第七話

 次の日の朝、俺はスマホのアラームで六時半に起きた。部屋に何もないことを確認すると、一時間単位でめられる駐車場ちゅうしゃじょうに行った。軽トラは、そこに停めていた。そして軽トラを発車させ、俺のアパートの前で慶介けいすけを待った。すると慶介は茶色のズボンに長袖ながそでのシャツに、帽子ぼうしまでかぶって現れた。俺はそこまでやるかと思ったが、おそらく慶介の服装がキャンプに行く場合、正しいのだろう。俺はチノパンに半袖はんそでのシャツで、帽子も被っていない。でもまあ、この服装で数日間過ごしたので、このままでいいだろうというみょうな自信が付いていた。


 慶介を軽トラに乗せて走り出すと、やはり群馬県で一泊して長野県のZ市に着いた。キャンプをしている場所に着くと、慶介のテンションは一気に上がった。

「うわー、森の中の大自然! なのに向こうには川が見えるー!」


 俺たちは腹が減っていたので、アマゴを釣ることにした。慶介にり方を教えると早速さっそく、一匹釣った。だがそれからは釣れなくなったので、俺が釣ってみた。すると一匹釣れた。アマゴは一人に一匹で十分だと思ったので、釣りを止めて焚火たきびを起こした。はんごうでご飯をきながら、塩をふったアマゴも一緒に焼いた。焼きあがったアマゴにかぶりつくと、慶介は口からビームを出しそうな勢いでさけんだ。

美味うまーい! 白身しろみのあっさりとしたうまが最高! そしてふってある塩が、更にうま味を引き出しているー!」


 まあ俺も数日前に体験したことだから、慶介の気持ちはよく分かった。だがそれにしても声がでかい。周りに人がいなくてよかったと、胸をなでおろした。


 食べ終わると夜だったので、当然のように夜空を見上げて星を見た。夜も明るい東京では、まず見れない星だ。星を見上げながら、慶介はつぶやいた。

なつかしいなあ。星を見るなんて、何年ぶりかなあ……」

「え? こんな星空を、見たことがあるのか?」

「はい。僕は、大分県の出身なんですよ。東京の大学に行くまで、そこにいたんですよ。そこでは毎日のように、星を見てましたよ……」

「そうか……」


 それからテントの中で、眠った。俺は寝袋ねぶくろを貸そうかと思ったが、慶介はこのままでいいと言って服を着たまま寝た。


 朝、目が覚めると、川で顔を洗って釣りをした。慶介は釣れなかったが、代わりに俺がアマゴを二匹釣った。飯ごうでご飯を炊いて、アマゴは味噌みそで味付けした。慶介はやはり、美味い美味いと言って食っていた。食い終わると慶介は、焚火の炎を見ながらしみじみと呟いた。

「やっぱりいいなあ、自然の中は。いつかは大分に帰ろうと思ってたんですけど、ここもいいなあ……」


 そして慶介は、東京に帰ることになった。俺は、また軽トラで送ろうかと言ってみたがことわられた。軽トラは時間がかかるから、北陸ほくりく新幹線しんかんせんで帰ると。まあ軽トラでゆっくり移動するのも、ヒッチハイクみたいで面白おもしろかったと言って。なので俺は慶介を、軽井沢かるいざわ駅まで送った。慶介は会社の課の皆へのお土産みやげとして、『軽井沢スイートチーズバーガー』を買っていた。新幹線に乗る前、慶介は手をった。

「僕は絶対また、ここにきますよー! それではー!」


 俺はZ市内のスーパーで鶏肉とりにくを買うと、テントにもどった。魚は釣れる。米もある。野菜はググってみると、コシアブラという山菜さんさいがあることが分かった。山に入ってみるとすぐに見つけたので、葉っぱを取っておいた。何とか肉も買わずに済ませられないかと考えたが、良いアイディアは浮かばなかった。だからスーパーで、鶏肉を買った。


 俺は焚火を起こして飯ごうで、鶏肉とコシアブラの葉の炊き込みご飯を作って食った。そして食後の一服いっぷくをしながら、考えた。やはり、金がる。俺はここに一軒家いっけんやてたいと思っているがそれにも当然、金が必要だろう。土地を買う金、木材を買う金など。貯金はあと五十万円ちょっとあるが、それでも足りるかどうか。それに足りたとしても、やはり金が要るだろう。例えば、肉を買ったりする金が。


 と考えていると、ひらめいた。ユーチューバーになるのは、どうだろう! まずはキャンプの動画を配信はいしんする。これは皆やってるから、あまりバズらないかも知れない。でも、一軒家を自分で建てる動画はどうだろう。取りあえず俺は、そんな動画は見たことがない。ということは配信している人が少ないか、または誰も配信していない。どっちにしてもそういうめずらしい動画なら、バズるかも知れない。ふと考えた俺は、スマホでユーチューブを見てみた。するとあった、家を自分で建てている動画が。しかも結構けっこう、バズってる。うん、これならイケるかも知れないと、少し自信を持った。だが今、家を建てるつもりは無い。土地を買ったり、家を建てたりする材料の木材も無いからだ。家を建てる動画は、それらを用意してからだ。まずはキャンプの動画を配信して、広告収入こうこくしゅうにゅうかせいでみようと思った。


 次の日の朝。俺は早速スマホで、動画を撮影さつえいし始めた。ユーチューブのアカウントはすでに持っていたので、あとは動画を撮影して配信するだけだ。俺はまず朝食を食う動画を撮影しようと思ったが、焚火を起こすところから撮影することにした。その方が、面白いと思ったからだ。俺はスマホで撮影しながら、コメントした。


「えー、皆さん、おはようございます。はい、それじゃあ早速、焚火をしようと思います。私の場合、焚火をしないと朝食を作れないので。


 まずは山に落ちている、えだひろいます。細い枝と太い枝を拾います。細い枝を燃やして、それから火力かりょくを上げるために、太い枝を燃やします。


 はい、まずは焚火台たきびだいの下に細い枝を山のような形にみます。そしてチャッカマンで、火を付けます。はい、簡単ですね。それから太い枝を細い枝に被せます。はい、太い枝も燃えて、火力が強くなってきました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る