第15話
三日後の午後、私は最前線に向かう補給物資を積んだ輸送艇の中にいた。
最前線に向かう輸送艇なのに軍人は一人も乗ってなく、いるのは研究者のチーム五人と少年が一人。そして私の任務は科学者五人の護衛であり、なぜか少年は含まれていない。
科学者の五人は座席に座って音楽を聞いたり、ゲームをしたりと、それぞれ思い思いに到着までの時間を過ごしている。戦場に行くというのに、まったく緊張感を感じさせなかった。
戦場を知らないがゆえの、その恐ろしさを知らない連中の行動なのだろう。
その時、艇内に緊急アラームが鳴り響いた。私は立ち上がって操縦席に向かった。
「どうしたんですか?」
「敵に見つかった! 数が多すぎる! 振り切れん!」
私の質問に機長は青褪めた顔で答えた。前方を見ると、遠くから軍艦が向かってくるのが見えた。センサーで確認すると、四艦の機影を捉えている。
「私が引き付けます。その隙に迂回をして目的地に向かってください」
「分かった。気をつけろよ。本来、お前の仕事は最前線に着いてから開始するんだからな」
「はい」
機長の言葉に素直に頷くと、私はエクシードの収納してある格納庫に向かった。
「なにかあったのか?」
座席に座って居眠りをしていた少年が、艦の後方に向かう私に問い掛けてきた。
「大丈夫です。必ず送り届けますので座って待っていてください」
私は少年、資料によるとレイン=イングヴァイ君に一言告げると、艦の後部に向かった。
こんな状況も予測して、今日は黒スーツではなく戦闘服の上にコートを着ているだけだ。
私は格納庫に行くとコートをハンガーにかけて、エクシードの元に向かった。
私のエクシードの横にもう一機、赤いエクシードがワンセット、ラックに載っている。レイン=イングヴァイのだろうか? 彼も戦士だから護衛の対象ではない。そういうことだろう。
だからといってここで彼の手を借りるわけにはいかない。彼らは護衛対象なのだから。
私はエクシードを身に着けると、艦の搬入口に向かった。
「開けるぞ」
「お願いします」
格納庫にいた作業員が私に確認をすると、搬入口を開けていく。激しい風が艦内に入り込んでくるが、荷物は固定されているため吹き飛ばされることはない。
「行きます!」
私はエクシードの翼に波動を送り込み、羽撃たかせると一声掛けて飛び出した。
輸送艇の下を潜るように前に出て、私が装備した砲撃型のエクシードで迫り来る戦艦を砲撃するのと同時に、輸送艇は大きく迂回して戦艦の進路から避けていく。
波動砲での砲撃は命中こそしなかったものの、相手の戦艦は速度を落して砲撃の準備に入る。
私は輸送艇とは逆の左から回り込み、戦艦への砲撃を続ける。
戦艦からも砲撃してきたが、こんなに小さな目的に直撃するのは極めて稀だ。
私は空間を利用して上下左右に動き回り、狙いを逸らさせながら砲撃を続けた。
砲撃では私を撃ち落とせない。戦艦からもエクシードを纏った戦士が発進してきた。
相手は五人。偵察隊だったのか戦艦四隻の護衛にしては少ないが、それでも戦況は圧倒的に不利だ。だが、今は輸送艇を最前線に送り届けるのが最優先だ。
私は一秒でも長く引きつけるために、気合いを入れた。
四隻の戦艦は砲撃で味方を撃たないように、上下左右に広がって複数の砲撃を放ってくる。
これだけの距離では当たらないのは相手も分かっている。私の行動を制限するのが目的だ。
五人の戦士が私を包囲しつつ、ライフルで狙撃をしてくる。私は包囲されないように相手から大きく距離を取りながら迎撃し、一人でも倒そうと奮闘する。
だが戦士五人と、戦艦の四隻からの砲撃に、私はどんどん追い詰められて行った。
戦艦の射程外まで逃げてしまえばまだ勝ち目はあるが、それをやると戦艦は輸送艇を追うだろう。それでは本末転倒だ。私は間合いの中で戦闘をしなければならない。
「あっ!」
戦士の一人の攻撃が私のエクシードの右翼を掠めて破壊し、翼が機能しなくなった。
これで加速と機動性を大幅に削られてしまった。逃げられなくなった私に五人が襲い掛かってくる。私は短機関銃に持ち帰ると、五人に向けて発砲した。
(ここまでか……。でも、輸送艇はもう……、えっ? なんで!?)
私はもう目的地に向かったであろう輸送艇を目で追って、思わず瞳を見開いた。もう、視界にも入らない場所まで移動したはずの輸送艇が、こちらに向かってきていたのだ。
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