第十二話

 俺は木材屋もくざいやを教えてもらったことのおれいを言い、道夫みちおさんの家を出た。そしてテントに戻った。俺は早速さっそく軽トラに乗り、道夫さんから教えてもらったZ市の木材屋に向かった。そこは直径ちょっけい五十センチくらいの大木たいぼくが積み重ねられていた、大きな木材屋だった。それに奥に、大きな灰色の建物がある。おそらくそこは工場で、大木を切っているのだろう。俺は工場に入った。そこではやはり丸い大木を、大きな機械で四角に切っていた。


 右を見ると事務室らしい部屋が見えたので、ノックしてみた。「どうぞ」と声がしたので、ドアを開けて一礼した。

丹波たんば道夫さんから教えてもらってきました、今福いまふく健一郎けんいちろうといいます。よろしくお願いします。

 早速ですが小屋を建てたいので、木材を売っていただきたいんですが……」


 部屋の中にいたのは、顔から年齢を推測すいそくすると六十歳くらいの男性だった。ヘルメットをかぶっていた男性は、名のった。

「私は、町田まちだ源治げんじ。この木材屋の社長です、よろしく」


 そして、右手を出してきた。俺ももちろん右手を出して、握手あくしゅした。そして、名刺めいしをもらった。すると源治さんが、切り出した。

「何でも山の中に住むための、小屋を作るんだって? しかも自分で。いいね、それ。そういうの好きだよ。はははは」


 俺は何となくずかしくなって、頭を下げた。すると源治さんは、続けた。

「道夫さんに電話で、安くて良い木材を売ってやってくれって頼まれたよ。はははは」


 え? 道夫さんは、源治さんに電話をしてくれたのか。ありがたい。これはまた、お礼をしないと。すると源治さんは、言い出した。

「安いんなら、端材はざいだけどね。切り出した大木から必要な部分を取った、残りだから。使えないから、タダだから。はははは、冗談じょうだん、冗談。良い木材があるから、見てみてよ」


 だが俺は、端材に興味きょうみを持った。

「え? そういうのが、あるんですか?! タダなんですか?! 見せてもらえませんか?!」


 源治さんは少し困った表情になったが、見せてくれた。端材は工場のすみに、積み上げられていた。俺は、思った。まだまだ、使えるんじゃないかと。もったいないと。もちろんタダでもらえるんなら、タダでしいと思った。それに俺は貧乏性びんぼうしょうのところがあって、使えるモノは使いたいと思っている。なので俺は、聞いてみた。

「あの、この端材って、まだまだ使えるんじゃないですか?」


 すると源治さんは、答えた。

「ああ、まあ、使えることは使えるよ。必要な部分を取った、残りだというだけで、いたんではないから。でも大きさは、バラバラだよ。使いにくいよ?」


 俺は、端材を観察かんさつしてみた。確かに、大きさがバラバラだ。太いモノもあれば細いモノもある。長いモノもあれば短いモノもある。だが俺は、確信した。まだ使える。大きさがバラバラだが、ノコギリなどで切って大きさをそろえればいい。さいわい俺には、その時間がある。ただ、ノコギリを使ったことはない。でもスマホでググればノコギリの使い方は、調べられると思った。


 それに、予感がした。端材で小屋を建てる。これはまだ、だれもユーチューブで配信はいしんしていないだろう。だからその動画は、バズるかも知れないと。なので俺は、源治さんに頼んだ。この端材をくださいと。源治さんにやはり少し困った表情になったが、うなづいた。

「いいよ、分かったよ。ゆずるよ。でも、ちょっと待ってね……」


 と源治さんは、事務室に戻った。そして少しすると、戻ってきた。手にはかなづちとくぎとノコギリを持って。源治さんは、笑顔を浮かべてげた。

「端材は処分しょぶんするだけで、お金がかかるんだ。だから君が持って行くとなると、お礼をしなくちゃね。はい、小屋を建てるなら必要だと思うから」


 俺は、ちょっと困惑こんわくした。確かに端材を処分するにも、お金がかかるだろう。でも端材をタダでもらって、その上、大工道具だいくどうぐまで……。俺がまだ困惑していると、源治さんは微笑ほほえんだ。

「じゃあ、条件じょうけんを付けよう。小屋が完成したら、私に見せてよ。それが条件」


 俺は思わず、苦笑くしょうした。なるほど、それなら大工道具も、もらうしかない。俺は頭を下げて、大工道具をもらった。そして二人で今、工場にある全ての端材を軽トラの荷台にだいせた。源治さんが手をったので俺は頭を下げて、軽トラを発車はっしゃさせた。


 テントまで戻ると、俺は全ての端材を軽トラの荷台から下ろした。そして、考えた。材料はそろった。土地もある。あとは小屋を建てるだけだが……。


 俺はもちろん、小屋を建てたことはない。だからもう一度ユーチューブで、DIYで家を建てた動画を見た。すると、大事なことが分かった。それは、設計図せっけいずだ。なるほど。設計図が無ければ、どう建てていいのか分からない。俺は筆記用具を持っていなかったので急いで軽トラで山を下りて、Z市のコンビニでノートとシャーペンを買ってテントに戻った。


 そしてノートに、小屋の設計図を書き始めた。まずは、寸法すんぽうだ。俺は小屋を建てる土地を三坪さんつぼ、つまり六畳分ろくじょうぶん買った。すると横が一、八メートルで奥行おくゆきは五、四メートルになる。ギリギリの大きさにすると良くないと思ったので、一回ひとまわり小さくすることにした。つまり小屋の横を一、五メートルで奥行きは五メートルにした。


 俺はそれをノートに書きながら、考えた。次は高さだ。俺の身長は一、七メートルだから、当然それよりも高くしなければならない。うーん、二メートル? いや、余裕よゆうをもって、二、五メートルにしよう。よし。小屋は取りあえず、横が一、五メートルで奥行きは五メートルで高さは二、五メートルにしよう。うん、待てよ? これには屋根やねが無いな。まあ、いいか、屋根が無くて天井てんじょうだけで。


 だが俺は、気づいた。いや待て、ここは長野県の山奥やまおくだ。つまり、雪がる。東京じゃ雪が降るのはめずらしいが、ここじゃ雪が降らない方が珍しいはずだ。つまり、降るってことだ。しかも、大量に! すると積もった雪が天井をやぶることが、予想よそうできる。うーむ、どうしたもんか……。

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