第九話

 あとは時間がてば、自動的にみごはんができる。それまでは待つだけだからコメントすることは無いが、俺は撮影さつえいを続けた。やはり、になると思ったからだ。焚火たきびの炎と、飯ごうから立ち上る湯気ゆげが。いや、だんだんと沸騰ふっとうして飯ごうから聞こえてくる『グツグツ』という音も、心地ここちいいと思えたからだ。三十分くらいすると飯ごうから出ていた湯気が、少なくなった。もう炊けたかなと思い飯ごうのフタを開けてみると、やはり炊けていた。俺は、コメントを始めた。


「はい、炊きあがりました、美味おいしそうです。そしてはしで、炊き込みご飯をぜます。はい、いいにおいがします。鶏肉とりにくとコシアブラの葉の、いい匂いがします。それでは、混ぜます。はい、美味しそうな茶色をしていますが……、お、やはり底に、おこげができています。これも、もちろん美味しいです。炊飯すいはんジャーなどでは、なかなかおこげはできませんが焚火と飯ごうだと結構できます。それでは、食べてみます。


 うん、美味しいです。鶏肉は歯ごたえもあるんですが、でも柔らかくて美味しいです。ちょっと口の中があぶらっこくなってしまうんですが、コシアブラの葉がのったご飯を食べると……。うん、コシアブラの葉のさわやかな風味ふうみが、口の中をスッキリとさせてくれます。そして鶏肉の味がしみ込んだご飯も、うん、美味しいです」


 俺は炊き込みご飯を食べ終わると、スマホでの撮影を止めた。そして後片付あとかたづけをしてから、動画を配信はいしんした。タバコを一本、吸った後に、動画の視聴回数をチェックしてみた。そして、がくぜんとした。朝ご飯を食べる動画は、百回くらい。コシアブラの葉をりに行く動画は、二百回くらい。ダメだ、これではユーチューブの広告収入こうこうしゅうにゅうを得ることはできないだろう……。まあ始めたばかりだから、こんなものかも知れない。動画をどんどん配信すれば、その内に見てくれる人も増えるのではないかと考えた。だが、おそらく違う。


 朝ご飯を食べる動画の後に配信した、コシアブラの葉を採りに行く動画の方が、視聴回数が多い。約二倍だ。なぜか。おそらくキャンプでの食事の動画などみんあ見飽みあきているのだろう。だからコシアブラの葉を採りに行く動画の方が新鮮しんせんで、視聴回数がびたんだろう。


 俺は、考えた。キャンプの動画で、食事以外に視聴回数が伸びそうな動画……。すると、ひらめいた。この、大自然を撮影した動画を配信すればいいんじゃないかと。ここは、森の中。当然、木々きぎが無数にしげっている。それだけで、画になるだろう。また、川もある。さっきは、見知みしらぬ小鳥もいた。それらを撮影したらどうだろうか! もちろん、勝算しょうさんはある。コシアブラの葉を採りに行く動画はここの大自然も撮影していたので、視聴回数が伸びたんだろう。俺は早速さっそく、スマホで撮影を始めた。


 まずは、木々だ。緑色があざやかな広葉樹こうようじゅを根元から撮影して、空に伸びる先端まで撮影した。コメントは、しなかった。風が吹き木々の葉が生み出す、『ざわざわ』という音もひろいたかったからだ。そして、川に移動した。さっき見た通り、川は流れている。いつまでも、いつまでも。それはやはり、いい画になった。川が流れる、『さらさらさらさら』という音も拾った。そうして撮影しているとうんのいいことに、さっきの小鳥が俺の近くに止まった。俺はもちろん、撮影した。すると更に運がいいことに、小鳥は川に飛び込んで小魚をくわえて飛んで行った。小鳥が小魚をとららえる場面は、めずらしいだろう。俺は撮影を止めて、動画を配信した。


 それから、夕食の準備を始めた。何度もりをしてコツを覚えた俺は、あっさりとアマゴを一匹、釣った。それを味噌みそで味付けして、ご飯を焚火で炊いて食べるところも撮影した。そして動画を配信しようとして、おどろいた。さっき配信したこの山の大自然の動画の視聴回数が、一万回をえていたからだ。バズったと言って、いいだろう。またこの動画には、たくさんのコメントが付いた。『いやされる』、『自然って、いいなあ』、『こういう動画、もっと見たい』など。ねらどおりに視聴回数が伸びたので、俺は思わずガッツポーズをした。そして動画配信に、手ごたえを感じた。

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