいた。うん、束石と脚立と巻尺を、長野市のホームセンターで買おう。そこまで決まると俺は、スマホでノートの設計図せっけいず撮影さつえいしながらコメントした。

「えー、どんな形の小屋を建てるのか、決めました。はい、こんな感じです。材料の木材は端材はざいという、木材屋では使われないモノを使います。そして他にも必要なモノがあるので明日、買ってきます。今日は、以上です」


 俺はその短い動画を、配信はいしんした。これで一安心ひとあんしんだなと安心すると、腹が減ってきた。なので夕飯を作って食った。すると腹が一杯いっぱいになって眠くなってきたので、俺はテントの中の寝袋ねぶくろに入った。


 ちょっと気になって、さっき配信した動画のコメントを見てみるとみんな、応援してくれていた。『端材で小屋を建てる?! 大変だろうけど、ガンバレ』、『エコだな』、『小屋を建てている動画も、配信して下さい。必ず見るので』など。俺はうれしさに包まれ、皆のためにもがんばろうと決意した。明日はここに俺の土地だと証明するために、境界線確定きょうかいせんかくていくいってもらう。ひょっとしたら午前中に打ってもらうことになるかも知れないので、このまま早めに寝ることにした。


 次の日の午前十時頃、テントで待っていると作業着を着た二人の男性がやってきた。「今福いまふく健一郎けんいちろうさんですか?」と聞かれたので「はい」と答えると二人は、境界線確定の杭を打ちにきたと説明した。見ていると二人は素早く土地を測量そくりょうして、四本の杭を打った。そしてこれで正式せいしきにここは、あなたの土地ですと言われた。俺は無事に自分の土地を手に入れて『ほっ』としたが、疑問があったので聞いてみた。

「あの、ここに小屋を建てて住もうと思っているんですが、住所は取れますか?」


 住所があれば俺がよく使うアマゾンで買い物をすると、商品がここにとどくことになる。作業員は、答えてくれた。屋根と柱と壁があれば、それは立派な建物になる。建物に住み続けるなら市役所に行って手続きすれば、住所も取れると。安心した俺が頭を下げると二人の男性は「それでは、これで。住みやすい小屋を建ててください」と言い残して車で山を下りて行った。


 それから俺も軽トラで山を下りて、長野市に行った。ホームセンターで束石と脚立と巻尺を買い、Z市に戻った。そして住宅用商品を取り扱っている会社に行ってみると、気に入ったドアと窓があった。合計で六万円くらいしたが、買うことにした。テントに戻って軽トラの荷台にだいから買ってきたモノをろすと、やる気が出てきた。土地もある、小屋を建てるための材料もある、そして住所も取れることが分かったからだ。よし、やるかと思ったが、腹が減ってきた。なので川でアマゴを一匹釣って塩焼きにして、それをおかずにしてご飯を食った。食後の一服いっぷくをして、今度こそ決意した。やるぞ、小屋を建てるぞ!


 小屋を建てる動画ももちろん撮影さつえいするので、それができるように焚火台たきびだいの上にスマホをセットした。俺はまず束石を十八個、並べた。束石はコンクリートでできていて、台形だいけいだ。高さは、三十センチくらいだ。それをまず五十センチ間隔かんかくで、三つならべる。それを一つのセットとして、一メートル間隔で六つのセットを並べた。これで合計、十八個だ。間隔は巻尺で測った。そして束石の上部には、四角い穴が空いている。そこにノコギリで切って長さを二十センチにした柱を、はめ込む。


 次にその柱に、板をくぎで打っていく。五十センチ間隔で三つ並んでいる短い柱を一つのセットとしてその上に、長さを五十センチに切った板を三枚、打つ。柱は六つのセットになっているので、それを六回、かえす。すると長さが一、五メートルの板が六枚、られたようになる。でも、すき間があいている。なので次は長さが一メートルの板を、縦に釘で打っていく。すると横が一、五メートル、たてが五メートルの一枚の板をいたようになり、ゆかができた。ここまで終わらせた時には、日がしずみかけて腹も減ってきていた。なので今日は、ここで作業を終わらせることにした。


 そしてせっかくなので、床にベットをいてみた。ベットの大きさは横が一メートルで、縦が二メートルだ。だからベットを置くと床には、ほとんどスペースが無くなった。でも、それでもいいと思った。ひさしぶりにベットで寝てみると、なつかしい寝心地ねごこちだったからだ。やはりテントの中で、寝袋で寝るのはちょっとつらい。一晩、二晩くらいは新鮮しんせんでいいが、何日も寝ているとテントのせまさと寝袋の窮屈きゅうくつさがつらくなってくる。


 だから久しぶりのベットは、快適かいてきさを思いさせた。それにまだ天井てんじょうは付けていないので、ベットに寝たまま星を見ることができた。すると俺は思いつき、スマホを焚火台の上にセットした。そして、動画を撮影した。コメントをしながら。

「こんばんは、皆さん。床ができたので、ベットを置いてみました。久しぶりのベットは、快適です。そして、星を見ることができます。ベットで寝ながら星を見るというのは、ぜいたくのような気がします。それでは明日も小屋を建てるので、今日はこれで寝ます。おやすみなさい」


 そして俺はその動画を配信すると、ベットの心地ここちよさにさそわれるまま眠りについた。

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