第18話

 その後私は、与えられた部屋で待機をしていた。普段はいつでも出撃できるように戦闘服のままでいるのだが、なぜか今日はゆっくりしたくて、下着姿でベッドに寝転がっていた。

 頭の中ではレイン=イングヴァイのことばかりを考えていた。

 これまで女子のなかで生活をしてきて、同年代の男子と関わってこなかったせいか、彼は私にとって衝撃的で刺激的だった。男子というのはああいうものなのだろうか?

 それとも彼が特別なのだろうか? 良く分からない。でも、もっと知りたいと思った。

 彼の胸の中で泣きじゃくってしまった姿が脳裏に蘇り、顔が熱くなる。

「温かかったな……」

 あの時のレインの体温を思い出して、私は呟くと顔が弛んでいることに気が付いていた。

 なんだか気分が昂ぶって、ふわふわした気分だ。こんなことは始めてだった。

 そんな私の気分に警告を促すように、緊急出撃を要請する、けたたましいほどのサイレンが要塞中に鳴り響いた。

 セキウリウヲ共和国が進軍を開始したのだろう。この要塞を制圧するなのだ。

 私は急いで戦闘服を着ると部屋を飛び出し、慌てて軍隊と合流しようと廊下を走った。


私は特別班が本部にしている、昼間に機材を設置していた場所へ向かった。

 私が本部に着くと科学者たちは集合していて、ハンガーに赤いエクシードはもうなかった。

 レイン=イングヴァイはすでに出撃した後なのだ。

 部屋の壁には大きなモニターが幾つも設置されており、すべてがレイン=イングヴァイを、正確には彼が身につけているエクシードをモニタリングしていた。

 高速移動をすれば噴射口が赤くなって出力や移動速度が数字で表示され、銃型エクシードでも同じように細かな情報が表示される。

 戦況を把握するためではなく、あくまでもエクシードの情報収集をしているだけのようだ。

 こういう光景を見ると、この人たちは軍人ではなく研究者なのだと実感させられる。

「君は待機をしていてくれればいいよ。あいつが撃墜されてからここを守ってくれればいい」

 細身で背の高い男が、細い糸目で酷薄な笑みを浮かべて私に声を掛けてきた。

 発せられる言葉からしても、彼を実験台としか思っていないのが伺えた。

「はい」

 引っ掛かるものはあるが、それが彼の仕事であり私にも私の仕事がある。余計なことをするのはお互いにマイナスにしかならないのだ。

 レイン=イングヴァイは世界最強の波動術者と謳われた通りに、その強さは圧倒的だった。しかし、そのレイン=イングヴァイでさえも新型エクシードの試験操縦者でしかない。

 要塞からは正規軍の出撃はなく、現在はレイン=イングヴァイだけが戦っている状況だ。

相手は五十人以上、全員がエクシードを装備して攻撃を仕掛けてきている。

 それでもレインイングヴァイは縦横無尽に動き回り、相手が攻撃した瞬間に、軌道をまるで見切っているようにかわすと、正確に相手を撃ち落して数を減らしていく。

 科学者たちは戦況には興味がなさそうだ。エクシードの数値で一喜一憂をしている。

 私は戦場を注意深く見つめていた。今のところ危うさは感じさせないが、戦場では何が起きるか分からない。多勢に無勢という言葉もあるくらいだ。油断はできない。

 一番の懸念は疲労だったが、私の心配を余所にレイン=イングヴァイの快進撃は続いた。

 セキウリウヲ軍はあっという間に全滅の危機に陥っている。

 その時、遠くから大型の軍用機が三隻接近してきた。人数は一隻につき数十人。この戦況で導入された援軍だ。セキウリウヲ軍の中でも選りすぐりの兵士たちだろう。

 さすがに一人では無理だ。私は援護のため、出撃の準備をした。

「君は出撃する必要はない。これを放出するからね。大丈夫。あいつならなんとかするさ」

 そういって科学者の責任者らしき男は、置かれた、巨大な砲撃型エクシードを指し示した。

 これをカタパルトで放出させて、レイン=イングヴァイに空中で換装させるつもりなのだ。

 もしも彼が受け取れなかったり、敵兵に撃ち落されたら万事休すの無謀な作戦である。

「この銃の出力と威力を試せればいいんですよね? それなら私がここから撃っても同じじゃないですか?」

「命中させられるならね」

「大丈夫です。私も波動術者ですから」

 私は砲撃型エクシードを手に取るとカタパルトに向かった。エクシードは通常のバズーカーよりも大きく、ミサイルランチャーくらいの大きさがある。

 設置型の兵器を空中で使うように改良されたようで、非常に扱いづらかったが、使い方はなんとか分かる。なんとかなりそうだった。

「行きます!」

 私は一声掛けるとスコープを覗き込み、三隻の軍用機が兵士放出のため速度を落したところを見計らって砲撃を放った。大出力の砲撃が一度に軍用機を貫き、三隻全部が爆発を起こした。

 研究者の一人がデーターを読み上げ、他の研究者たちも歓声を上げたのが聞こえてきた。

 援軍を失ったセキウリウヲ軍が撤退していくのを見て、私はほっと胸を撫で下ろした。

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