第16話

赤い閃光が空間を切り裂いたと思ったら、戦艦が一隻、爆発を起こして降下していく。

三隻の戦艦は慌てて弾幕を張るが、呆気なく二隻目も爆発を起こした。それを見て、私と戦っていた五人の戦士も、戦艦のほうへ戻っていく。

私の放った秒速数十発の弾丸が、そのうちの一人を背中から撃ち抜いた。

四人は私に視線を向けたが、三隻目の戦艦が沈んだのを見ると、そっちへ飛んでいく。

そこからは圧倒的なのが遠目でも分かった。戦艦と四人の戦士を相手に、一人で戦っていた。

四人の戦士はあっという間に倒されて行き、戦艦もあちこちから黒い煙を吐いて、最後に一際大きな爆発を起こすと、降下していった。

一気に辺りが静かになった。私は片翼を失ったエクシードで浮遊すると、輸送艇へ戻った。

 戦闘のあった場所から誰かが近付いてくる。私の予想通り輸送艇に乗っていた少年だ。

 少年は私の前で止まるとそのまま滞空して、私に片手を差し出してきた。

「お前、大丈夫か?」

 あれだけの戦闘を繰り広げておきながら、少年は涼しい顔で問い掛けてくる。

「はい。大丈夫です」

 本当は支えて欲しくなんてなかったけど、一人ではうまく飛べない。エクシードを脱いでしまえば可能ではあるが、高額のエクシードを無駄にするわけにもいかない。

「ああ? なにを怒ってんだ? お前?」

 少年はバランスを保つために私の右側に回ると、指を絡めて手を握り、腰に手を回してきた。

「どうして戻ってきたんですか? あのまま行けば振り切れたはずです」

「それじゃあ、お前は墜とされてたぜ?」

「私は! 生き返れるんです! 何度死んでも生き返れるんです。だから、大丈夫なんです!」

 私は思わず声を張り上げていた。私は助けて貰ってはいけない。優しくされてはいけない。

 死んでいったみんなのためにも、命が尽きるまで戦い抜かなければならないのだ。

「ほぅ。そいつは随分と、いいように国に利用されそうな体質だな……」

 少年は少し驚いたような声を出すと、溜め息混じりに苦々しく吐き捨てた。

「だが、生き返るからって強ぇわけじゃねぇだろう? 痛みを感じねぇわけじゃねぇだろう」

 少年は繋いだ手を強く握り締めて耳元で優しく囁いた。なんだか慣れていて腹が立つ。

「私はこれまで一緒に出撃した人たちを守れなかったんです。四度も……。

 十一人です。十一人もの人を死なせて、それでもこうして一人だけ今も生きてるんです。

 私はこの命がある限り戦い続けなければならない。そうでないと、みんなに顔向けできない」

 少年の腕の中で私は胸の裡を告げた。これが私の覚悟であり単独部隊に入った理由だ。

「死んでいったものたちは本当にそれを望んでいるのか? 少なくてもオレだったら、死なせてごめんなんて謝罪は聞きたくねぇな」

 輸送艇が近付いてくる。少年が私を導いてくれ、羽根の下にある入り口から格納庫に入った。


 輸送艇に入るとレイン=イングヴァイは私を丁寧に着地させてくれ、それから煩わしそうにエクシードを脱ぎ捨てる。

「ダメだろう? レイン。もっとエクシードの性能で戦ってくれないと……」

「飛行データーとグレネードランチャーの破壊力は取れたはずだぜ?」

 少年からエクシードを受け取り、女性の研究員がラックに戻す横で、違う研究員がなにかの書類を見ながら文句を言うが、レイン=イングヴァイは軽く鼻で笑い飛ばした。

「それだけじゃ足りないんだよ。まぁ、本番は最前線に行ってからだ。明日は頼むぞ」

「任せとけ。セキウリウヲ帝国のヤツらなんか十秒で壊滅させてやる」

「帝国? 共和国だぞ? やっていることはともかく、名目上はな」

「はっ、そうだったな」

 レイン=イングヴァイは科学者と軽い会話を交わすと、座席に戻っていく。

 私はというと、翼を壊したことを整備班の人に怒られ、手伝いまでやらされていた。

 その間も、レイン=イングヴァイの整備班五人は、彼のエクシードのメンテナンスをした上、私のエクシードまで修理と調整をしてくれた。

 その後は何事もなく目的地に到着した。今回の戦場は防衛線だ。

 セキウリウヲ共和国からの攻撃を受けて、国境に構えた要塞が劣勢を強いられていたのだ。

 輸送艇は、積まれた物資と私たちを残してすぐに飛び去った。レイン=イングヴァイと五人の科学者は、配置されている軍隊とは別働隊のため、別棟を使用する。

 五人の科学者の護衛の任に着いている私も、六人と一緒に別棟に泊まることになった。

 科学者たちは要塞に着くなり、一室に集まって機材の設置を始めると操作を開始した。

 レイン=イングヴァイはここにはいない。戦闘以外の時間は自由のようだ。

 私は行動が許された区域を歩いてレイン=イングヴァイを探した。

 いつ、出撃になるか分からない。その前に話がしたかった。

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