第29話 沼尻の戦い・消失
佐野陣
そこには血濡れの男が立っていた。
その男の名は…吉良氏朝。北条氏の食客にして北条幻庵の婿である文系の男である。
ではどうしてこうなったのか…それはニ刻(四時間)程遡る。
康邦side
北条綱成らの突入により、混戦が始まった。その時、康邦と氏朝は綱成の命により、やや南西の下津原に布陣していた。
綱成「お主らはあまり目立たないところ…そうだな。下津原辺りに布陣しろ。今日は左が大きく動く。それこそお主らに反応する暇もないほどにな」
康邦「それで私達は左から抜けて佐竹を刺せば良いのか??」
綱成「話が早いな。しかし刺すのは佐竹ではない」
氏朝「それって」
綱成「ああ。お前らには敵の要、佐野宗綱を叩いてもらう」
康邦「成程。ならばお主らには大きく前に敵を誘かなければな」
綱成「それは康俊がやってくれる」
康邦「康俊殿なら安全だな」
綱成「で、だ。今日は俺も佐竹の鬼を
康邦、氏朝は目を見開いた。ありえない。この男。そう考えるも、この男ならできるかもしれない。そう思い直す。
それから四半刻(三十分)後。中央から大きな喚声が上がる
康邦「始まったか」
そして、ついに出番が来る。
目の前には一筋の路。敵が裂け、目の前から姿を消した時。無傷の沼田軍三千六百は動き出す。
北条兵「うおー」
喚声をあげ攻め上がる。間宮殿のおかげでこちらに飛び出してくるものはいない。しかし、こちらに気づいたのか佐野軍の遊軍が飛び出して、こちらに向かってくる。
康邦「チッ。第一番隊!左方展開。迎え撃て!」
急ぎ軍を展開するも間に合わないー
康長「あぶねえな…藤田殿!ここは俺が受け持つ。貴方は先に向かってくれ!」
何故彼がここに?ここは松田の持ち場からは大きくかけ離れているが、そんなこと気にする暇はない。何しろここで足を止めれば
康邦「感謝する!」
そう一言言い、先に進む。先駆する騎馬の勢いを加速させ、佐野の二陣に突入する。ここで俺の役目は終わりだ。
康邦「吉良殿!あとは頼んだ!」
氏朝「かしこまった!」
そう声をかけ、足を止める。ここさえ突破すれば残るのは親衛隊の三百ほどだ。吉良配下の精兵五百には叶うまい。
少し安心し、援護を続ける。そして目の前に立つこの男を見つめる
康邦「久しぶりだな。佐野房綱。いや、今は天徳寺宝衍だったか」
天徳寺宝衍「藤田の不忠者か…お主には用はない。館様を守りにいく。そこを退け」
康邦「どかぬ」
宝衍「何故じゃ?河越で弱った主家をなんの忠義もなく裏切った其方が?自分の命が1番大切なのだろう?」
康邦「あ?」
もの凄い声が喉から出る。それは俺の過去を。禁忌に触れた男への大きな怒りだった。
設定裏話
前話にあった康長の怪我の話はこの時のことで、彼は憲秀に康邦の佐野攻撃の援護を命じられてました。康長が出払い、穴が空いたのを四郎が埋めたというわけです。なるべく多くのものに佐野奇襲を伝えないよう、四郎をも騙した憲秀に氏政は改めて感状を渡しました。
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