第30話 山内上杉という怪物

天文14年。巨大な権力を傘にきた暴虐非道の主人。そんなものに俺、藤田泰邦は仕えていた。


山内上杉憲政「おい!これでない!わしが言ったものと違うではないか!」

康邦「いやでもそれをさっき所望致した…」

憲政「口答えするな!」


少し話すとすぐ殴られる。そして、蹴られ


憲政「これぐらいで勘弁してやるわ」


と恩着せがましく吐き捨て、どこかに歩いていく。なんだコイツ?


長野業正「あの馬鹿殿が…大丈夫か?藤田殿」


そう俺に話しかけたのは山内上杉家の大黒柱、長野業正。彼がいなければ早々に山内上杉家は滅ぶ。文字通り最後の柱だ。


康邦「心配させてしまい申し訳ない」

業正「いえいえそんな…お互い頑張りましょうか」

そう言い残し、その場を去っていく。いっそ、彼が主君だったらよかったのにな。そう思いながら俺もまた、仕事に向かう。


そして、喜劇は起きる。


天文15年4月20日。それが運命を分けた日の名前である。


先月、今川義元配下の太原崇孚により、反北条同盟が締結された。


駿河・今川治部大輔源義元

甲斐・武田大膳太夫源晴信

上野・山内上杉兵衛少輔源憲政

武蔵・扇谷上杉修理大夫源朝定

武蔵・太田源全鑑

武蔵・成田下総守藤原長泰

古河・足利従四位左兵衛督源晴氏

常陸・小田従四位上左近衛中将源政治

下野・小山下野守藤原高朝

下野・結城左衛門督藤原政勝

下野・宇都宮従四位下藤原尚綱

安房・里見刑部少将源義堯


と言った武将達が参加しており、関東の雄、北条氏でも、もう難しいか。そう思われた。


そしてついに天文14年9月26日。山内上杉憲政は関東の反北条を総動員。足利晴氏の力もあり、その数は88000にも上った。

その大群は河越に籠る北条綱成を包囲。陥落は間近と見えた。


しかし、北条の動きは早かった。

諏訪を利用し、武田の動きを封じ込めると河東周辺を今川に差し出し、北条包囲網から抜けさせ、また、長尾為景と盟を組み、山内上杉軍の戦意を落とし、また、居城である平井城と沼田城防衛を名目に、俺もここを脱出した。これがのちに俺の運命を分けることになったとはまだこの時はわからなかった。


こうなると手強い敵は安房の里見と常陸の佐竹くらいだが、佐竹は前当主、佐竹義篤が病死したばかりで動いておらず、また、里見は三浦半島を荒らしているが、それは無視し、一直線に河越に着陣した。そして、すぐに憲政に降伏の届出を出した。すると


業正「氏康を侮ってはいけませぬ!これは偽り。決して油断せぬよう」

憲政「わかっておるわ…もう良い。お主は下がって遠くからわしが河越城を落とすのを目に焼き付けよ」


そういうと憲政は近くにいた女を抱きしめ、

陣から出ていった


業正「クッ…これでは」


河越には明るい月が輝いており、夜風が誘う。煌々とする松明に音が消える。

有能な将の諫言を聞かずにしていたこの軍に終わりが近づいていた。

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