第十一話

 俺はまずそこに、小屋こやを建てたいと答えた。そしていずれは一軒家いっけんやを建てたいと、付け加えた。すると、中年の男性はおどろいた。

「え? 家を建てる?! うーん、なるほどねえ……。確かにあの辺は山の中だけど、平坦へいたんだ。家も建てようと思えば、建てられる。でもそれなりに、お金がかかるよ?」


 俺は、正直に答えた。小屋はもちろん、家も自分で建てるつもりだと。するとやはり、中年の男性は驚いた。

「自分で家を建てる?! どうやって?! 何のために?!」


 俺は、小屋や家を建てる動画をユーチューブで配信はいしんして、広告収入こうこくしゅうにゅうをもらうつもりだと説明した。小屋や家を建てる方法は、ユーチューブの動画を見て勉強すると伝えた。すると中年の男性は、うなづいた。

「ユーチューブ? ああ、あの何か、インターネットってやつ?」


 俺は、まあ間違っていないと思い、頷いた。すると中年の男性は、聞いてきた。

「なるほどねえ……。まあ、いいや。そういうことだったら、売るよ。あの山の所有者も、売りたがっているから。で、何坪なんつぼ、欲しいの?」


 俺は、考え込んだ。実はそこまで、考えていなかったからだ。だから今、考えた。坪か……。確か一坪は一、八メートル×一、八メートル、つまりたたみで、二畳だったな。俺が東京で住んでたアパートのリビングは六畳だから、それでいいか。つまり三坪か。いや、畑もやってみたいな。そうすれば野菜も作れる。広さは、うーん……、同じく六畳でいいか。つまり三坪。合計、六坪か。あ、それと軽トラの駐車スペースが必要だな。うーん、二坪あればいいか。つまり合計、八坪か。俺は、どれだけの値段になるんだろうとドキドキしながら聞いてみた。

「えーと。八坪、欲しいんですけど、いくらになりますか?」


 すると中年の男性は、素早く電卓をたたいた。そして、答えた。

「えーと、四千円だね」


 俺は、驚いて聞き返した。

「え?! 四千円?! 八坪ですよ、本当ですか?!」


 東京の一坪の平均金額は、約百万円だと聞いたことがあるからだ。いくら長野県でも、安すぎる……。すると中年の男性は、笑みを浮かべながら答えた。

「山の土地の値段なんて、そんなもんだよ。まあ、木が多い土地なら、ちょっと高くなるけど。木を売れるから。でも家を建てるっていうんなら、木が無い土地でしょう?」


 俺はもちろんだと、頷いた。すると中年の男性は、言い切った。

「じゃあやっぱり、四千円。一坪、五百円だから」


 一坪、五百円……。俺はこのZ市にきて、一番のカルチャーショックを受けた。だがもちろん、買うことにした。身分証みぶんしょうを見せてくれと言うので、運転免許証を見せた。そして財布さいふから、四千円を出した。すると中年の男性は運転免許証のコピーを取ったりしながら、書類を書いた。そして告げた。

「はい。じゃあこれ、契約書けいやくしょね。ああ、それと土地家屋調査士とちかおくちょうさし分筆ぶんぴつを、お願いしてね」

「分筆?」


 中年の男性によると土地の用途目的が山林さんりんから宅地たくちに変わるので、分筆という登記とうきをしなければならないということだった。


 俺は一礼いちれいして、建物を出た。そして軽トラに乗って、呆然ぼうぜんとした。いくら山の中とはいえ、一坪、五百円……。だが、安いにこしたことはない。畑の分の土地も買ったし、これからいそがしくなるぞ。


 だがまず土地家屋調査士の事務所の場所を聞いた俺は早速さっそく、向かった。分筆を依頼いらいすると二十万円かかると言われ、俺は近くのコンビニのATMから二十万おろして渡した。すると明日、担当者が土地の境界線きょうかいせんを確定するためにくいを打ちに行くから、その場所にいて下さいと言われた。


 ハッキリ言って二十万の出費しゅっぴは、痛かった。だが仕方しかたがない、これは必要経費ひつようけいひだ。きっと小屋を建てる動画を配信すれば視聴回数が伸びて、広告収入を得られるはずだ。よし、がんばろうと俺は自分に気合きあいを入れた。


 そして畑では何を作ろうかと思い、スマホでググってみるた。すると長野県で夏にできる野菜は、トマト、じゃがいも、かぼちゃ、白菜はくさい、きゅうりなどだった。なのでそれらの種を、ホームセンターで買った。更に畑をたがやすためにクワ、水をくためにジョウロを買った。それから山の中のテントに戻った。


 それから何をしたらいいか、考えた。まずは、土地を買った。そして小屋を建てるなら、木材もくざいが必要だ。俺はスマホで、『Z市 木材屋』でググってみた。すると、七件の木材屋が見つかった。俺は少し、困った。七件の木材屋のうち、どの木材屋から買えばいいんだ? さすがに七件全部を見て回るのは、面倒めんどうだ。うーむ。すると、ひらめいた。道夫みちおさんなら、いい材木屋を知っているかもしれない。よし、そうしよう!


 そこまで考えて、気づいた。腹が減った。そういえば今日はまだ、飯を食っていない。俺は早速さっそくりをした。釣りをしながら、考えた。そういえば道夫さんから豚肉をもらった時に、それを入れてあったタッパーをまだ返していない。そのまま返すのも、悪い気がする。豚肉ももらったし、これから相談に行くし。なので俺が食う分一匹と、タッパーに入れて道夫さんに渡す分二匹、合計三匹のアマゴを釣った。思えば俺は、アマゴを釣るのが相当そうとう上手うまくなった。これも、道夫さんのおかげだ。俺はアマゴを塩焼きにして、ごはんいて食った。


 そして道夫さんの家に、向かった。玄関げんかんの戸を開けて呼びかけると、おばあさんが出てきた。俺がアマゴが入ったタッパーを手渡すと、おばあさんは喜んでくれた。

「まあまあ、ありがとうございます。ちょっと、上がってくださいよ」


 俺は少し緊張しながらも上がり、居間いまに向かった。すると道夫さんは、新聞を読んでいた。おばあさんが俺からアマゴを二匹もらったと聞くと、道夫さんも喜んでくれた。

「ほう。アマゴを釣るのは、上手くなったようだな」


 俺は「はい」と答え早速、道夫さんに聞いてみた。小屋を自分で建てたいので、良い材木屋を知りませんか? と。するとやはり、道夫さんも驚いた。

「小屋を自分で建てる?! がはははは! 相変あいかわらず、面白おもしろいあんちゃんだ。でもわしは、好きだぜ! がはははは!」


 そして道夫さんの知り合いが経営けいえいしている、木材屋を教えてもらった。スマホを見ると、場所が分かった。それからおばあさんがお茶を出してくれたので、小屋も建てますが畑もやってみたいと思っていますと告げた。すると道夫さんは、聞いてきた。

「あんちゃん、畑で野菜を作ったことはあるのか?」


 俺は首をると、道夫さんは言ってくれた。

「じゃあ分からないことがあったら、儂を呼べ。教えてやるから。がはははは!」

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