第13話

「~……!」

 泣いてはいけない。私が泣くのは卑怯だ。だって、みんなはもう泣くこともできない。

 なのに、部屋中に貼られたロルナレンが、ミーナが、ソシリアが、微笑み掛けてくれる。

 それでも私は必死で涙を、声を堪えていた。

 その時、誰かに髪を優しく撫でられた感覚があった。

その途端、私は胸に熱いものが込み上げてきて、涙が、想いが溢れ出してきた。

「あああああああああああああ! なんで……、なんで! 三人が! 楽しかったのに!

 嬉しかったのに! どうして私だけ置いて……! 私も一緒にぃいいいい!」

 一度溢れ出してしまうと、涙も声も止められなかった。こんなのはダメだ。卑怯だ。

 なのに、私は堰が切れたように大声を張り上げ、みっともなく泣き喚いてしまった。

 周りに人の気配が増えているのを感じていたが、私は涙を止められなかった。

 一緒にすすり泣く女生徒の声が聞こえ、教室中は泣き声に包まれていた。

「あの……、これもらってもらえたら嬉しい……」

 黒い髪を三つ編みにした女生徒に声を掛けられて、私が顔を上げると写真を手渡してきた。

 そこには、私とロルナレン、ミーナとソシリアが四人で笑っている姿が撮られていた。

 それを見た途端、私の胸にはさらに熱いものが込み上げてきた。

 お礼を言って女生徒から写真を受け取ると、それを抱き締めてさらに泣いてしまった。

 これまでは心のどこかで仕方がないと割り切っていたが、もう誰かの死を見るのは嫌だ。

私は四人で写っている写真を抱き締め、泣きながらも心の中で一つのことを決断した。

「なんですか? この騒ぎは! みなさん、教室に戻りなさい!」

 教員をしているシスターがやってきて、生徒たちが散り散りに教室へ向かっていく中、私はそっと人の波を掻き分けて理事長室へ向かった。


 窓を背後に立派な机が置かれ、書類棚や、応接セットが設置された、絵に書いたような理事長室に、そこには不釣合いな神父服を着た壮年の男性が、法王のように座っている。

「私は単独部隊への移動を志願します。もう、仲間が死ぬのを見るのは嫌なんです」

 理事長は太くて長い白髪の眉毛を上げて、細くて鋭い猛禽のような目で私を見返してきた。

「良いのかね? そこに行けば本当に孤独になるし、死んでも骨も拾ってもらえないよ?」

 理事長は私の目を真っ直ぐに見据えてきた。その瞳には憂いの光がある。

「構いません。どうせ死ねないですし、こんな生きた屍には相応しい場所です」

 私に掛けられた秘術のことを知っているくせに、理事長は白々しくそんなことを言ってきた。

 私の身を案じてくれているのかも知れないが、とんだ杞憂だ。私の心はすでに死んでいる。

「分かった。君の移動は認めよう。だが、あくまでも仮入隊にしておこう。

 嫌になったらいつでもおいで。またすぐに戻してあげよう」

 理事長は、私には同年代の仲間や友人が必要だと思っているようだ。

 それが、永遠に戦い続けなければならない私の救いになると、本気で思っている。

 だけど、私にとって仲良くなるというのは一緒に戦場に行くということ。

 仲良くなった人の死を見届けるということ。そんなものは孤独よりも辛い拷問でしかない。

「ありがとうございます」

 後半の部分は聴かなかったことにして、移動させてくれることに対してお礼を言い、深くお辞儀をした。これでもう同じ学校に通う女生徒の死を見届けなくて済む。

そう思ったら肩の荷が下りたような気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る