第31話 夜明けまで

そして…


丑三つ時。沙窪から硝煙が立ち昇る。奇襲!そう気づき俺、長野業正は起き上がる


業正「お館様!」


そして陣幕に駆け込むと、お館様の姿はなく、小姓達が只々慌てているだけだった。


朝定「長野殿!」


そう叫び、駆け込んできたのは扇谷様。うちの山内上杉憲政馬鹿殿とは違い、明朗な方だ。しかしながら、先代の時に北条に大きく領土を取られ、思うように軍を動かせていない。


朝定「山内殿は?」


朝定殿が私に聞くも、首を振る。すると近くにいた小姓が


小姓「先ほど、一人で、、逃げて行きました」


朝定「…」


只々唖然とする。しかしそうはしていられない


難波田憲重「殿!」

朝定「わかっておるわ!山内殿の軍は長野殿に頼みます!私は大軍を率いたことはなく、この混乱をおさめれることはできないので。それに山内は業正殿が支えてるも当然なので」


そう笑みを浮かべたったの2800しかいない扇谷軍の全兵を率いて、沙窪に向かう。

無理だ。氏康は8000を越える。二、五倍以上だ。勝てるわけがない。しかしこの方をここで死なせてはいけない。


業正は全軍に号令をかけ、混乱をおさめようと動き出した。しかし、届くのは悪い報のみ。


兵「北条左衛門大夫が河越城から出撃。公方様、敗走」

兵「太田全鑑殿、寝返り!」

兵「沙窪のお見方、大破」

兵「長野吉成様、討ち死に!」


空を見上げる。息子の死は流石に辛い。しかし、悲しむのは後だ。そして兵を率い、進む。扇谷様の元に。


兵「難波田憲重様、討ち死に!」

兵「扇谷上杉朝定様、討ち死に!」


あ…期待の糸がプツッと切れる。負けた。

そう思い、思考が停止する。


扇谷上杉朝定side


爆音と共に俺は目を覚ます。奇襲!そう直感し、最大兵力を持つ、山内上杉の陣に駆け込む。しかしそこにいたのは今し方入ってきたとみられる長野殿と混乱し、思考の停止している小姓のみだった


朝定「長野殿!」


そう呼びかけ、1番重要なことを聞く。


朝定「山内殿は?」


すると長野殿は首を振る。しかし近くにいた小姓が


小姓「先ほど、一人で、、逃げて行きました」

朝定「…」


俺は唖然とする。関東管領が11万の誰よりも早く逃げた?馬鹿なのか?


難波田憲重「殿!」


難波田の声で正気を取り戻す。やらないといけないこと。まずは士気が下がり絶望している配下と長野殿への喝。まだ勝ち目は十二分にある。


朝定「わかっておるわ!山内殿の軍は長野殿に頼みます!私は大軍を率いたことはなく、この混乱をおさめれることはできないので。それに山内は業正殿が支えてるも当然なので」


そう言い、配下を連れ、俺は沙窪に向かう。


俺は進む。例えその先が暗闇だとしても。




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